ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)

映画、旅、その他について語らせていただきます。
タイトルの由来は、ライプツィヒが私の1番好きな街だからです。

岸信介が、ノーベル平和賞に推薦されていたというのにはさすがに驚かされる

2012-11-22 00:00:00 | 社会時評


雑誌「世界」12月号を読んでいて、「おや」と思いました。高崎経済大学教授の吉武信彦氏による「ノーベル平和賞と日本──歴代日本人受賞者・候補者が問いかけるもの── 」という論文です。

この論文によると、岸信介が1960年にノーベル平和賞候補に推薦されていたというのです。これには驚きました。岩波のHPの紹介文です。

>京都大学の山中教授が医学生理学賞を受賞するなど、今年も、ノーベル賞の発表に大きな注目が集まった。日本では、例年、自然科学三賞や文学賞の行方が熱心に報じられているが、1974年に佐藤栄作元首相が授与された平和賞については、以来、新たな受賞者が出ることもなく、「日本人以外が受賞するもの」とのイメージが強いのかもしれない。
 だが、その候補者、そして選考のプロセスに着目すると、日本人とノーベル平和賞が、決して無縁ではなかったことがうかがえる。1901年~1961年までに候補となった四人の日本人に光をあて、賞によって浮かび上がる、国際政治の「理想と現実」について考察する。
よしたけ・のぶひこ 高崎経済大学地域政策学部教授。国際関係論 (EU・北欧研究)。1960年生まれ。著書に『日本人は北欧から何を学んだか』(新評論)、『国民投票と欧州統合 : デンマーク・EU関係史』(勁草書房)、『北欧・南欧・ベネルクス (世界政治叢書)』(共編、ミネルヴァ書房) など。


いうまでもなく岸の弟である佐藤栄作は1974年に平和賞を受賞していますが、それよりずっと前の60年に岸が平和賞に推薦されていたというのは私にとってはかなりの驚きです。 
岸に対する評価うんぬん以前に、不起訴になったとはいえさすがに戦争犯罪人(A級戦犯)として逮捕された人物(ついでに、デモを鎮圧しようとして自衛隊を導入しようとした人)にノーベル平和賞はないだろうと思うし、実際彼は受賞するにいたりませんでしたが、その岸を推薦したのが米国の上院議員とそいうのも非常に興味深いものがあります。

ノーベル賞の選考過程というのは、50年たたないと公表されないとのことで、1960年のこの推薦はまさに判明直後ということになります。岸以外にノーベル平和賞の候補として推薦された日本人としては、渋沢栄一賀川豊彦らがいます。賀川が平和賞候補として推薦されていたことくらいは私も知っていましたが、しかし岸信介というのはいくらなんでも「なんでまた」というのが私に限らずたいていの日本人の正直なところじゃないでしょうか。

たぶん岸信介を支持する人も、彼に批判的な人も、この推薦にはそうとうな驚きと意外感があると思います。私は言うまでもなく岸信介に批判的なスタンスを持っていますが、正直岸を支持している人たちは、「パワーポリティクス」とか「リアルポリティクス」とかが大好きな人たちが多いでしょうから、あんまりノーベル平和賞なんてものに価値を見出さない人が目立つんじゃないかと考えますので、そうするとやはりかなり意外な感を持つことを禁じえないのではないかと思います。いや、佐藤栄作は受賞しているからそうでもないのかな。ほかはともかく、ノーベル賞は別格とか。

あ、どうでもいい話ですが、私は岸信介を大好きな人たち(たとえば産経新聞とか国家基本問題研究所とか)の考える「リアルポリティクス」なんて、なんら「リアル」とみなしません。本論とは関係ないことですが、いちおう断っておきます。またもちろん私は、ノーベル平和賞というものをそんなに無条件にすばらしい賞だと考えているわけでもありませんが、これもこの記事の趣旨とは関係ない話ですので省略します。

それはともかくそう考えると、岸の孫の安倍晋三はどう考えているのかなと思います。安倍がこの件を知っていたのかどうか私はもちろん知りませんが、知らなかったとしてもこの論文の発表で安倍はそのことを知ったわけです。安倍は、岸が受賞しなかったことを「残念」と思うか、そんなものを受賞しないで「よかった」と思うか、それともなんとも思わないか、むろん安倍の内心はわかりませんが、いろいろ興味深いところです。

現実問題として、岸信介にノーベル平和賞が与えられる可能性は低かったでしょうが、言うまでもなくこれは岸だけの問題ではなく、当時の日本を取り囲む冷戦や米国の対外政策、その他国際政治状況の一環として岸の推薦があったわけです。岸を推薦したのは、上のように米国の上院議員でした。この上院議員氏がどのような思惑で岸を推薦したのかは判然としない部分があります。しかしこれも、徐々に明らかになっていくのかもしれません。この人は71年に死亡しているので、佐藤栄作の受賞を知ることはありませんでした。

岸信介は、佐藤栄作以上に戦後日本のさまざまな矛盾を抱え込んでいた男だったと思います。その人物の隠れた一面を明らかにした当論文を、ぜひ読んでいただきたいと考えて今日の記事を終えます。
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16 コメント

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Unknown (Rawan)
2012-11-22 06:36:44
私もノーベル平和賞なんてのは、とりたてて誰かに出す必要は無いものだと思いますね。

対日本人という部分では、ヨーロッパの、とりわけノルウェーやスエーデンといった地域が日本についての歴史や感性・思想に通じているわけでもないでしょうし(もちろんお互い様という意味で)、普遍的な理念や人権・反戦という観点から秀でた活動を行なった者がいなければ、そもそも出す必要なんて無いのだし、そういう観点・精査が欠落すれば、その権威や信頼性も落ちてくるだけのことでしょうね。
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Unknown (hatsu)
2012-11-22 11:30:46
>岸の孫の安倍晋三はどう考えているのかなと思います。

「偉大な祖父の孫」で勇気百倍総裁選に臨んだと思われ(笑)
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これは、かなり驚き (inti-sol)
2012-11-22 22:39:38
ノーベル戦争賞というものがあれば、候補になるのも分かりますけど、平和賞に岸信介って、どういうブラックユーモアだよと思います。ただ、ノーベル平和賞は、いろいろと首を傾げるような選考が多いことは事実です。EUに平和賞が出たのが、その代表例で。

そういえば、ノーベル平和賞がほしくて仕方がないといわれる人が、日本で二人いますね。某宗教団体の名誉会長と、競艇の胴元(故人)。
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>Rawanさん (Bill McCreary)
2012-11-23 03:18:22
佐藤栄作の受賞については、インドの核実験成功による核拡散に警鐘を鳴らす思惑でしょうね。結局世界的にも評判が良くなかったわけで、日本ロビーの活動は当然としても、やはりご指摘のように北欧側の意図が空回りした例だと思います。
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>hatsuさん (Bill McCreary)
2012-11-23 03:21:41
安倍からすれば、わがおじいさんはやはりすごかったって話になるんでしょうね。それもどうかと思います。
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>inti-solさん (Bill McCreary)
2012-11-23 03:30:05
もちろんこれは、岸が候補として推薦されたっていう話ですけど、さすがに岸にノーベル平和賞はひどいですよね。

EUは、ギリシャの問題などがあったので、側面支援したいという思惑もあるのでしょうね。

そういえば競艇のボスの息子が都知事選に出馬しますが、当選はしないでしょうが、やはり思うところがあるんですかね。
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Unknown (bogus-simotukare)
2012-11-23 08:03:40
inti-solさん
競艇の胴元(故人の笹川某ですよね?。今の胴元じゃなくて)について言えば、佐藤栄作が受賞したとき、本多勝一氏が「笹川にもノーベル平和賞を!」という批判文章を書いたことを思い出しました。
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>bogus-simotukareさん (Bill McCreary)
2012-11-23 10:45:06
私も笹川についての本多氏の文章は読んだことがあります。佐藤受賞のときの文章は、天皇にノーベル賞を、じゃなかったかな。
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想像 (無楽斎)
2012-11-24 22:58:47
あくまでも何ら根拠のない想像ですが、岸信介はCIAから資金援助を受けていたような人物ですから、その功績?を讃えるためにアメリカが動いたのかもしれません。
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安倍のトンデモ右翼ぶりがさらにパワーアップ (bogus-simotukare)
2012-11-25 20:42:25
てきとう『【悲報】 クッソキモいネトウヨの安倍応援デモに安倍本人が来るらしい』
http://blog.livedoor.jp/googleyoutube/archives/51787848.html

このエントリや、エントリに就いたはてなブックマークも指摘していますが安倍といい、安倍周辺といいどれだけ常識がないのかと。極右団体「頑張れ日本国民行動委員会」主催で参加者が極右だらけですからね。これにペマや増元照明が参加者として名前が出てるのにも呆れますが。ああ、ペマや増元ってそこまでトンデモの世界に行ってるのかと。それがチベット問題や拉致問題の解決に本気で役立つと思ってるのかと。
これでは安倍が選挙に勝てるか疑問ですし、仮に勝てたとしても前回同様「ウヨの期待と国内外の批判に板挟み」で短命政権になるでしょう(なってほしいという希望込みですが)。中国、韓国の外交を悪化させたと民主党政権を批判しながらこういう事ができる安倍には改めて呆れます。
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