高橋正衛氏著『昭和の軍閥』( 昭和44年刊 中公新書 )を読みました。
氏は大正12年に青森県で生まれ、中央大学を卒業し、巻末の略歴では、元みすず書房取締役、昭和史研究家と書かれていました。4年前に読んだ末松太平氏の『私の昭和史』 ( 昭和38年刊 ) が、みすず書房から出されていました。
高橋氏の著作の中で、末松氏の名前が何度か出てくるので、昭和史の復習をしている気持ちになりました。復習のため、末松氏の略歴を紹介します。
「明治38年北九州市に生まれ、昭和10年小倉中学校、広島幼年学校卒。」「昭和2年に陸軍士官学校卒業、昭和10年に陸軍大尉。」「昭和11年の2・26事件に関与し起訴、禁固四年の判決を受け免官。」
当時の日本には若い彼らが、「昭和維新」や「世直し」を思い詰めるだけの世相がありました。将軍や司令官、連隊長といった上官も、彼らの思いを理解し支持していたことを、末松氏の著書で知りました。氏の著作で忘れられない、文章があります。
「2・26事件を〈赤の仕業〉と思い込ませ、一挙に不人気にして、葬り去ろうとした浅知恵に対しては、今も心、平かでない。」「 〈兵に告ぐ 〉 の起案者の氏名が、今はハッキリしており、NHKに残る録音盤が折に触れ、再三再四放送されている。」
末松氏たち将校の行動を、赤いソ連による扇動だと軍と政府が 作り変え、更に昭和天皇が、「凶暴な将校を、許さない。」と語られたことが最後のダメ押しとなり、「昭和維新」が失敗しました。
部下の兵を思い、上官を敬う軍人だった氏は、覚悟の上でやった行為を後でとやかく弁解すべきでないと、著書で述べていました。事件を語らないことで、他人に嫌疑が及ぶことを避け、このため氏の著書は肝心のところが曖昧だった、という読後感がありました。末松氏が語らなかった部分を、高橋氏が『昭和の軍閥』で詳述していますから、図らずも有意義な本になりました。
私を含め憲法改正を望む多くの者は、国が軍を持つことを当然とし、このゆえに自民党を支持しています。氏の著作には、日本が軍を正式に有するに際し、繰り返してはならない戒めが述べられていました。
日本が軍を再建すると、国内における最強組織となり、「独走する軍人の組織」となる可能性があります。神道の祭司として、天皇が権威の頂点におられますから、「皇軍」や「天皇の大権」という言葉がよみがえり、軍人の横暴を許す事態につながる心配も、無いとは言えません。
反日左翼の政治家や活動家たちが、憲法改正に反対し、軍を恐怖する気持ちを理解いたしました。一旦軍の組織が確立されますと、彼らがやっている利敵行為は、スパイ防止法で取り締まられるでしょうし、捏造と偏向の報道は許されなくなります。政界、官界、学界、法曹界、経済界、マスコミの世界と、やりたい放題をしてきた彼らは、生きる場所が無くなります。
多くの国民が望むところですが、諸刃の刃でもある軍につき、そろそろ本気で考えるときに来ているような気がします。詳細な点は、次回の書評からといたしますが、基本事項は、二人の著者が示していますので紹介します。
1. 軍の統帥権を天皇直轄とせず、内閣の中に置くこと。
2. 軍の指揮権は、内閣総理大臣に属するものとする。
3. 陸軍・海軍・空軍と、機能的に別組織となっていても、陸軍大臣、海軍大臣、空軍大臣を置かず、国防大臣1名とすること。
4. 情報機関は、内閣総理大臣の管轄とする。
5. 軍の政治介入を防止する法の整備をする。
東京裁判で、東条元首相が証言したように、陸軍大将でもあった東条氏に、海軍の情報がほとんど入らなかったという愚行を繰り返してはなりません。陸軍は長州、海軍は薩摩人脈があり対立していたため、軍としての統一政策が取れなかったという経緯がありました。
自衛隊に、そのような派閥はなさそうですが、別の派閥が生じていると聞きます。詳しく知りませんが、「制服組」と「背広組」の対立を何かの本で読みました。敗戦の経験を踏まえ、シビリアンコントロールの思考から、制服組の上に立つ背広組、という組織が作られました。
簡単な言葉で言いますと、武官が文官の下位に立つ組織です。の厳しい訓練と、緊張の実働配置についている現場の自衛官より、財務・経理・人事など、事務処理を担う自衛官の方が、優位に立っています。大臣折衝や広報活動などは背広組が行い、制服組は、表に顔を出しません。
敗戦直後、GHQの支配下にあった時なら、疑問は言えなかったのでしょうが、73年間もこの状況だとすれば、隊員で無い私でも違和感を覚えます。会社の組織で例えますと、汗を流す現場の社員を、事務所にいる社員が指揮・命令するような形になります。
憲法が隊員の存在を否定し、日陰者にしていますのでこういう形になるのですが、現場の自衛官の士気は、果たして保たれているのでしょうか。
専守防衛とは言いながら、一旦ことが生じれば命をかける隊員なのに、現場経験のない背広組の下位に置くという組織は、誰が見ても不都合です。事前の準備なしに、憲法が改正され、軍が正式に再建されますと、これまでの矛盾が一気に表面化し、国政の乱れの原因となる恐れもあります。
私は、2冊の本を読みながら、むやみに憲法改正を急がず、再建後の軍が、正しく機能できるよう、事前の検討と環境整備がいると思わされました。愚かな野党が、今のように憲法論議を拒絶し続けるとすれば、令和の日本には光が見えません。文在寅大統領の韓国は敵意を日本へ向け続け、このおかしな人物がいつ衝突の火種となるのか、気が抜けなくなっています。
中国、ロシア、北朝鮮、韓国、米国、EUなど、国際情勢を考えますと、自衛隊が現状のままで良いはずはありません。それでも憲法改正を拙速にしてはならないと、国民である私たちにも、難しい判断が迫られています。
息子たちに言います。令和の日本は、お前たちの時代です。家族の幸せと平和を願うのなら、明日からの書評を共に考えてください。