今日は、この街にいます。

昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

002 吉祥寺(東京都)・・・危うくも澄んだガラスの吉祥寺

2007-01-14 22:39:25 | 東京(都下)

「東京で住みたい街は?」というアンケートで、常に第一位になるのが吉祥寺である。JR中央線の吉祥寺駅を中心に、東京23区外としては珍しいほど奥行きの深い繁華街が形成されている。おしゃれな店があって、ちょっとわくわくできそうなレストランがあって、そのくせ突然、レトロなおじさん好みの路地が現われたりして、私もこの街が好きだ。

東京暮らしを始める女子大生が、最もこだわる条件が「住所に《吉祥寺》って付かなければ嫌!」なのだと不動産屋のオヤジが笑っていた。若い娘心を惹きつける魅力が、この街には溢れているらしい。

街は駅をはさんで2分され、北のファッション・ショッピングエリアと南の井の頭公園に続くデートスポットがそれぞれ賑わう。何より若者の姿が多い。おしゃれだけれど白金や自由丘よりは気楽、というあたりが人気なのだろうか。そんな中でおじさんに似合うのは、駅北のハモニカ横丁か南の焼き鳥屋「いせや」くらいのものだが、最近はそれらも若い女性連れに占領されつつある。

そうしたギャルたちには関心の無いことだろうが、吉祥寺に「吉祥寺」という名の寺は無い。明暦の大火後というから江戸時代がまだ初期のころ、火事で焼け出された現在の水道橋付近の人々を政策的に移住させた地がここで、人々は日ごろ拠り所としていた「吉祥寺」という土地の寺名をこの武蔵野の開墾地に名づけたのだという。

「吉祥寺村」は明治になって、西窪村などと離合集散を繰り返した挙句に「武蔵野村」となり、現在の武蔵野市吉祥寺(本町、北町など)へと膨張した。「武蔵野」があまりに一般名詞に近いせいだろうか、市名より吉祥寺という町名の方が断然インパクトがある。

地名は、駅名に採用されるか否かによっても人口の膾炙度は大きく異なってくるものだが、武蔵野村発足と同年に開業した現在の中央線の前身・甲武鉄道でも「武蔵野駅」は採用されなかった。ちなみに吉祥寺駅の西隣は「三鷹駅」で、駅舎は三鷹・武蔵野の市境を流れる玉川上水の上にある。どちらの名が付けられてもおかしくは無かったのだろうが、電車の車庫が三鷹市域に建設され雌雄を決することになった、というのが私の想像だ。
 
中央線で新宿と、井の頭線で渋谷と直結している吉祥寺は、新宿よりも渋谷に似ている。店がだんだんギャル好みに入れ替わり、古いお屋敷街が侵食されていって、しだいにミニ渋谷のような色合いが目立ち始めている。

そして地価が上昇し過ぎたせいだろうか、かつてはこの街を新鮮な刺激で満たしていた、ちょっとおしゃれでマニアックな店が、隣の三鷹あたりで開業するようになってきているという。吉祥寺は、かなりの元手が無いと店を持てない街になったのだ。

そうやって「暮らしたい街・人気第一位」の高所に立ち続けて、いささか足が震え始めているのが今の吉祥寺かもしれない。例えばおしゃれな生活雑貨の店に立ち寄って、ガラス具が並んだディスプレー越しに街を眺めてみる。お金がありそうな大人もなさそうな若者も、みんなこの街を歩くことを楽しんでいるように見える。そこはまるで、透明なガラスの街だ。転落すると、粉々に砕けてしまうガラス細工のことである。(2007.1.14)
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