OK元学芸員のこだわりデータファイル

最近の旅行記録とともに、以前訪れた場所の写真などを紹介し、見つけた面白いもの・鉄道・化石などについて記します。

古い本 その140 古典的論文 長頚竜類 6

2023年04月21日 | 化石
 やっとのことで、長頚竜類が終わる。あまり有名ではない3属を紹介する。まず、Brancasaurus
⚪︎ Wegner, Theodor, 1914. Brancasaurus brancai n. g. n. sp., ein elasmosauride aus dem Wealden Westfalens. Branca-Festschrift 235-305, Leipzig.(新属・新種Brancasaurus brancai、WestfaliaのWealden層からのElasmosairus科の一種)(未入手)
 単行本で、インターネットでは公開されていない。著者のTheodor Wegner(1880−1934)は、ドイツの古生物学者。献名されたBrancaという人は、Carl Wilhelm Franz von Branco = Wilhelm von Branca(1844−1928)で、ドイツの古生物学者。記載論文は見られなかったが、標本は最近の文献で見ることができる。

521 Brancasaurus brancai Wegner. holotype (Sachs et al, 2016による)
 
 よく揃った標本で、全身の様子がわかる。図を引用した論文は次のもの。
⚪︎ Sachs, Sven, Jahn J. Homing and Benjamin P. Kear, 2016. Reappraisal of Europe’s most conplete Early Cretaceous plesiosaurian: Brancasaurus brancai Wegner, 1914 from the “Wealden facies” of Germany. Quarterly Journal of the Geological Society. Vol. 78: 285-298, pls. 14-15.(ヨーロッパで最も完全な前期白亜紀の長頚竜類の再評価:ドイツの“Wealden 相”からのBrancasaurus brancai)(一部未入手)
 近年の論文なので、ネットで見ることができるが全部をダウンロードするのは差し控えた。Brancasaurus属についてまとめておこう。

Brancasaurus Wegner, 1914. 模式種:Brancasaurus brancai Wegner, 1914.
産出地:Westfalia, ドイツ ”Wealden層” ジュラ紀

 最後は1922年の二つの属が掲載された論文。
⚪︎ Andrews, Charles William 1922. Desceiption of a New Plesiosaur from the Weald Clay of Berwick (Sussex). The Quarterly Journal of the Geological Society of London. Vol. 78: 285-298, pls. 14-15.(SussexのBerwickのWeald粘土層からの新種Plesiosaurの記載)
 この論文の中にEurycleidusLeptocleidusという二つの属が記載されている。294ページにEurycleidusが提唱され、模式種としてEurycleidus arcuatusが記されていて。肩帯のきれいなスケッチが295ページにある。

522 Andrews, 1992. P. 295. Eurycleidus arcuatus肩帯

 図の上は鎖骨弓(clavicular arch)の下面観となっているが、おそらく前面観。下は上面(背面)観である。
 Leptocleidus属は296ページに現れ、Leptocleidus superstesが模式種としてあるようで、二枚の図版はこの種類だけ。本文では新属新種の主張はされていないが、図版説明では、Plales 14-15にLeptocleidus superstes, gen. et sp. nov.となっている。

523 Andrews, 1992. Pl. 14. Leptocleidus superstes

 Pl. 14で図示されているのは、上が頭骨後部で、左が右側面、右は口蓋面。中列は二個の頚椎、下は後部頚椎から腰椎の脊椎列の右側面である。

524 Andrews, 1992. Pl. 15. Leptocleidus superstes

 Pl. 15は、左が肩帯で、右の一番上と一番下に同じ肩帯の前面観と右側面観が示されている。中央は右上腕骨、その右は二本の腹肋骨。なお、Wikipediaにこれら二枚の図版が引用されているが、そのキャプションの骨名。方向にはいくつかの誤りがある。
 模式種のうちEurycleidus arcuatusは、Owenが記載した種類で、文献は次のもの。
⚪︎ Owen, Richard, 1840. Report on British Fossil Reptiles. Report of the Ninth Meeting of the British Association for the Advancement of Science 1840: 43-126.(イギリスの化石爬虫類の報告)(既出)
 ずいぶん長い文章で、Part 1. としてEnaliosauria(つまりPesiosaur + Ichthyiosur)という見出しがあるが、Part 2以下はない。つまり、後で続編があるとしてもここではこの二つのグループだけを扱っている。それぞれは単一の属で、Plesiosaurus(16種:Owen記載が13種、Conybeare 2種、Cuvier 1種)Ichthyosaurus (10種:Owen記載が5種、Conybeare 4種、Könich 1種)がリストアップされている。もちろんPlesiosaurus arcuatusが出てくる。
 これらとは別に、SeeleyがPlesiosaurus arcuatusを1892年に図示しているので、それを示しておく。

525 Seeley, 1892. Figs. 2,3. Plesiosaurus arcuatus= Eurycleidus arcuatusの鎖骨弓

 上の図はPlesiosaurus arcuatusの鎖骨弓で、上が腹側、下が内側である。両側の鎖骨の間を間鎖骨が繋いでいるのがわかる。ところでこの「内側」を表すのに、visceral aspect(内臓側観とでもいうべきか)という珍しい用語を用いている。配置の関係で、キャプションの位置と方向をアレンジした。

 以上をまとめておく。

Eurycleidus Andrews, 1922. 模式種:Eurycleidus arcuatus (Owen)(=Plesiosaurus arcuatus Owen)
産出地 Gloucestershire Bitton(イギリス)のLias層
Leptocleidus Andrews, 1922. 模式種 Leptocleidus superstes Andrews, 1922.
産出地:SussexのBerwick(イギリス)のWeald粘土層 

 以上で長頚竜類の1924年までに記載された属の調査結果を終わる。Seeleyの活躍が目立つ。ここで紹介した14属のうち6属に名前をつけ、この類の分類の重要な形質が肩帯にあることを記して研究のスタンダードを作った。

古い本 その139 古典的論文 長頚竜類5

2023年04月13日 | 化石

 次に記載された長頚竜類の属はCryptoclidusで、論文はこれ。
⚪︎ Seeley, Harry Govier. 1892. The Nature of the Shoulder Girdle and Clavicular Arch in Sauropterygia. Proceedings of the Royal Society of London vol. 51: 119-151.(Sauropterygiaの肩帯と鎖骨弓の性質)
 30ページ以上の長い論文で、4章からなる。I章「骨の用語」(§1. In Ichthyosauria、§2. In Sauropterygia、§3. 鎖骨弓の骨名用語)II章「Plesiosaurus科の鎖骨弓」(§1. Plesiosaurus科の範囲と特徴、§2. 鎖骨弓)III章「Elasmosaurus 科の鎖骨弓」(§1. Elasmosaurus 科の範囲と特徴、§2. 発見されたElasmosaurus類の鎖骨弓)IV章「分類」である。Seeley はこの論文で、Plesiosaurでは肩帯の形態を主な分類の目安にするという方法論を確立した。
 Plesiosaurの肩帯は三対の骨で構成される。前から鎖骨・肩甲骨・烏口骨。肩甲骨と烏口骨の接する線の最も外側の側面に、上腕関節窩がある。長頚竜類では肩甲骨と烏口骨の間には窓が開いている。この類の特徴は、これらがすべて正中線でぶつかっていること(鎖骨は通常中央に間鎖骨を伴う)。
 145ページにCryptoclidus platymerusの命名が出てくる。しかし、文中ではMuraenosaurus属の亜属としている。Fig. 13のキャプションでは、この種類をMuraenosaurus (Cryptoclidus) platymerusと表記している。その特徴は、左右の鎖骨が中央で関節で接していて、間鎖骨が見当たらない、というもの。

516 Seeley, 1892. Fig. 14. Cryptoclidus platymerus 肩帯

517 Seeley, 1892. Fig. 14. Cryptoclidus platymerus 中央の丸い面は関節面

 この図は、前の図の上端(前端)の鎖骨の対を示したもの。おそらく二図とも背側(内側)であろう。関節面が向き合うためには、この二つの骨は相当内側にカーブした形で対応していたのだろうか? それとも間鎖骨が挟まっていたのだろうか? この図は産状を示しているのであろうか? 
 Cryptoclidusについてまとめておく。
Cryptoclidus Seeley, 1892. 模式種:Cryptoclidus platymerus Seeley, 1892.
産出地:Oxford Clay? In the Leeds Collection. イギリス Late Jurassic

 同じ年に、Seeleyはもう一つの属を記載しているという資料がある。それはPicrocleidusというもので、1892年の記載となっているのだが、この年の論文が見つからなかった。ここに引用した1892年の論文では、Picrocleidusの模式種としているP. beloclisが、もとのMuraenosaurus beloclisとして出てくるので、別の論文があることになるが、ここでは誤りの原因を推理した。その年に当たる1909年のところで述べる。

 次の属はDolichorhynchopsで、論文は下記のもの。
⚪︎ Williston, Samuel Wendell, 1902. Restoration of Dolichorhynchops osborni, a new Cretaceous plesiosaur. Bulletin of ths University of Kansas, Science Bulletin. vol. 1, No. 9: 241-244, pl. 11.(白亜紀の長頚竜類新種 Dolichorhynchops osborni の復元)
 記載は短くて、はっきりいえば特徴を記した部分はあまりない。論文ではこの全身骨格を復元したことが強調されている。

518 Williston, 1902. plate 11. Dolichorhynchops osborni 復元骨格

Dolichorhynchops Williston, 1902. 模式種:Dolichorhynchops osborni, Williston, 1902.
産出地:Kansas州西部 アメリカ のチョーク層(白亜紀)

 次の属は、Tricleidusで下記の論文で記載された。
⚪︎ Andrews, Charles William. 1909. On some new Plesiosauria from the Oxford Clay of Peterborough. The Annals and Magazine of Natural History. Vol. 4: 418-429,(PeterboroughのOxford Clayからの新種長頚竜類について)
 Oxford Clayからすでに何種類もの長頚竜類が報告されていた。ここではその中のElasmosaurus科にすでに知られていた3属:MuraenosaurusPicrocleidusCryptoclidusCryptocleidusと間違って綴られている)に加えて、新属新種を報告している。

519 Andrews, 1909. Fig. 1. Tricleidus seeleyi holotype: 肩帯、背側

 新種名はSeeleyに献名されているぐらいだから、主な分類上の着目点である肩帯の図が真っ先に示されている。
 Tricleidusの記載に続いて、Picrocleidusを新属として記載している。前に記したように、この属はSeeley. 1892の命名としている資料があるが、疑わしい。Seeleyの論文をよく読んでいると思われるAndrews が、ここで新属としている以上、この情報が正しそう。模式種は P. beloclisで、SeeleyがMuraenosaurus beloclisとして1892年に記載した。これが間違って属の命名とされたのでは?

520 左:Seeley, 1892 右Andrews, 1909. いずれもPicrocleidus beloclis (Seeley)(=SeeleyのMuraenosaurus beloclis)の肩帯 上面

 Andrewsは見ている方向として、「from above」を使っている。正しく記載するなら「背側」となる。
 Charles William Andrews (1866-1924) は、大英博物館で古脊椎動物学の担当をした。 Fayumの始新世古脊椎動物の記載で有名。繰り返すが、アメリカのRoy Chapman Andrews(インディー・ジョーンズのモデルの一人)とは別人。
 まとめておこう。
Tricleidus Andrews, 1909. 模式種:Tricleidus seeleyi Andrews, 1909.
産出地: Oxford Clay イギリス Jurassic
Picrocleidus Andrews, 1909. 模式種:Picrocleidus beloclis (Seeley, 1892)(=Muraenosaurus beloclis Seeley)
産出地: Oxford Clay イギリス Jurassic

四射サンゴの研磨

2023年03月25日 | 化石

 昨年池袋で入手した四射サンゴ化石の断面を見ることにした。標本はこれ。

1 「Horn Coral」モロッコ産 シルル紀? (再掲)白線は切断場所

 二個のサンゴ化石で、ラベルには次のように書いてある。「Horn Coral +400 MYO Silurian Age Atlas Mtns, Morocco」。Horn Coral というのは「角型のサンゴ」古生代は間違いないから、四射サンゴである。次のMYO(Million Years Old)4億年前、シルル紀というのは少し矛盾していて、4億年ならデボン紀で、4億1600万年前までならシルル紀。概数なのかな。産地のHigh Atlas というのはアトラス山脈の高いところという意味ではなく地質用語。モロッコは東西に走る4本の大きな断層帯が走っていて、北からRif, Middle Atlas, High Atlas, Anti Atlasという区分になっている。High Atlasの中で、古生代の地層があるのは大西洋から少し入ったあたり。この辺りの古生代サンゴ類の論文は見つけられなかったので、属名などの候補はない。切ったのは左の標本。

2 モロッコの地質(概略)
 凡例:国名SPスペイン・ALGアルジェリア 海 Med地中海 Atlantic大西洋 地質 下の三つは後ろのAtlasを省略 地名 CasカサブランカCouサメ化石産地のクーリブガ 大幅に簡略化してある。

 標本を入手したのは、断面を研磨してみようというわけ。外壁も失われているし、種名もわからない。というかあまり興味もない。石灰岩の研磨は学生時代によくやっていたから難しくはない。しかし、それは機械と材料が揃っているときの話で、家でやろうと思うと簡単ではない。博物館で切断だけでもしてもらおうかとも思ったが。カッターは一度使うとお掃除が必要だから忙しい学芸員の手を煩わせるのも...というわけで、自宅で切った。最初は金鋸で始めたが、進まないのでダイヤモンドのついた糸鋸を買ってきた。

3 標本のカット 持ちやすいようにクランプを付けている。

4 カットした標本 最後に残ったところが見える

 糸鋸を使うと、カット面が平面にならない。そうなると次の段階で手間がかかるからできるだけ平面になるように。まず荒砥で平面を作り、中砥で面を細かくする、さらに細砥で磨いた後クレンザーで仕上げる。研究室ならターンテーブルを使ってすぐできるが、手作業ではめんどう。それに油断すると研磨面が丸くなってしまう。

5 砥石で磨いたところ。ほとんど何も見えない。

6 研磨面写真 少し見えてきた。

7 研磨面をスキャンして画像処理

 なんとか見られるくらいにはなったが不満。その原因は二つあって、研磨が十分でないことと、化石がかなり結晶化していること。どっちにしても種類はわからない。中軸構造はよくわからないが、もう一つの標本の風化面ではなさそう。ないのなら石炭紀以降の可能性は低くなる。こういう黒い石灰岩は、日本ならデボン紀が多くて、シルル紀のはもう少し明るい色の石灰岩が多いのだが、それがモロッコに通用するとは思えない。最初の写真でも結晶化が進んでいることはわかるのだから、化石の入手の段階で選択ミスがあった。今年末の化石ショーで細チャレンジしようかな。

古い本 その138 古典的論文 長頚竜類4

2023年03月21日 | 化石
 前回Muraenosaurus について短く書いたが、著者Seeleyは、同じ雑誌の後の方のページに三つの属を記載した。論文は下記のもの。 
⚪︎ Seeley, Harry Govier 1874. Note on some of the Generic Modifications of the Plesiosaurian Pectoral Arch. Quarterly Journal of the Geological Society of London. Vol. 30: 436-449.(長頚竜類の肩帯のいくつかの属ごとの変異について)
 文中にPlesiosaurus, Eretmosaurus (n.), Colymbosaurus (n.), Muraenosaurus, Rhomaleosaurus (n.), の5属の肩帯を比較している。属名の後に(n.)としてあるのは新属の意味。Muraenosaurusが新属ではないのは、同じ雑誌の前の方のページですでに新属としたのだから。幼いカメ類の腹甲との比較がされているが、要するに長頚竜類の肩帯の骨が、他の爬虫類の肩帯の各構成骨とどのように対応するかということ。この論文では以前にこれについて論じた何人かの「大御所たち」の図を紹介して比較している。Owen (Fig. 4), Huxley (Fig. 5), Conybeare (Fig. 6), Hawkins (Fig. 7), の図を書き直した上で、著者自身の図((Figs. 8-13)を示している。

 このように文中図がたくさんあるが、いずれも復元図で、化石実物の図はない。まず、Eretmosaurusの図。

512 Seeley, 1874. Fig. 9. Eretmosaurus 肩帯復元図

 こういう模式図的な図ではどうかな。注記があってLeocestershireのLias層の標本では「肩帯構成骨は保存が悪いので、これに関する解釈はあとで述べたい」としている。含まれている種については、「OwenがMonograph of Lias Plesiosaursで記したPl. rugosus」を挙げている。年号が書いてないが、おそらく次のもの。
⚪︎ Owen, Richard. 1865. Monograph of the Liassic Formations. Part 1. Sauropterygia. Palaeontgraphical Society, Monograph vol. 17: 1-40, Tabs. 1-16. (Lias層の鰭竜類モノグラフ)
 確かにその34ページにPlesiosaurus rugosus Owenという見出しがある。
 一方、WikipediaではPlseiosaurus rugosusの記載論文として次の文献を挙げている。
⚪︎ Owen, Richard. 1840. Report on British fossil reptiles. Report of the Ninth Meeting of the British Association for the Advancement of Science, Reports on the Researches in Science: 43-126.(イギリスの化石爬虫類の報告)
 この中にも確かにPlseiosaurus rugosusが出てくる。全部で84ページの長い論文で、43ページから開始され、すぐに(45ページ)Part 1, Enaliosauria(Plesiosauria + Ichthyosauriaにあたる)が開始される。時代的に当然Plesiosaurius Ichthyosaurusしか出てこない。この群の特徴が説明され、クジラ類との形態的な類似が言及されている。文中でPlesiosaurの複数形としてPlesiosauriがでてくるのが面白い。57ページからPlesiosaurus属に含まれる種類の話に入る。出てくるのは P. Hawkinsii (p. 57), P. dolichodeirus (p. 60), P. macrocephalus Conybeare (p. 62), P. brachycephalus (p. 69), P. macromus (p. 72), P. pachyomus (p. 74), P. arcuatus (p. 75), P. subtrigonus (p. 77), P. trigonus, Cuv. (?) (p. 78), P. brachyspondylus Conybeare (p. 78), P. costatus (p. 80), P. doedicomus (p. 81), P. rugosus (p. 82), P. grandis (p. 83), P. trochanterus (p. 85), P. affinis (p. 86), で、このぺージからIchthyosaurusに進む。つまり16種を記録しているのだが、1種類がCuvierの, 2種類がConybeareの記載、残りがOwen自身の記載だという。この論文をそれぞれの初出論文だとしていいのだろう。余談だが、Plesiosaurus rugosus はSeeleyが新属Eretmosaurusを作って、Eretmosaurus rugosus (Owen)となったが、1994年に標本が不備であるとしてneotypeを指定された。
⚪︎ Brown, David S. and Nathalie Bardet. 1994. "Plesiosaurus rugosus Owen, 1840 (currently Eretmosaurus rugosus; Reptilia, Plesiosauria): proposed designation of a neotype." Bulletin of Zoological Nomenclature 51.3 (1994): 247-249.(未入手)

次はColymbosaurusの図。

513 Seeley, 1874. Fig. 12. Colymbosaurus 肩帯復元図

 Eretmosaurusよりはずっとマシだ。次は前の論文で新属としたが、図のなかったMuraenosaurus

514 Seeley, 1874. Fig. 13. Muraenosaurus 肩帯復元図

 Seeley, 1874で新属とされたうち残るRhomaleosaurusの図はない。この属の模式種は、1863年にPlesiosaurus cramptoniとして記載されていた種類。その論文は次のもの。
⚪︎ Carte, Alexander and W. H. Bailey, 1863. Description of a new species of Plesiosaurus, from the Lias, near Whitby, Yorkshire. With plates. The Journal of the Royal Dublin Society , Vol. IV, pp. 160-170, pls.?.(YorkshireのWhitby周辺のLias層からの新種Plesiosaurusの記載)(未入手)
 Dublin(アイルランド)のジャーナルであるが、産出地はイギリスの北海側の中央部付近である。非常によく揃った標本らしく、レプリカのスケッチがある。

515 Plesiosaurus cramptoni標本のレプリカ(Henry Ward’sのカタログ 1866から)

 上の図は次の論文にある。
⚪︎ Davidson, Jane, P. 2005. Henry A. Ward, "Catalogue of Casts of Fossils" (1866) and the Artistic Influence of Benjamin Waterhouse Hawkins on Ward. Transactions of the Kansas Academy of Science, vol. 108, nos. 3/4: 138-148. (1866年の「化石レプリカカタログ」とBenjamin Waterhouse Hawkinsが与えた芸術への影響)(未入手)
 1851年の大博覧会で、ロンドンの水晶宮に恐竜のモデルを展示した話は有名だが、その後Benjamin Waterhouse Hawkins(1807−1894)作のコンクリート製の化石レプリカを置いたらしい。詳しいことはここの本題から離れるので興味ある方はお調べを。
 元に戻って、1874年にSeeleyは中生代海生爬虫類などに関する論文を連発した。まず、Muraenosaurusの記載、二番目がここに挙げたGeneric Modification、そのあとワニの脊椎骨に関するもの、魚竜Ophtalmosaurusの記載、そして鳥類のMegalornis記載である。残念ながらこの最後の3つは前に記したように図書館の原本に欠けているところがあって入手できなかったが、目次に掲載してあるのは確認した。いずれも発行日時は1874年2月1日である。アクセス料金をかければ入手可能と思われるが、今回はしない方針。まとめておこう。

Muraenosaurus Seeley, 1874a 模式種:Muraenosaurus Leedsii, Seeley, 1874a
産出地 Huntingdonshire イギリス Jurassic
Eretmosaurus Seeley, 1874b模式種:Eretmosaurus rugosus (Owen, 1840) = Plesiosaurus rugosus Owen
産出地 Leicestershire イギリス Jurassic
Colymbosaurus Seeley, 1874b模式種:Colymbosaurus megadeirus (Seeley, 1869) = Plesiosaurus megadeirus Seeley
産出地 Oxford Clay, イギリス Jurassic
Rhomaleosaurus Seeley, 1874b模式種:Rhomaleosaurus cramptoni (Carte et Bailey, 1863) = Plesiosaurus cramptoni Carte et Bailey
産出地 Kettleness, near Whitby イギリス Jurassic

古い本 その137 古典的論文 長頚竜類3

2023年03月13日 | 化石
 次の属に行く前に、一つ追加する。1865年にLeidyは次の論文を書いた。
◯ Leidy, Joseph, 1865. Cretaceous reptiles of the United States. Smithsonian Contributions to Knowledge. vol. 14, no. 192: 1-135, pls. 1-20. (アメリカの白亜紀爬虫類)
 この論文では多くの爬虫類を扱っているが、「恐竜」という分類目を表題に使っていないし、いくつかの他の分類群のものがワニに入れられているようだ。まだしっかり読んでいないので、ここで扱っている長頚竜類のどれが入っているのか調べていない。少なくともCimoliasaurus magnus, Discosaurus vetustus, Piratosaurus plicatus の3種類が出てくる。最初の種類は、ここで初めて記録されたものではなく、1851年にLeidyが記したもの、と書いてある。この論文は見落としていたが、次のもの。
◯ Leidy, Joseph, 1851. [No title]. Proceedings of the Academy of Natural Sciences of Philadelphia. vol. 5: 325-328. (タイトルなし)
 学会の記録のような記事で、タイトルはなくて「Leidy博士は多くの化石骨を見せて、口頭で次のように特徴を示した。」と示しているから、新種記載であるかどうかは微妙。内容は短くなく、特徴や計測値がちゃんとしている。「New JerseyのGreen Sand からの同一個体の13個の脊椎骨をもとに、Cimoliasaurus magnusを設立した」としているから、命名する意思はあったようだ。しかし、脊椎骨だけで、分類群は書いてなくて、比較したのはPoekilopleuron Bucklandii(獣脚類) とMosasaurus だから、あまり説得力はない。なお、大文字のGreen Sandと言うのは、当時のニュージャージー州の鉱産物であった海緑石砂岩で、時代は白亜紀。後に(1854年)同じ雑誌に短い記事があるが、「似た骨がある」と言うだけでほとんど何も書いていない。1851年のCimoliasaurus magnusが新属・新種記載であるなら、前回の記事で「Elasmosaurus 属は1821年のPlesiosaurus以来47年後の二つ目の属」としたのは改訂する必要があろう。
 Leidy 1865 に戻って、文末の図版の内Plates 5-6にCimoliasaurus magnusの標本がある。

505 Leidy 1865. Plate 5.

 この図版のFigs. 1-12は、New Jersey、Alabama州などのDiscosaurus vetustus 脊椎骨、Figs. 13-19は、New Jersey 州のCimoliasaurus magnus。Fig番号はよく見えないから、境界に灰色の線を書き込んだ。

506 Leidy 1865. Plate 6.  New Jersey 州のCimoliasaurus magnus脊椎骨。

 三番目の種類は、Piratosaurus plicatusで、Plate 19に図がある。

507 Leidy 1865. Plate 19. North Dakota 州産のPiratosaurus plicatus 上顎前端。

 Leidyがこの論文で記録した属名は、新属としたものはその後使われなくなり、他はすでに記載されていたものが多い。ここに記したように、新属の記載としては不備があるが、時代的には容認されそうな頃である。CopeやMarshによるアメリカの中生代爬虫類の研究が始まるのは1860年代だし、それに先行するHitchcockの足跡の研究と同じ頃だから、最初の研究の一部であることは確か。今回の記事は属名の先取関係や、模式標本の選択などに未解決の点がかなりあるから、興味ある方はお調べ頂きたい。