例年よりも1週間ばかり早く咲いた錦帯橋の桜も終わり、もう4月も下旬に近づいた。あれほど多くの人が詰めかけた花見の季節が終わった今日、上河原にスーパーの弁当を買って奥さんと葉ざくら見物に出かけてみた。
錦城橋を走りながら「芝生の上で弁当を食べている人はいる?」と聞くと「誰一人いないわよ」と奥さんが答える。降りてみても、案の定、弁当を広げているような人は誰もいない。先日同好会の仲間と花見をした場所にゴザを広げ、暖かい日差しの下で弁当をつつく。
時折、若いカップルや、愛犬と散歩するおじさん、幼子の手を引いた若いママが、チラチラッとわれら2人を見ながら通り過ぎていく。その内、遠くに、もう一組の老夫婦が川土手に座り、錦帯橋を眺めながら同じように弁当を食べ始めた。
座っている回りの桜の木の花びらは全て落ち、若葉が芽吹き新緑の葉の色が混ざり、雌しべや雄しべや、がくが落ちた芝生の上は、遠目にはうっすらと赤みがかって見えるほどである。食べ終わり、お茶を飲んでいるとき、1時になった。
土手際で気持ちよさそうに昼寝をしていた男が数人立ち上がり、軽トラックに置いていたヘルメットをかぶり、手に熊手をもって芝生の上を掻き始める。桜の後始末のようである。今月の29日には錦帯橋祭りという岩国の一大行事を控えている。
桜は散り、一歩一歩春は通り過ぎ、気温はすでに初夏を思わせるほどである。6月になれば鵜飼いも始まる。巡る季節の中で……なんて書くと、松山千春を思い出すが、確実に季節は巡っている中、今年も3月初めのつぼ見に始まり、葉ざくらまで、短い花の命をしかと見届けた。
『葉ざくらや人に知られぬ昼あそび』(永井荷風)