懐石が終わり、中立の御案内をしました。
立礼では中立でお菓子をお出しすることが多いです。・・・お菓子と濃茶が近い方が良いと思い、お菓子は別室で召し上がって頂きました。
もう1つ、初座(挨拶、初炭、懐石)が長いので、待合へ移ってそちらでお菓子を召し上がっていただく方が気分転換になるのではないかしら? ただ、その日は気温が30℃に達していたので腰掛待合は省略し、銅鑼の合図で待合から直接露地へ出て蹲を使い、後座の席入りをしていただきました。
主菓子は銘「水面」、石井菓子舗製(横浜市旭区都岡)の雪平(せっぺい)です。
菓子皿は花ぬりといい櫻井漆器(愛媛県今治市)です。次客Mさまのお茶事に招かれた時に櫻井漆器のことを知り、「再び車で四国遍路」の折に求めたものを使いました。
銅鑼を打ちました。 大・・・小・・中・中・・・大
後座は、「急に雨が強く降り出したので雨戸を閉めさせていただきました・・・」ということで茶室を暗くし、蝋燭の灯の元、濃茶を差し上げました。
(茶事中の写真が無く、以前のものですが・・・)
襖を閉め、燭台の灯りの中、濃茶点前をしました。
少し緊張し呼吸を調えながら四方捌きをし茶入を清めます。帛紗をさばき直して茶杓を清め、茶碗を茶筅通しをして茶巾で拭き上げます。
いつも何回となくやっていることですが、今回は緊張感を持つこと、所作を丁寧にゆっくりと姿勢よく・・・を心がけました。濃茶点前の所作が茶事一番のご馳走になることを目指していますが、未だ道は遠しです・・・。めげずにまいりましょう。
黒楽茶碗(一入作)に濃茶2人分を掬い出し、湯を汲み入れ、練り始めました。
2人分というと約10g、練り始めると湯が足りないことがわかり、湯を足して再び練り始めます。蝋燭の灯では茶碗の中が見えませんので、手先の感触に気持ちを集中しながら練り上げていきます。茶筅の濃茶の付き方で足す湯の量を決めますが、これも手指の感触を頼りに足す量を決めていきます。
「見えない時は心眼で練るのよ!」と何処からか声が聞こえてきます。ご指導頂いたことが実感としてやっとわかってきたような気がしました。
(後座の点前座・・・実際は暗いです)
半東AYさんが取り次いで主茶碗をお正客OKさまへお出しします。
「どうぞお二人様で・・・」
「お服加減はいかがでしょうか?」とお尋ねすると、「大変美味しゅうございます」のお声に心から安堵しました。
(蝋燭があっても暗い点前座・・・以前の写真ですが)
次茶碗は御本三島です。茶碗を清め拭き上げてから、濃茶を3杓掬ってから回し出し、2人分を練りました。
2碗目も何回か湯を足しましたが、自分の手指の感触を信じて、たとえ習い通りの湯を汲む回数でなくても、自分が納得できる濃茶を差し上げたいと、覚悟のようなものができました・・・これは茶室を暗くしたからこそ会得できた境地でしたが、明るくっても同じことだと思います。
濃茶は銘「一滴翠」(丸久小山園)です。
「お練り加減好く、美味しゅうございます」の声に安堵しながらも、濃茶「一滴翠」にも助けられた気がしました。
茶入は朝鮮唐津の胴締め、鏡山窯の井上東也造、仕覆は小真田吉野間道です。唐津方面へツレと旅行した時にこの茶入と出逢ったエピソードをご披露しました。
白竹の茶杓は銘「無事」、紫野・後藤瑞巌師の御作です。
「無事」は禅語でその意味するところはいろいろあるようですが、般若心経の教えの1つである「空」を表わしています。「空」とは、全ての物事が移り変わって行く、留まることがないという意味です。
全ての物事が移り変わって行く中でたとえ一瞬でも、お客様へ御茶を差し上げ、親しく言葉を交わし、その時を共に愉しむことの、なんと!幸せなことか・・・そんなお話をしたような気がします。
お茶をやっていて本当にヨカッタ!と思う濃茶のひと時でした。