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2008年、甦る『蟹工船』~本屋の窓から⑥

2008年12月08日 | 本屋の窓から

 ずいぶん久しぶりの「本屋の窓から」です。テーマは今年出版界最大の話題となった『蟹工船』です。この「本屋の窓」のオッちゃん、実は昔映画の仕事をしていた方です。だから今回は映画『蟹工船』のことが出てきます!

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 年末商戦と言葉あれど、零細業者はそのおこぼれにもありつけない。書店仲間は「痩せ犬のゴミ箱漁りよ」と自嘲する。先日、週刊誌1冊買ってくださいました見知らぬご婦人が囁かれました。「おじいちゃん、2万円の給付金、ありがたいね。出さたのは○○党よ。選挙よろしくね」。

 今年は『蟹工船』ブームが起こりました。市民書房でもボランティアの協力を得て、新潮文庫版を400部あまり売り、総部数は150万部を超えました。角川文庫も復刊。新潮社は「蟹工船、朗読若山弦蔵CD」とコミック版を発売。新日本出版社も「小林多喜二全集」を復刊。河出書房新社が「小林多喜二名作選」。そしてなんと主婦の友社がプロレタリア文学代表作『太陽のない街』(徳永直)を出しました。来年1月に岩波新書で『小林多喜二――21世紀をどう読むか』が出ます。幸徳秋水・堺利彦の古典『共産党宣言』がアルファベータ社から。ドイツでも金融危機を反映して『資本論』が急激に売れ出しています。16の大学で『資本論』講座。学生がその難解さに音をあげているのは、洋の東西同じみたいです。潮目の変わりを感じます。

 今年私は、映画『蟹工船』の話を各所でさせてもらいました。北星映画株式会社に在職していた時の1953年、現代ぷろだくしょん製作の『蟹工船』の配給業務につきました。当時、東宝争議やGHQ指示のレッドパージで映画会社を追われた映画人たちは、いくつもの独立プロダクションを作り、反戦・平和・民主の優れた作品を次々と生み出しました。

 現代プロから『蟹工船』の企画が持ち込まれた時、北星映画の幹部には危ぶむ声が強くありました。苛酷な労働を描く暗い集団劇で、海上ロケなど製作費(3千万円)もかかる。果たしてペイできるか? 当時、北星の独立プロへの配給最低保障は1200万円~1500万円。現代プロ社長の山村聡は、自ら脚本、監督、出演と製作費を抑え、3千万円を調達してきました。彼は『蟹工船』は「自らの映画人としての生き方を世に問うものである」と述べています。この並々ならぬ決意を北星は受け止めました。

 山村聡は、戦前では珍しい東大文学部出身で新派の俳優になりました。井上正夫演劇道場です。座には、杉本良吉、岡田嘉子がいました。戦後、山村の映画初出演は東宝の反戦映画『命ある限り』です。山村はこの映画から教示を受け、以後自分で納得できるものしか出演しませんでした。東宝争議では組合を支持し、山田典吾(製作者、東宝パージ)に請われて現代ぷろだくしょん社長に就任しました。『蟹工船』はヒットし、チェコ・カルロビバリ国際映画祭で監督賞を受賞。山村は以後監督としても5本演出し力量を見せました。

 今年映画は55年ぶりに甦りました。『蟹工船』のDVDの件で昔の東京本社の仲間に出会えました。彼は現代プロの映画版権の管理をしていました。

 今年もあとわずか。何とか年越せねばと老馬老羊、運ぶ荷を求めて冬空の下駆けています。

 

 

 

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