江戸時代、離婚は夫からの離縁状のみで、妻から離縁を申し出ることは出来なかった。しかし、夫の不身持に苦しみ、離縁を望む妻が寺に駆け込み尼として奉公することにより、唯一女性からの離婚が可能となった「駆け込み寺」と呼ばれる寺があった。
鎌倉の東慶寺、群馬の満徳寺は幕府公認の駆け込み寺としてよく知られている。後に、何か困ったことがあって逃げ込んだ際、助けてくれる人や施設を意味するようになっている。そんな「駆け込み寺」のような出来事が昨夜あった。
プロ野球の日本シリーズ第2戦をテレビの前で目を凝らして観戦しているとき、近くに住む姉から電話がかかってきた。「ねえねえ、今日、日ごろつけない指輪を嵌めて今帰ってきたの。外そうと思っても外れないのよ。もう指が腫れて痛いのだけど、お店も閉まっているし何とかならないかしら」と、苦しそうな声で言う。
時計を見ると7時半である。指輪を切断して欲しいようである。「すぐ行ってあげようか」というと、娘が車で連れて行ってくれるので待っておいてくれという。それから10分が経った頃、2人でやってきた。
左手の薬指に2個の指輪を嵌めているが、外側の指輪が抜けない。石鹸を付けたりして、もう何度も試みたのであろう、赤く腫れて痛そうである。手持ちの工具箱から、電気工事や電気製品の修理などの際に、配線コードを切断するためのニッパーという先が鳥のくちばしのように尖った工具を取り出し、あっという間に指輪を切断することができた。
「あ~、楽になったわ。ありがとう」とやっと笑顔が出る。「良かった、よかった」、見守っていた娘やうちの奥さんから時ならぬ歓声が起きる。「病院へ行けば『夜間・救急』で割り増しを取られるところだったね」といいながら喜んで帰っていった。帰った後、野球の戦況を見ると、いつの間にかカープが2点を入れ3対0とリードしている。
いい場面を見ることは出来なかったが、困っている地域住民といっても実の姉ではあるが、困った人の「駆け込み寺」として機能できて、カープの勝利と共に「よかった。よかった」の1日であった。