職員室通信・600字の教育学

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『1Q84』と『雨月物語』との共振

2009-06-19 14:27:58 | Weblog


◆前々回、「〈過去〉だけが主役なのだ。だから、〈現在〉や〈未来〉は、主役より目立とうとしてはいけない……」と述べた。
 しかし、〈過去〉を主役にする記述方法となると、その具体的な手法の追究は、わたしには、ちょっと手に負えない、むずかしい問題だ。
 ブレスト的に、いくつかの案を列挙してみると……。

(1)作中場面(現在)と回想場面(過去)の関係
 ①作中場面→回想場面→作中場面
 ②回想場面→作中場面
 どちらの組み合わせにしても、あるいは、量的に回想場面をふくらませるにしても、作中場面が〈現在〉である限り、回想場面も作中場面も中心人物は「わたし」なのだから、〈過去〉は主役にはなれない。

(2)時間軸(垂直)と空間軸(水平)の関係
 ①マンションを出ると、強い風が吹いている→②すぐ右に曲がると、通天閣が見える→③食堂・中将のカウンターの左端に座る……というふうに、通常、空間軸上を抵抗なく移動することができる。
 この時間軸と空間軸をひっくり返して、時間軸上を自由に移動すれば、どうなのだろうか?
 理屈の上では可能だ。
 だが、実際にはエピソードの砕片が散らばるだけのことだ。

(3)散らばった砕片を、つなぎあわせてストーリーをもたせることはできる。
 しかし、ストーリーをもたせるのは、現在の〈わたし〉にほかならないのだから、結局、〈現在〉が主役になってしまう。
 要するに、時間軸上を自由に行き来するということは、時間軸は〈現在〉に固定されてしまうということだ。

(4)〈回想場面〉に沈潜しきる……もちろん、これは可能だ。
 たとえば、2001年に沈潜し、『2001物語』を書くことであって、これが、いってみれば、「過去を生き直す」ということだ。
 しかし、今、これをやるつもりはない。
 口で「過去が主役」といいながら、今、わたしは〈現在〉を離れることができない。

(5)……とすれば、〈現在のわたし〉が、作中場面〈現在〉のシチュエーションと整合性をとりながら、時間軸上を疾駆していく(3)以外に方法はないのかもしれない。
 〈過去〉を主役にすることはできないが、少なくとも、ラッキョウの皮を捨てつづけるという失敗からは免れることができそうだ。

 ゴチャゴチャしただけで、もっともっと〈過去〉を大切にする方向がみえてこない。


◆こういうことで苦しんでいたら、きょうの読売に次のような記述を見つけた。

 東京大の長島弘明教授は『雨月物語』の大きな主題は『執着と分身』。
 約束、お金、復習……。
 何かに異様に執着する人物が現れたり、対照的な性格の夫婦が登場する『浅茅が宿』のように、人物が対で描かれ、相手の姿を通し自分が見知らぬ分身に出会うよう解釈できる話が多い」と話す。
 村上春樹の新作『1Q84』で、男の主人公、天吾は小説執筆にこだわる。
 女の主人公、青豆は彼の分身的存在とも読める。
 春樹文学は、現実と霊界を行き来しながら、執着と分裂の問題を抱えた男女を見据える『雨月物語』と、共振するものが大きい。
 〈窓の紙松風を啜りて夜もすがらに涼しきに、途の長手に労れ熟く寝たり。五更の天明ゆく比……面にひやひやと物のこぼるるを、雨や漏ぬるかと見れば、屋根は風にまくられてあれば有明月のしらみて残りたるも見ゆ〉
 「浅茅が宿」で、久々に妻と一晩を過ごした夫が、明け方、彼女は亡霊で、我が家は廃屋だったと気づく場面の文章だ。
 漢文を読み下すような歯切れのいい調子が、いつの間にかよどみのある和文調に変わり、不穏な空気を醸す。
 現在味わっても、技法は卓抜している。

 わたしが着目しているキーワードは、〈現実と霊界を行き来……〉〈執着と分裂の問題〉〈漢文を読み下すような歯切れのいい調子が、いつの間にかよどみのある和文調に変わり、不穏な空気を醸す……技法〉。


◆日暮れて道通し。

 昼食に天ぷらうどん(250円)を食べたのだが、ひどい胸焼け●~* チチチ 。
 天ぷらのせいだ。
 天ぷらがすぐ崩れて溶解するのも困るが、きょうの天ぷらは固すぎて、最後まで変形しなかった。

 午後から、自分の弱点である家庭教育に関する文献を集める。
 ①家庭の教育力の充実等のための社会教育行政の体制整備について(報告・生涯学習審議会)
 ②幼児教育の振興に関する調査研究協力者会合(第7回)議事要旨。
 ③少子化と教育について(報告)の要旨。
 ④幼児期からの心の教育に関する小委員会(第3回)議事録。

◆きょうの画像は、特に意味はない。
 S3ばかり使って、ほとんど使うことのなかったR5で、室内をパチリとやったら、意外とよく撮れるので、これからももう少し使ってみようと思っている。


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