ねこ庭の独り言

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平成官僚論

2015-10-16 21:56:06 | 徒然の記
 大前研一氏著「平成官僚論」(平成6年刊 (株)小学館)を読み終えた。
どのような内容かは、目次を引用すれば一目瞭然だ。第一部「新・霞ヶ関官僚解体論」、第二部「天下り官僚不要論」、そして「日本を滅ぼす官僚独裁主義」と来て、大蔵省、農林水産省、外務省と、政府の各省が遠慮なく批判される。

 官僚には「省益あって国益なし」と昔から言われているが、実例を挙げて氏が語ってくれる。各省による規制が社会の隅々にまで及び、許認可の利権で官僚と政治家が不当な利益を手にいれる。諸外国では市場の自由に任されていることが、わが国では微に入り細に入り役人たちに干渉される。
地方に自由な裁量権があるのならまだしも、全てが中央官僚の手に集約され、国民の暮らしは膨大な規制の中で営まれている。よくもまあ、みんなが黙っていると呆れ、これでは社会主義体制国家そのものでないかと批評する。なるほどそれで分かった。欧米の記者たちが「日本は民主主義国ではない。」「社会主義体制の国だ。」という根拠は、官僚機構が張り巡らせる「規制」の膨大さを指していたのだ。

 政府は余計な干渉をするな、全てのことは市場に任せ、国民の活動を自由にすべしと、何時だったか読んだ本でフリードマンが主張していたのを思い出した。大前氏もグローバル経済の信奉者で、新自由主義者と言われている。経済的合理性を追求する彼は、利益を生まないものや非効率的なものを、無駄として切り捨てる。

 明治時代に作られ、とっくに役目果たしたはずの北海道開発庁がなぜ今もあるのか、蚕糸砂糖類価格安定事業団や畜産振興事業団は、返って国内産業の発展を阻害しているのでないかと、うなづかずにおれない意見ばかりだ。業界に迎えられるだけでなく、自分たちが作った外郭団体に平均年俸2000万円で天下り、退職すれば多額の退職金が得られる仕組みが作られている。
国民からどんなに批判されても、総理も所管大臣も手出しができず、廃止も縮小もされずに存続し続ける不思議さ。不景気で馘首される国民が自殺しても、正社員が少なくなり、パート・アルバイトの若者が安月給で結婚ができなくても、官僚たちはぬくぬくとしている。怒りさえ覚えて読んだのは、こうした高級官僚たちの天下りだった。

 また彼は、狭い日本で農業をやらず、アメリカでもオーストラリアへでも行けば、日本より安く、うまい米が作られると提案する。蚕糸でも砂糖でも少数の従事者を保護するため、無駄な補助金を使うくらいなら、海外から安い製品を買い、ダメージを受ける彼らには転職補助をすれば良いと、合理的な提案をする。

 役人を養うために税金を払い、無用な規制に縛られる必要はどこにもない。世界一高い給料の国民を雇うより、安い労働力のある外国へ企業はどんどん出て行く方が賢明だ。明快な、氏の意見である。

 何度も同意したが、しかし、氏の意見には日本への愛が感じられなかった。竹中氏と似たような意見の彼は、どこかでつながりがあるのかないのか。私は知らない。個別には正論であっても、全体として進めていけば、彼らの論の行き着く先は「弱肉強食」の世界。民族も国も歴史も否定する、経済優先の「金儲け第一」の世界だ。

 日立製作所を退職して、氏は米国のマッキンゼー社に入り、日本支社長、アジア太平洋地区会長にまでなっている。昭和18年生まれで、私と同年代だが、積極果敢で優秀な人物であるのは間違いない。マッキンゼー社は米国、欧州、アジア、南米、東欧など60ヶ国に105 以上の支社を持つ、グローバル戦略業のコンサルティング会社である。

 要するに氏は日本人でありながら根っからのグローバリストで、己の才能と意思と努力の世界に生き、日本という国は彼の中では小さな比重しか占めていない。彼方の未来に国家も民族もない、グローバルな世界ができるのかもしれないが、私はそんな地球に生きていない。国益のために各国がエゴをむき出しにし、貶めたりけなしたり、握手したり殴り合ったりしている国際社会で暮らしている。

 だから私は、氏の意見に同調しない。アメリカやオーストラリアへ日本の農家が行き、土地を買い安くてうまい米を作っても、反日の嵐が吹けばどうなるというのだろう。かってアメリカは日本人の土地や財産を奪い、砂漠の荒れ野の収容所へ追いやったでないか。いったん風向きがかわると、平気で人種差別をするというのが国際社会の常なのに、氏の意見は単純すぎる。

 日本の官僚組織の批判をする氏は、アメリカやドイツではもっとうまくやっていると言う。
だが私は、官僚組織なんて、どこの国でも似たり寄ったりのはずだと思っている。税金として多額の金を集め、それを右から左へと人間が動かすのだから、長い間には欲が出てくる。どうしたって利権やごまかしが生じてくる。だからこそ、長く続けば「権力は腐る」という名言が生まれている。

 かって読んだフリードマンの本から、アメリカの官僚社会への批判をもう一度引用してみよう。
「1953年に作られた、健康・教育・厚生省は、当初の予算が20億ドル。すなわち軍事費支出の5%より、少なかった。25年後の1978年には1600億ドルの予算となり、陸・海・空三軍を合わせた全予算の1.5倍になった。これより大きな予算は、合衆国政府の全予算か、ソ連のそれしかない。」
「健康・教育・厚生省は、いわば巨大な帝国を管理しており、その権力はアメリカの隅々にまで浸透している。」

 中身や形が多少変わっているとしても、本質は同じだ。
業務に精通し法令を熟知している官僚は、よほどの聖人でない限りどこかで金の魔力に足を取られてしまう。だから良いと認めているのでなく、誰がやっても同じ泥沼なのにあまり一方的に攻めて良いのかと、私が氏に言いたいのはここなのだ。言葉の節々に日本を軽視する響きを感じたので調べてみると、沢山ある氏の肩書きの中にこんなものがあった。スタンフォード大学客員教授、梨花女子大学名誉教授、高麗大学名誉教授、中国・重慶市、天津市経済顧問というものだ。

 梨花女子大と高麗大学は韓国の大学である。日本を散々貶し、韓国を常に弁護した朝日新聞の論説主幹だった若宮氏は、退職後に韓国の東西大学の教授になった。大前氏が同じだとは言わないが、反日の大学に籍を置く人物が語る言葉に信が置けなくなっている私だ。

 氏の著書の官僚批判には、数字の根拠があり、でっち上げでもないから反対はしない。
しかし攻撃されている官僚諸氏については、別の考えをしている。平成21年の9月から3年間、民主党が政権の座にいた。この3年間に、鳩山、菅、野田という3人の反日・売国の総理が国の政治をかき回した。こともあろうに、韓国や中国の意のままになって私たちを失望させた。

 けれども愚かな総理と危険な反日の大臣や議員たちを政権に座らせても、日本の政治を根底から壊させなかったのは、官僚たちが頑張ったからだ。外交文書を全て公開するとか、韓国や中国に謝罪と補償をやり直すとか、一方的な譲歩をする彼らに、じっと耐え忍んで日本の国益を守ったのは、大前氏が批判して止まない官僚たちだ。
財政破綻をさせるなと、安部総理を民主党が攻めているが、彼らが政権の座にいた時、どれほど無茶なバラマキをしたか。次の数字が証明している。

 歴代総理の国債発行額の比較を、時系列に並べてみる。 1. 安部総理 27.5兆円。2. 福田総理 25.4兆円。3. 麻生総理 33.2兆円。4. 鳩山総理 44.3兆円。5. 菅総理 44.3兆円。6. 野田総理 44.6兆円。
国民の人気取りに金をばら撒き、財政を平気で破綻させていたのは民主党だったとわかる。

 こんな政権が続き、日本の国が台無しにされるくらいなら、時の権力者に逆らっても国の根幹を守った官僚たちを評価したい。天下りで彼らが高い報酬を得ても、安いものだと私は言いたい。他国の政府役人たちの、国を傾けるような収賄や公金横領に比べたら、日本の官僚のそれはまだ我慢の範囲ではなかろうか。

 慎ましい年金暮らしの自分にすれば、とても許せない官僚の贅沢ではあるが、それでもこれ以上大前氏に言わせたくないという気になった。へそ曲がりのする単なる反対でなく、どちらが日本を守っているのかという視点からの意見だ。大前氏か、官僚諸氏なのか。

 私には、官僚諸氏の方だと見えてならない。


 すっきりと割り切れているのでないが、今宵の結論である。
願わくばわが日本の官僚諸氏よ、国家百年の計のため、国民の信頼と負託に使命感をもって当たってもらいたい。そのための対価であるとすれば、外郭団体も天下りも決して高すぎる浪費ではない。
コメント (4)
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