Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

ザールリースリングの旨み

2012-08-20 | 試飲百景
ファンフォルクセン醸造所はTV放送などでの取り上げられ方から興味を持っていた。特に先日見た評論家ピゴの番組でのオーナーの受け応えは十分に印象強かった。その反面、皆さんのネットでの評価は、重心が低くボディー感だけが際立ち、残糖と共にミルキー感までを思い起こさせてと、その悪評価を真に受けていた。試飲においても、出来る限り先入観の無いようなあまりワインを知らない人の意見も十分に取り込む癖が長いうちに身についているから、自らが試さないでも皆の講評でそのワインの味ぐらいは分るのである。

そのような自負から特に飲んでみる必要も感じていなかったのだが、今年はケッセルシュタート醸造所などを飲む機会がありザール地方のリースリングに、ナーへ地方のものと並んで目が行くことが多かった。2011年の酸の弱い年であることもそこに影響していたのだが、今回シュロース・ザールシュタイン醸造所ともう一軒に同行すると言う話になってから、もう一軒はこの住所しかないと迷わずに思った。

その段になってから興味を引いたのは、ホームページの醸造所の紹介のありようで、常識からするとその情報量は微々たるもので画像以外には殆ど情報が無いことに気がついた。敢えて謎を残す宣伝方法ではなく、まだ十年少々の若い醸造所が十分に出来上がっていないことも伺わせて、PCへの配慮以外にも過渡的な印象も受けた。

そこで都合の良い時間に出かけると、想定以上の対応がなされた。些か不遜な言い方をすれば、私などは買い付けのそれでなくともワインの顧客試飲に関しては殆ど専門家と言えるほどの経験者であり、世界の果てまで行ってもその経験値から多くのことが判断できる。それは醸造所の対応から始まって、支払いに至るまでの一連の情報交換やコミュニケーションに凝縮されているので、素人のようなワイン評論家がTVのクルーを伴って試飲にしにいくのとはその試飲の真剣さも質の高さも異なるのである。

どの業界においても同じで玄人と呼ばれる連中は業界内での金の動きに左右されるので我々のようなアマチュアーの厳しい審査を行う意欲も能力も失われている。最もプロフェッショナルなのは、適当な商品を安く買い叩くことが目的の業者の買い付けだけである。

そのような意味からも今回はメディア受けの資料を事後に受け取って、栽培から醸造の裏までの情報をじっくりと嗅ぐことが出来て、その情報交換はお互いに有意義であった。自称隠密の私の立場からするとどうしても高級ワイン協会VDPの方針とそれに従う部分とそれに納得していない部分も聞き出すことになるのであるが、要は熱心な玄人の顧客とのしっかりしたコミュニケーションの必要性である。

ビオ化のなかで、2000年から始めたばかりの地所の買収や改良で、とても気の長い時間が掛かることや、更にドッペルフーダーなどの大型の木樽をロベルトヴァイルにも入れている樽師に作らせて、乾かしてから出来上がるまでの長期的な計画とする。そうして初めて2020年ごろには本格的なビオ栽培と醸造でステンレス樽をも排除できる。

そのような気の長い話を笑い話としてではなく出来るのは私自身がそのようなワイン栽培地域から来ているからであり、まさしく情報を交換である。そして、絞り汁を十時間から十二時間寝かせるのは、レープホルツ醸造所の半分の時間なのである。これはとても興味深く、ある程度知識のある者ならそこからどのような工程で澱引きまでがなされるかも想像を巡らすだろう。

それに関しては、酸の分解と貴腐の関係へと話が及んだが、これは健康な果実の収穫をモットーとするまともな辛口の醸造家ならばとても避けては通れない話であろう。まさしくここに残糖の具合や果実の糖加重に応じたアルコールとのバランス、そして分解されるべき酸の妙味があるのだ。

ある意味とても技術的な課題であり、工業生産においても経営者やしかるべき人物はこうした内容を十分に理解していなければ話にならないのであるが、ドイツの高級ワイン醸造所のなかでも必ずしもそうした体制が整っておらず、当日訪ねたもう一軒の醸造所の実力がその対応力の不足から容易に演繹されるのであった。

つまり最近疑問として関心を持っている貴腐と酸分解に関して具体的な処方を聞くことが出来た。この件に関しては専門文献をネットで調べれば分る訳だが、実際に現場では先に述べたような「時間」で調整される。それは同時に収穫時期の選定となる。

しかし、更に現実的には全て天候任せの手作業となると人手を上手くマネージメント出来るかに掛かってきていて、やはり平素からの投資力がものを言うところであろう。そうしたものを全て含めての価値となるのである。(続く



参照:
ザール渓谷の文化の質 2012-08-18 | 文化一般
山の上に一人立つ気分 2012-07-22 | ワイン

コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

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見せて頂いた資料ですね。 (Saar Weine)
2012-08-20 13:17:29
pfaelzerwein様、こんにちは。


確かに貴腐と辛口とでは果実のあるべき状態が全く違うという話ですよね。


差し上げたヴァーグナーのは如何でしたか?
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貴腐と言うのはボトリティスのこと (pfaelzerwein)
2012-08-20 15:36:02
貴腐と言うのはボトリティスのことで、辛口の場合は健康な果実であることが必要条件ですので、貴腐が生えてしまうと時間の問題なのです。

反対に、全く貴腐が生えない状態でこそ健康な天然酵母として使えるのですが、その状態では酸がまだ分解されていないのです ― 誤解を恐れずに付け足すと赤ワインで乳酸醗酵と言うのはこの過程を人為的に進めるものです。

つまり、貴腐の兼ね合いがリースリングの瓶熟成をも定めるので、偉大なリースリングの十分条件ともなりかねないということを、あそこでお話していました。

つまり、彼女が言うように地所が45haと広いので、次から次へと時期を逃さずに手で収穫していかないといけないということです。

言語だけの問題でなく、話の内容が専門的でしたから全く理解出来なかったかと思います。つまり、英語でいい加減に話してもいいよというようなエバート氏と情報の質の程度が全然異なると言うことですよ。しっかりした情報が出せないと言うことはテプコを挙げるまでも無く詐欺師だと言うことですよ。そうした詐欺師の方が寧ろ一方的な情報としてHPなどに偉そうなことを書きたがるのも世の常です。

それはなぜか?本来のパブルックコミュニケーションはインターアクティヴでなければならず、上のような高度な議論はとてもHPでは紹介し切れ無いと言うことですよ。そうした作業をしているかどうかは、一流の醸造所と二流との差なのです。

ヴァークナーの半辛口を週末に試しました。ベーシック商品ににすれば流石でした。翌日でも残糖感を感じないのが素晴らしい。
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