写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

微調整

2009年06月26日 | 木工・細工・DIY
 5年前に錦帯橋の河原で開催されたフリーマーケットで、2000円を出して古い柱時計を買って帰った。

 分解し、浴びるほどの油を差してダイニングルームの壁に掛けてやると、きちんと時を刻むようになった。 

 「カチカチという音が、やかましいわね」との一言で、あえなく納戸の奥で横になることとなった。

 今年になって私の書斎を2階の子供部屋に移したのを機会に、そっとこの柱時計を取り出して掛けていた。

 パソコンの前に座って仕事をしていても、カッチカッチというスローテンポの規則正しい音が小川のせせらぎを聞くようで心地よい。

 国道の近くに住んでいるが、柱時計の音のお陰で車の騒音があまり気にならない。単調な2拍子の音につられて、パソコンのキーを打つようなこともある。

 ところが一つ気になることが起きた。パソコンの画面の右下には、いつも正確な時刻がデジタル表示されている。

 柱時計が時を打つとき必ずパソコンの表示と比べるようになった。少しでも柱時計が狂っていると、振り子の下に付いているネジを回して調整したくなる。

 早めるようにしたり遅らせるようにしたり。こんなことを2週間も繰り返しただろうか。最後のころには、ネジを8分の1周位回すか回さないほどの微調整であった。

 その結果、今の状態はぴったしカンカン。クオーツ時計に匹敵するほどの正確さとなっている。1ヵ月間でどれくらいの誤差が出るのか。そんな精度にまでなっている。

 しかし所詮は、機械式時計の宿命。誤差は必ず出る。そこが人間臭くていいともいえる。季節の気温の変化にも当然影響を受けるだろう。

 こんな柱時計の音を聞いていると、生き物と一緒にいるような錯覚を覚える。いつも気にしてやらなければうまく動いてくれない。何かに似ていて面倒なやつだが、それがまたいい。
  (写真は、微調整で精度が向上した「柱時計」)