今日は、この街にいます。

昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

343 西新宿(東京都)・・・高さより命を競う臀部あり

2011-05-15 15:34:11 | 東京(区部)
見上げれば、おおきな臀部である。都民広場を睥睨する摩天楼に対峙して、逞しい尻はどっしりと小気味よい。ブロンズは小糠雨に濡れて黒光りを放ち、近代建築の硬直した線をあざ笑う。私はもはや裸像に向き合って動揺する年齢ではないから、このシーンにあっても冷静に「生命」を感じていた。そして「肉体は傷つきやすい。されど人間は強い。だから命の連環は途絶えはしない」と考察した。東日本大震災から2ヶ月を経た日のことだ。

ここは西新宿の東京都庁。庁舎と議事堂を結ぶ通路が半円形に囲む広場を、8体の女性像が取り囲んでいる。それらは天を支えるカリアティードのようであり、現代の女神たちだとも見える。私が向き合っている像は雨宮敬子作『天にきく』とあった。女体が宿す生命力。作者はそのことを訴えようとしたに違いない。像が発する命の営みが、被災地の復興エネルギーを思い起こさせる。

庁舎ロビーで、被災地応援フェアが開かれていた。福島・宮城・岩手3県の物産即売会だ。出店できる店舗がまだ少ないからなのか、ささやかな品揃えである。それでも客は結構集まっていて、私も三陸ワカメ(岩泉)、笹かまぼこ(仙台)、ゆべし(只見)を買った。これまでは、いつでもどこでも購入できると思い込んでいた品々だ。しかし東日本大震災で、一品にかける生産者の暮らしと、「いつでもどこでも」の贅沢を思い知らされた。

高名な建築家の設計によって、都庁がこの地に転居して来て何年になるだろうか。地上から243㍍の最上階・48階あたりは雲の中だ。庁舎に入ると、節電のため極端に照明が落とされているからかもしれないが、どこかすすけたような疲れが滲んでいる。役所とは不思議なもので、摩天楼であろうが古い木造の村役場であろうが、なぜか似たかび臭さを漂わせているものだ。

17万人の職員が、12兆円の予算を執行する東京都は、自治体と呼ぶには肥満し過ぎたのかも知れない。そのことは、この国が「縮み」の時代に入ったから余計に強く感じるのだろうか。都庁から新宿駅へ、高層ビル街を歩いてみる。木々も程よく生長し、後発の汐留や品川などのビル街より落ち着きが深まった。ただ日本で初めてのビル街区が形成されて行ったころの、キラキラしたエネルギーは薄れてしまい、平凡な街になった。

淀橋浄水場の跡地に、副都心の建設を進めたころの東京は、高度成長の勢いに乗って猛進中であった。さしずめ昨今の上海か。こうした規模の事業となると、やはり財閥グループが表に出るのは日本経済のDNAなのだろう。特定街区のインセンティブを与えられて、三井、住友、安田、野村などの高層ビルが次々姿を現した。

三菱の名前がなぜ見当たらないのかは知らないが、住友が三角ビルと呼ばれる特異な形状をしたビルを建てた理由は聞いたことがある。グループ内の鉄鋼メーカー・住友金属工業が、建設当時には四角の高層ビルを組み上げるだけの強度を持つH型鋼を造る技術を、まだ開発できないでいたからだ。かといって新日鉄や日本鋼管に発注するのは、グループの沽券に関わるというわけだ。

こんな話を思い出しながら歩くビルの谷間は、何やら日本の産業史を行く気分になる。そういえばバブルの時代には、馬鹿馬鹿しいけれどきらびやかなショッピング街が競い合っていたものだ。その熱狂が消えたいま、西新宿は日本経済盛衰史の現場でもある。(2011.5.12)



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