暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

捨意菴へ招かれて-2

2016年03月28日 | 茶事・茶会(2015年~他会記録)
                          
                          開花を待つ桜・・・満ち溢れるエネルギーの高まりを感じます
                                  (季節の花300提供)
(つづき)                           
銅鑼が七点打たれ、後座の席入りです。

にじり口に手をついて中を拝見すると、どっしりと存在感のある伊賀水指と茶入が目に入り、
少し開けられた障子戸から一筋、春の陽光が差し込んでいます。
床前に進むと、白文字、木五倍子、玉之浦、もう一種ピンクの椿が飴色の竹曲げ花入に入れられて、
ここにも春の歓びが溢れていました。

濃茶点前が始まり、表千家流の帛紗さばきや茶筅の動きに見惚れていると、熱々の濃茶が点ち、
三人で美味しく頂戴しました。
続き薄茶となり、煙草盆と干菓子器(青漆の献上盆)が運ばれ、薄茶を京都風に二服ずつ頂戴しました。
干菓子は春しぐれ(たねや)と常盤木(京都・鍵屋政秋)、常盤木を懐かしく頂きました。

正客Iさまから道具の拝見が掛かり、萩焼の茶入はオーストラリア在住の陶芸家の作、
仕覆は井伊家伝来裂、そしてインパクトのあった茶杓・・・。
胡麻竹、節下が長めの茶杓は少々座りが悪く、茶杓銘は「うたたね」や「たいへい」を連想していましたが、
大徳寺508世・聚光院住職であった中村戒仙和尚作で銘「幾千代」でした。
ご亭主のH氏から、京都へ行く前に中村戒仙和尚が住職した栄松寺(松戸市)へ座禅にいくというお話を伺い、
郷土に関係のあるお坊様でもあったのです。

真塗棗と思っていた棗は夜桜棗、光線の具合で初めて夜桜を見ることができ、感激しました。
光線と言えば、障子から差し込む陽光が徐々に移動して、時の流れを告げています。
「愉しい時は過ぎるのがなんて早いのだろう・・・終わってしまうのが残念!」
客一同、異口同音でした。
さりげなく、ステキなおもてなしをしてくださったご亭主H氏、
素晴らしい相客I氏やNさまとのご縁に感謝し、捨意菴を後にしました。


                           
                                  桜の木が切られています 

中村戒仙和尚について何も知らなかったのですが、博識のご亭主H氏とお正客I氏のお話を伺って大いに関心を持ち、帰ってすぐにネットで調べてみました。

   中村戒仙 
   明治14年、現千葉県柏市増尾に生まれる。
   幼少に増尾山少林寺・巣山和尚の養子となり、大徳僧堂の川島昭陰に参じ、法を嗣ぐ。
   千葉県松戸市の栄松寺、つづいて大徳寺聚光院に住職し、大徳寺508世住持となる。
   道号は隋応・法諱宗雄、室号は直入軒、号は雪山・高安、望待居
   昭和47年91才で示寂


戒仙和尚は、情熱の詩人であり、北原白秋の二番目の妻であった江口章子(あやこ)と大正の終わりころに結ばれます。
昭和2年、聚光院の住職となった戒仙和尚は章子と京都へ向かい、二人は結婚します。
しかし、禅僧の妻帯は許されず、表にでられない日々が続き、章子の精神は次第にむしばまれていきました。
数々の奇行によりついには戒仙和尚の愛を失い、昭和13年に二人は離婚しました。

江口章子は柏市増尾の辻堂に住んでいたこともあり、7歳で少林寺の養子になった戒仙和尚との縁で章子の歌碑が少林寺境内にあるそうです。

     手賀沼の水のほとりをさまよひつ
        芦刈る音をわがものとせし   江口章子



戒仙和尚は、江口章子との恋や結婚など、人間としても禅僧としても魅力的な方のように思い、
・・・恥ずかしながらご縁を感じて戒仙和尚作の茶杓を購入しました。
4月3日の「桜の森の満開の下」茶事に使うつもりで、とても楽しみにしているところです。
茶事までに風邪を治さないと・・・とあせりつつ。 


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2 コメント

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Unknown (楽居庵)
2016-03-28 18:36:04
茶事の席主もお客ぶりも慣れていらっしゃる暁庵さんのブログは、春浅き弥生の風情が溢れていましたね。
大徳寺・中村戒仙老師の茶杓を拝見したかったです。
云いますのは、ある茶道具商にて選んだ掛軸の染筆に心打たれて求めたことがありました。今は手放してしまいましたが… 
新氏の濃茶の練りも興味深いことでした。釜師の技が暫し茶と湯の加減にあるとは、今度私も真似をしてみましょう(上手くいくかわかりませんが)。
さて、お会いする機会にお話を伺うのが楽しみです。
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Unknown (暁庵)
2016-03-28 20:18:21
楽居庵さま

コメントを頂き、ありがとうございます。
ご亭主様のさりげなく手厚いおもてなしが心に残るお茶事でした。
いつか、あのような茶事ができるようになりたい・・・と思う事しきりですが、お招きされる茶事もする茶事も本当に愉しいですね。
実は戒仙和尚の掛軸が欲しかったのですが、茶杓に素敵なご縁があって、これはこれでヨカッタかな・・・。

お逢い出来る日を楽しみにしております。
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