万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ユーロ危機―関税同盟離脱というもう一つの処方箋

2012年05月18日 11時03分44秒 | 国際経済
日経平均、一時8700円割れ 4カ月ぶり 欧州不安で(朝日新聞) - goo ニュース
 単一通貨ユーロが誕生した日、ヨーロッパは、歓喜に沸きかえっていました。バラ色の未来が約束されたと・・・。誰が、近い将来、ユーロの存続をも危うくする危機が訪れると想像したでしょうか。

 ユーロ危機の発端が、財政危機にあったことから、識者からは、この危機を乗り越えるためには、豊かな国から貧しい国へのさらなる財政移転政策が必要であり、この仕組みを欠く場合には、ユーロ圏の存続は困難、との見方も提起されています。しかしながら、たとえ”財政統合”を推進し、一人勝ちとされるドイツが他のユーロ導入国を財政面で支える制度を構築したとしても、EUの経済が上向くかは未知数です。何故ならば、ドイツの財政負担の増大は、国家間における”貧困の罠”をもたらすとともに、ドイツ自身の経済成長力を削いでしまう可能性があるからです。ユーロ圏構想が練られていた頃は、域外の地域、すなわち、中国を筆頭とした新興国の経済競争力を過小評価していた面があります。たとえEUを枠組みに地域統合を進めても、より競争力のある地域に製造拠点や雇用が流出してしまうのでは、ざるから水がこぼれおちる如く、統合による経済効果は、半減されてしまうのです。その影響は、アジア新興諸国と製品分野などが競合するギリシャ、スペイン、ポルトガル…といった諸国ほど深刻です。ドイツでさえ、技術力における中国の猛追を受け、永遠にユーロ圏を背負ってゆけるのかどうかは分からないのです。

 ユーロ圏では、若者の失業率が平均して50%を越えております。大量失業の発生は、財政危機というよりも、グローバル・レベルにおける地殻変動がもたらしたものであり、部分的な手直しや応急措置だけでは、解決できるとも思えません。EUの危機に対するもう一つの処方箋は、誰も言い出しませんが、皮肉なことに、経済危機に直面する加盟国に対して、関税などについて、暫定的ではあれ、保護主義的な手法の導入を認めるといった、逆戻り政策かもしれないのです(関税同盟離脱…)。理想の追求が、現実を破壊する場合、本当は、どのようにすべきなのか、EUの混乱は、全ての人々に問いかけていると思うのです。

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