ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

『本日も 不法滞在』 - 2 ( チャン氏の経歴 )

2017-12-03 17:22:22 | 徒然の記

  著者であるチャン氏はどういう経緯で日本に来たのか、今日はそこから始めてみます。

  ・日本というのは、他のアジア人にとって、観光でもビザを必要とする敷居の高い国である反面、

  ・ある程度の私費を投じてやって来ても、学校へ行きながらアルバイトができるし、投資の元が取れるくらいの、キャリアアップができ、

  ・なおかつ頑張れば貯金までできるという、世界でも数少ない〈 お得な国〉 だと思う。

  ・だから20代後半や30代の男性が、妻子を国に残してまで、留学生となってやって来るのだ。

 格安の海外旅行は何度かしていますが、外国で働いた経験がありませんので、日本はそんなに〈お得な国 〉だったのかと、驚きました。

 観光立国を目指し、近隣諸国からのお客を歓迎すると政府が言い出したのは、ここ4、5年の話です。本が出されたのは今から16年前なので、ずっと以前から日本は、「外国人の入出国」にルーズな国だったことが分かります。

 犯罪者でも悪人でも、お構い無しに入出国できるというのですから、「不法滞在の在日問題」が、戦後72年経っても片づかないはずです。他国に比べ、危機意識のない日本政府ということが分かり、いっそう興味深く読みました。

  ・そういった留学生の例にもれず、私も来日三ヶ月後にはアルバイトを始めた。

  ・新宿歌舞伎町にある、韓国焼肉屋でのホール係だ。

  ・お店の営業は、午後四時から早朝の五時まで。歌舞伎町という土地柄、お客さんは、日本人男性と同伴出勤する韓国人ホステスが多かった。

  ・私は日本語学校に通いながら、歌舞伎町で午後11時まで働いた。

  ・時給850円、まあそんなもんじゃないかと、思われるかもしれない。でも私は大いに不満だった。

  ・何を隠そう私はソウルで自分でお店を経営し、大儲けをしたいい時代を経験していたからだ。

 妹と二人で始めた大衆食堂が大当たりし、大金を得ましたが、人件費を節約し人を雇わなかったため、姉妹揃って体を壊してしまいました。病院代その他の事情で、儲けを全て使った彼女は、生きていくためには、自分の身に何か能力をつけなくてはダメだと一念発起します。

  ・日本以上に強固な学歴社会の韓国では、私のような 〈 短大卒〉 の立場は弱い。

  ・かといって、20代も半ばになろうとする私が、改めてソウルの一流大学に入るのは困難だ。

  ・そんな私に、留学して外国語を身につけるという道は魅力的だった。

 最初彼女はアメリカ留学を考えますが、ビザ取得の困難さと、英語を習得する難しさにつまづきます。アメリカに10年いてもネイティブの英語は身につかないが、日本語なら5年もあればモノになると、経験者の話を聞きます。

 ましてソウルの家族にも近いし、日本の方が 「断然お得 」と、今度もまた彼女は「お得な日本 」 を選びました。

 こいう経歴を持ち、自己発展を志向する彼女ですから、歌舞伎町の焼肉屋では不満がくすぶります。そんなある日、バイト先の店のママの友人がやって来て、こっそり彼女に声をかけます。

 「今うちで、スタッフを一人募集中なんだけど。」そう言って彼は、ママのいない隙に名刺を渡します。赤坂の有名店なので、時給が千円です。「用事ができて、一ヶ月ばかりソウルへ帰ることになった。」と嘘をつき、彼女は新宿から赤坂の焼肉屋へ移ります。

 割り切っているといえば良いのか、自己中心的というべきか、恩義にも人情にも薄い、韓国人らしい身の処し方です。

 戦後の教育を受けた日本人も、「人権人権」「個人の権利」と、利己主義な人間が増えていますから、余り偉そうな批判はできません。批判を後回しにし、彼女の足跡をたどります。新宿から赤坂へ変わり、時給の高い店で元気良く働きます。

 そんなある日、新宿の店にいた厨房のおばさんから、相談を持ちかけられます。

  ・実はおばさんは、オーバーステイ。つまり、滞在ビザの期限が切れた、不法滞在だった。

  ・日本の皆さんは、あまり気づいていないかもしれないが、不法滞在の外国人はそれほど珍しい存在ではない。

  ・本人たちにさほどの罪悪感はなく、一生懸命働いていたら、いつの間にかビザが切れていたという程度の自覚しかない。

  ・おばさんは日本語が話せないが、韓国人租界のような環境で暮らしていると、不法滞在でもさほど不便は感じないらしい。

  ・ただ困るのは、いざ国へ帰ろうとするときだ。ビザが切れているのだから、普通に航空券を買って出国できない。

  ・きちんと学生ビザを持っていて、日本の生活にそこそこ慣れてきた私は、日本でひと稼ぎし帰国することになったおばさんを、十条の入管に連れて行くこととなった。

  ・まさかその日に、私の将来の仕事が決まってしまうなんて、夢にも思わずに

 ドキュメンタリー作家という人がいますが、彼女はアルバイトに精を出す在日韓国人というより、作家の方が適職でないかと思うほど、読ませる文章を書きます。林芙美子の『放浪記』を読んだ時のように、知らないうちに、主人公を応援しています。そんな彼女の文章を、紹介します。

  ・おばさんの知っていた旅行会社には、韓国人のスタッフが二人いた。それだけ韓国人の不法滞在者が、多いということらしい。

  ・入管の中には本人しか入れないというので、私はその旅行会社で、おばさんが出てくるのを待つことにした

  ・すると何が気に入ったのか、そこの部長が私に声をかけてきた。

  ・ここでアルバイトしてみないか。かくしてその場で、面接試験とあいなった。

  ・時給は千円。焼肉屋と同じだ。しかし同じ千円なら、焼肉屋より、旅行会社の方がいいに決まっている。

  ・いろいろな経験が積めるだろうし、何よりもその先に未来が開けているような気がした。

  ・ここなら、自分の力で道を切り開いていける。留学を決意したとき、思い描いていたような仕事に、ようやく巡り合ったのかも・・

  ・ここぞというときの、私の決断は早い。ここで働けるのなら、焼肉屋は明日にでも辞めます ! 

   ・焼肉屋には、正直に事情を話し辞めさせてもらった。突然の退職ではあったが、一週間ほどの間にクラスメートの妹を紹介したし、礼節は尽くしたつもりだ。

 アグメス・スメドレーの『女一人大地を行く』を読み、困難をものともせず生きる主人公に惹きつけられたが、同じような気持ちで読みました。

 チャン氏の紹介を終えましたが、223ページの本のやっと30ベージです。本題に入るのはこれからですが、短い氏の経歴の中にも、私たちの知らない日本が垣間見えました。

 意識せずに氏が語る日本は、私の知りたい日本でした。反日でない韓国人から見た日本、私たち日本人にはなかなか見えない日本です。

 息子たちだけでなく、「ねこ庭」を訪問される方々の参考にもなればと、珍しく謙虚な気持ちになっています。私も自己中心的な人間ですが、氏の強引さには及ばず、勢いに押され、つい謙虚になったのかもしれません。

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