暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

如月の茶事へ招かれて (1)

2012年02月22日 | 思い出の茶事
池袋から埼京線へ乗り、荒川を渡ると、
上流に雪を抱いた山々がくっきりと連なって見えてきました。

川面を渡る風の冷たさも電車の中までは届かず、
「川で遊んでいる鳥は何かしら?」
浮かんできた和歌をあわてて懐紙に書きとどめました。

某駅の改札口で茶事の連客と待ち合わせました。
客四名全員が初対面なのですが、そこは茶事を共通語とする方々です。
すぐに打ち解けて旧知の如く、いざ、ご亭主が待つマンションへ。

ご亭主の楽居庵さまとのお出会いは、私が茶事を初めて間もなくの頃でした。
思い切って真MLでお客さまを募集して、はじめて本格的な茶事をしました。
ブログにも書きました、長屋門公園・正午の茶事です。
その時の拙いながら一生懸命の茶事へいらしてくださったのが、楽居庵さまでした。

その後もご縁があり、茶事でご一緒したり、瀬谷の吊るし雛の会
昨春の五事式にお付き合いくださいました。
私が京都へ家うつりするというので、如月17日、ご自宅の茶事へ招いてくださったのです。

                
                      (ご一緒した瀬谷の吊るし雛から)

「楽居庵」と書かれた木の表札が掛けられている玄関を入りました。
待合の居間には内裏雛が飾られ、短冊が掛けられています。
  「龍吟雲起」 (りゅうぎんずれば くもおきる)
広島・和風堂で行われた上田宗箇流の初釜の福引で頂戴した短冊とか。
ご亭主の今年の隆盛が見えるようです。

一人亭主でございます・・・香煎が運びだされ、
「風が冷たいのでベランダ腰掛での迎えつけは省略させて頂きます。
 湯をお飲みになりましたら、お席へお入りください」
というご案内がありました。

煙草盆や火入のざっくりとした灰形の景色を鑑賞してから
躙り口より四畳半の茶室へ席入りしました。

               

床には画賛が掛けられ、梅を愛でる林和靖の画と和歌でしょうか?
表装の一文字と中回しも味わい深いお軸で、あとでお尋ねするのが楽しみです。

炉正面に座り、炉中の息をのむような美しさに見とれました。
きめ細かい炉灰がなだらかな山の景色を作り、
今撒かれたばかりの黒々とした湿し灰が山の稜線を際立たせています。
そして真っ赤に熾った三本の菊炭が炉中を美しく照らしていました。

仮座へ座ってから、ご亭主が濡れ釜を持ち出し、掛けました。
「失礼しました・・・」
「とんでもございません。少し早く席入したようで、そのおかげで、
 素晴らしい炉中の風情を愉しませて頂きました」
再び炉前に座り、濡れ釜の形や釜肌の美しさを堪能し、二度も愉しませて頂きました。

・・・ここで大失敗です。
あんなに美しい炉の景色はめったに見られませんので、濡れ釜を持ちだしたときに
「炉中拝見」を所望すべきだった・・・と今も悔やまれます。
気の利かない正客で、ご連客さま、ごめんなさい・・・。

そんなわけで、炉中を鑑賞できたのは、不肖私だけでして、
「一瞬の出会いと判断」のむずかしさを痛感しました。

     如月の茶事へ招かれて (2)へつづく        




クリスマスの茶事へ招かれて (2)

2011年12月28日 | 思い出の茶事
 (つづき)
中立で庭へは出ず、廊下を通って待合へ戻りました。
いつの間にか露地ぞうりが玄関に戻されていて、
初入と同様に、玄関から庭へ廻り、腰掛で迎え付けを待っていると、

大・・・小・・中・中・・・大

銅鑼の音色、いいですねぇ・・・!


後座の床を拝見して、「ハッ」と息をのみました。
竹の花入に紅白の侘助が入れられています。
紅侘助は可憐な笑顔を向け、深緑の葉に露が清々しく打たれています。
白侘助は蕾、こちらの緑葉には露がありません。
シンプルな美しさに感動し、しばし動けませんでした・・・。

点前座には朱塗りの棚が据えられています。
紹鴎水差棚に似ていますが、三段になっていて初めて見る棚でした。
あとでお伺いするのが楽しみです。

               

濃茶点前が始まりました。
リズムのあるしっかりした点前は、言葉のいらない濃茶の世界へいざないます。
ふくいくとした香りが部屋を満たし、丁寧に練られた濃茶がだされました。
Kさんと二人でたっぷり味わいました。
程よい苦味の残る濃茶は一保堂です。
前席の主菓子は「粉雪」、白餡に白いきんとん、金粉は星でしょうか?

お茶碗は、かせた色合いがやさしい黒楽でした。
手に取ると、小ぶりな茶碗側面に一周、へら目が模様のようにあり、
一入の「あけぼの」写だそうです。
織部を思わせる美濃焼の耳付き長茶入、仕覆は花文暈繝錦、
気になっていた棚は、雪輪棚という江戸千家流のお好みです。
ご亭主は最初江戸千家流を長く学んでいたそうで、思い出の棚を
クリスマスに因んでお使いくださったのでした。

               

後炭になり、炉を拝見すると、炭がきれいに流れていて
うつろいの風情に見とれました。
胴炭が見事二つに割れて、これもめったにないご馳走です。
「ゆっくりして頂きたいから・・・」
と炭をたくさん置いてくださいました。

「雪とモミの木」の干菓子が運ばれ、
イタリア製(?)の楽しいクリスマス絵の茶碗と唐津焼の茶碗で、
薄茶を二服ずつ美味しく頂戴しました。
クリスマスのムードも最高潮となり、どこからか
「シャンシャンシャン・・」とそりの音が聞こえてくるようでした。

棗は玄々斎お好み豊兆棗、茶杓銘は「氷柱」です。
拝見をお願いした蓋置は、三人の天使が手をつないでいて、
ガラス製のように見えましたが鋼製だそうです。

後炭や薄茶の間に、初対面に近い関係にもかかわらず、
いろいろなことが愉しく話し合われ、お茶の持つ力に感謝です!

さりげなく散りばめられた、クリスマスのご趣向を堪能しましたが、
後礼を書きながら、ご亭主がサンタさんだったことにやっと気が付きました。
黒地にモミの木やトナカイのそりが描かれた帯をお召しになった
サンタさんから、今年最後に素敵な茶事をプレゼントして頂きました。

Merry Christmas ’2011
               
                          

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クリスマスの茶事へ招かれて (1)

2011年12月26日 | 思い出の茶事
12月25日、クリスマスの茶事へ伺いました。

ご亭主のOさんと知り合ったのはほんの1か月前ですが、
何か響きあうご縁を感じ、メールでの交流が始まりました。

「ご丁寧な自己紹介をありがとうございます。 
 ・・・いつか、Kさんと私をご自宅での一服へお誘いください。
 くれぐれも無理はなさらないでください・・・」

そんなメールがきっかけになって、クリスマスの日に茶事へお招き頂きました。
お手紙に添えられた地図を見ながら、見知らぬ街を辿ると、
閑静な住宅地の一画にOさん宅がありました。
仕事場である診察室兼書斎が待合になっていて、つい物珍しくキョロキョロ。

半地下のような設計になっている待合(書斎)の窓から庭の木々が眺められ、
山中の景を思わせます。
文透かしの煙草盆に黄瀬戸の火入が置かれていました。
Kさんが板木を打つと、熱い昆布茶がだされました。
半東なしで、Oさんお一人でこなされています。

             
                  (人待ち顔の黄瀬戸火入の灰型)

初めてのお宅で、「茶室はどこかしら?」状態ですが、
実は此のへんがとっても楽しいのです。
ご案内に従い、玄関から露地草履を履き、建物をぐるっと半周すると、
庭へ入る木戸があり、その向こうに椅子が二つ用意されていました。
向うに蹲が見え、筧の水音が清らかに響いてきました。

まもなく、庭に面したガラス戸が開けられ、ご亭主が現れました。
蹲をつかい、挨拶を交わし、
「どうぞお入りください。こちらに踏み台が置いてございます」
蹲をつかい、中へ入ると窓の板間から一段と下がったところに廊下があり、
その向こうが障子の入った四畳半の茶室になっていました。

床には足立泰道老師の筆で「無事」、
釜は平丸筋釜、海老のカン、地紋に海老の髭が意匠されています。
改めてご亭主とご挨拶を交わしました。
「茶事をする機会がありませんので
 仕事の合間に茶事のことをあれこれ考えたりして、
 楽しみながら今日を迎えることができました」
というご亭主の言葉が嬉しく、安堵しました。

炭手前が始まりました。
ご趣向で、初炭所望となり、炭を置かせて頂きました。
炭の置き方ですが、何も考えずに、火が熾きるように隙間を開けて置きましたが、
あとで研究会でお教えいただいた冨士田先生のお言葉を思い出しました。

「懐石、中立の後の濃茶に合わせて、炭を置くように・・・。
 懐石の時間の長短、人数にもよりますが、早めに沸きすぎる傾向があるので、
 初炭の置き方は火がゆっくり熾きる工夫がほしい・・・」
というような内容でした。
すぐに火が真っ赤に熾って、
「濃茶まで火勢が持つかしら?」と心配になりました。

香合はかわいらしい雪だるま、隅田川焼です。
香銘も香元もはじめて伺う京都のものをご用意いただきましたが、
失念してしまい、ごめんなさい。

               

「軽い点心で・・・」とのことでしたが、
寒菊の葉や紅葉をあしらった盛付が美しく、一つ一つ嘆声を上げたくなるほど
美味しい点心で、Kさんと感激しながら賞味しました。
煮物椀は、カニ真蒸のクリスマスツリーで星形の柚子が添えられ、
モミの木を連想するヨモギ麩(?)とともに美味しく頂きました。
お持ち出しをお願いし、ご亭主と歓談しながら頂けたのも良かったです。

やがて主菓子が出され、中立となりました。
                                

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        写真は、神戸異人館のクリスマスの飾りつけです。


汲古庵・名残の茶事 (2)

2011年11月11日 | 思い出の茶事
懐石のあと、いよいよ初炭です。

五行棚に黒の紅鉢がお似合いですが、
火床が狭いので初炭まで火種を持たせるのは難しく、
ご亭主の腕の見せ所でもあります。

鵜篭の炭斗に炭が小さく切られ、かわいい枝炭も入っています。
炭が置かれ、香が焚かれました。
香合は妙喜庵古材で作られた銀縁四方でした。
香が薫るころに「パチパチ」という音が幽かに聞こえ、客一同も安堵しました。

微かな薫りと筧の水音に清寂と安らぎを覚えます。
初炭が終わるころ、露地に水を撒く音が聞こえてきました。
銀杏の練切(亀屋万年堂製)を頂き、中立です。

               

銅鑼の合図でにじり口を入ると
床には白い花がぼんやり浮き立って見えました。
近づくと、秋丁子、フジバカマ、白の岩シャジンが籠に生けられていました。
炭火の赤さが黒い紅鉢に映えて美しく、濃茶への期待が高まります。

濃茶点前が始まりました。
まもなく、墨蹟窓の簾が巻き上げられ、
この瞬間、花にもう一度命が吹きこまれたように、別の表情を見せました。
他の簾も巻き上げられ、陰から陽への見事な転換です。

細長い茶入より緑の濃茶が回し出され、湯が汲まれ、濃茶が煉られました。
さらさらと流れるような点前を皆、静かに吸い込まれるように拝見しています。
緊張感と充実感のみなぎるひと時・・・・。
「無心」という銘の黒楽で濃茶がだされ、客四名で頂戴しました。
「室閑茶味清」

濃茶は一保堂の雲門の昔でした。
細長く優しい形の茶入は肩衝長茶入、飯能焼の細井陶遊造です。
作者が志戸呂焼が好きで、土は志戸呂とのことでした。
仕覆は鹿羊文金襴。
茶杓は、えーと・・・・銘「時雨」でした。
 
                 

茶事を通じて思うことが二つありました。

名残の茶事にふさわしい道具のいくつかはご亭主の先生から、
さらには先生の先生から先生へ譲られたお品でした。
道を継ぐ人と場所(汲古庵)を得て、先生方も道具もきっと大喜びでしょう。

水撒き、簾あげなど縁の下の力持ち役の半東はKさん社中のHさんでした。
Hさんとは茶事入門教室以来のご縁ですが、
ご亭主の茶事の半東をこなされ、目を見張るばかりの上達ぶりです。
そして、いつも一生懸命の様子が好ましく、今後の活躍を楽しみにしています。

話しは尽きませんが、ご亭主さま、相伴させて頂いたお客さまと和やかに楽しく
汲古庵でのひと時を過ごすことができ、いろいろなご縁に感謝いたします。

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汲古庵・名残りの茶事(1)

2011年11月09日 | 思い出の茶事
10月30日、名残の茶事にお招き頂きました。

9月末に茶友のKさんからお手紙が届きました。
藤の咲く頃に続いて汲古庵での二度目の茶事へ嬉しいお招きです。
このたびは詰の役を仰せつかりました。

正客のHさん、次客のSさん、三客のMさんと駅で待ち合わせ、
汲古庵へ向かいました。
手入れの行き届いた庭には茶花がいっぱい。
ススキ、桔梗、ホトトギス、野紺菊、ツワブキ、白玉椿が咲き乱れ、
穏やかな秋の日差しが射しこんでいました。
関守石が玄関への案内役です。

                

待合には「秋行帰雁」の画賛。
煙草盆は欅、火入の灰が美しく調えられています。
火入は膳所焼の阿古陀、詫びた風情ながら存在感がありました。

板木を打ちました。
この日は、最初に「トトトトト」と早打し、
それから「トーン トーン トーン トーン 」 四回打ちました。
歌舞伎のきのねのように、ここから茶事が始まります。

                

露地を歩み、蹲をつかい、にじり口から入ると、
席中は明かりがほしいと思うほどの暗さです。
目をこらして床の掛物を見ると、二行の書と菊らしき画が書かれていました。
あとでご亭主から伺うのを楽しみに、点前座へ移動しました。
名残にふさわしく五行棚に黒の紅鉢、小振りな棗釜がぴったりです。

「ご亭主のようにかわいらしいお釜・・」と眺めていると、
早や襖が開きました。
「早かったようで失礼いたしました・・・。
 せっかちな者ですから、いつも早すぎる!と師よりお叱りを受けております」
でも、堂々と茶道口で待っておられました。

挨拶ののち、正客のHさんが軸についてお尋ねしました。

   荷尽己無雨蓋
   菊残猶有傲霜枝

   荷(はす)は尽きて己(すで)に雨を(ささ)ぐるの蓋(かさ)無く
   菊は残りて猶(なお)霜に傲(おご)るの枝有り

蓮の葉は枯れて雨をさえぎる傘のような姿はもう見られないけれど 
菊は残っていて霜にもめげない枝をなお保っている・・・という意味で、
「色即是空 空即是色」の禅の境地を表わしているそうです。

「名残りにぴったり・・・」と伺いながら、
つい2週間前に行った三溪園・蓮華院の茶会盛夏の蓮華、
今は枯れ果てた蓮池の様子が脳裏を横切って行きました。

                 

           (2)へつづく