今日は、この街にいます。

昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

377 盆堀(東京都)ボンボリに灯りがともる瀬音かな

2011-09-11 19:41:56 | 東京(都下)
秋川渓谷に出かけることになったきっかけは、「その川筋のどこかに、レストランとギャラリーを併設するとっても素敵なペンションがあるんですって!」と、彼女が聞き込んで来たからである。手がかりはその「どこか」しかなかったけれど、ようやく所在を探し当て予約を入れると「場所はボンボリです」という。「雪洞」かと思ったら「盆堀」という川のほとりだとか。多摩川の支流秋川の、そのまた支流にそんな名の川があるのだという。

東京も、このあたりまで来ると緑は濃く、清流の瀬音が心地よい。秋川の本流ほどではないのだろうが、細い山道のところどころにバーベキュー目当てのグループらしき車列が駐車していて、河原は賑やかなようだ。山道に唐突に、西欧風の建物が現れた。地中海料理と民宿の看板が下がっているから、ここがわれわれの目的地らしい。山側には小さいながらも立派な鳥居を構える神社があって、「村社 小宮神社」の扁額を掲げている。

神社の境内を削って整地したのだろう、もう一棟の建物が高台に建っていて、そこがギャラリーだった。焼物のオブジェやガラス細工、織物など、どの程度の作家たちなのかは分からないが、アマの領域は超えている作品が売られている。そうした作品に混じって、本物らしいモジリアーニやピカソのデッサンが額に収まっているかと思えば、中近東の出土物という古代のガラス玉が展示してある。実に混沌としたギャラリーである。

私たちはそのギャラリーでコーヒーを飲み、貸し切り状態の民宿に荷を解き、夕顔の花が開き始めた庭を通ってシャワーを浴び、レストランでパエリアのコース料理を楽しんだ。それにしてもこんな不便な場所でよく経営できるものだと感心する一方で、どこか素人の手作りらしさが漂う建物の凝った内装・外装など、不思議な雰囲気が気になった。以下は小耳に挟んだわずかな話に、私の勝手な想像を大量に加えたフィクションである。

長くヨーロッパで暮らした夫婦がいた。ともにアーティストかもしれず、男性は美術や骨董を扱う仕事もしていたのだろう。帰国し、温めていた構想実現に取り組む。アーティスト村の建設だ。芸術家の卵たちとグループを作り、アトリエやギャラリーを提供する。その基盤としてレストランを経営する。拠点は生活コストの低い辺鄙なところになるから、お客さんがそのまま泊まれる宿も併設する。米英などにみられるB&Bのスタイルだ。

さて、その適地を探さなければならない。戦前、日本光学工業(現ニコン)の山荘として建てられた盆堀・小宮神社の建物が地元に移譲されることになり、地区(あきる野市戸倉)ではその活用法を模索していた。そこでアーティスト村を提案すると歓迎され、古い山荘の大改装に取り組むことになった(のではないか)。

ここからが羨ましいのだが、宿に置いてあったアルバムを観ると、改装作業が楽しくてたまらない、といった様子なのだ。外観はドイツの農家風に梁を漆喰で際立たせ、床や棚はカラフルなタイルのモザイク模様で埋め、ドアのペンキを鮮やかな黄色に塗り替えたりと、図工大好き少年が取り組む永遠の未完作品のようである。

地域の人たちにも融け込んだ、コスモポリタンの暮らしに触れた思いになる。BONBORI ART VILLAGE のレストランは「メリダ」、宿は「ももんが」といった。神社の森にモモンガがいるのだという。(2011.8.17-18)






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