ーアレクサンドリアーAGORA
2009年 スペイン
アレハンドロ・アメナーバル監督 レイチェル・ワイズ(ヒュパティア)マックス・ミンゲラ(ダオス)オスカー・アイザック(オレステス)マイケル・ロンズデール(テオン)サミ・サミール(キュリロス)アシュラフ・バルフム(アンモニオス)ルパート・エヴァンス(シュネシオス)ホマユン・エルシャディ(アスパシウス)オシュリ・コーエン(メドルス)
【解説】
4世紀のエジプトを舞台に、ローマ帝国末期の混乱に翻弄(ほんろう)された女性天文学者ヒュパティアの数奇な運命を描く歴史ドラマ。『アザーズ』『海を飛ぶ夢』のアレハンドロ・アメナーバル監督がメガホンを取り、たぐいまれなる知性を持つヒロインとアレクサンドリア図書館で起こった悲劇をつづっていく。主演を務めるのは、『ナイロビの蜂』のレイチェル・ワイズ。ヒロインの凛(りん)とした生きざまと、異文化間の壮絶な争いは必見に値する。
【あらすじ】
4世紀、エジプトのアレクサンドリア。女性天文学者のヒュパティア(レイチェル・ワイズ)は、あふれる知性と美ぼうを持ち、弟子たちに慕われていた。一方、アレクサンドリアではキリスト教が急速に広まっていき、ついにはキリスト教徒たちに古代の神々を侮辱された科学者が、彼らにやいばを向ける事態に発展してしまい……。(シネマトゥデイ)
【感想】
エジプト旅行に行ったとき、アレクサンドリアには行きませんでしたが、いろいろ歴史を調べたこともあり、この作品の予告を見たとき、是非みたいなあと思いました。
この作品は、4世紀のアレクサンドリアが舞台。
当時のアレクサンドリアはローマ帝国に支配されていましたが、いろんな文化や宗教、民族のるつぼとなっていました。
その中で、女性哲学者として名高かった実在の人物、ヒュパティア(レイチェル・ワイズ)と、アレクサンドリアの成熟した都市としての繁栄が、宗教戦争によってみるも無惨に破壊されて行く物語でした。
ヒュパティアは、アレキサンドリア図書館の最後の館長となったテオンの娘で、新プラトン主義哲学校の校長だった。
教え子にオレステス(オスカー・アイザック)やシュネシオス(ルパート・エヴァンス)がいた。
ヒュパティアは、宇宙の謎、地球の動きや太陽の動きの矛盾のない理論を求めて学問に夢中だった。
絶世の美女だったので、生徒の中にも求愛する者がいたが、ヒュパティアは一顧だにしない。
オレステスの求愛にも、びっくりする方法で拒絶した。
ヒュパティアの奴隷ダオス(マックス・ミンゲラ)も、ヒュパティアを慕う者の一人だったが、身分の違い故に、顔色に出すこともはばかられた。
しかし、ヒュパティアはダオスの賢さは認めていた。
☆ネタバレ
街では、キリスト教信者がローマ本国の威光を嵩に勢力を伸ばしていた。
ギリシャを起源とする哲学や天文学に傾倒する者は、異教徒として排斥されようとしていた。
とうとう、キリスト教信者が反乱を起こし、アレクサンドリア図書館が襲われ、神々の像が破壊され、書物が焼かれた。
10年後、オレステスはキリスト教に改宗して長官に、シュネシオスはキリスト教信者の有力者になっていた。
ダオスは奴隷から脱走し、修道兵士となっていた。
ヒュパティアは相変わらず、地球の軌道について考えていた。
宇宙の真理がわかれば死んでもいいと思うほどの情熱で。
あるとき、地球は自転していて、太陽を回る軌道は楕円ではないかと思い当たる。
それは、キリスト教にとっては異端の考え方だった。
キリスト教信者は、人間や地球やこの世のいっさいのものは、神が作り給うたものと信じていたから。
オレステスはヒュパティアに改宗することを嘆願するが、ヒュパティアには覚悟があった。
そして、ヒュパティアはキリスト教徒に捉えられ、かつてアレキサンドリア図書館だった建物に連れて行かれ、衣服をはぎ取られた。
今にも惨殺されようとするそのとき、ダオスが現れ、彼女の口と鼻を塞ぎ、窒息死させたー。
事実は、ヒュパティアは生きたまま、牡蠣の殻で肉をそぎ落とされて殺されたそうです。
なんと、残酷な…。
ヒュパティアを慕うダオスが彼女に尊厳ある死をもたらしたと考えた方が、少しは救われます。
このころのキリスト教は、新興宗教として、従来の秩序や腐敗した政治のシステムを破壊するエネルギーとなったのでしょう。
長い間虐げられて来た人々が、すがりついたのは、生まれながらにして人は平等だと言うキリストの言葉だったのでしょう。
しかし、この宗教戦争によって、アレクサンドリアの人が解放された事実はありません。
キリスト教はユダヤ教を追放するが、いくども宗派の争いを繰り返し、結局はイスラム教の支配となります。
現在は、コプト教、エジプト独特のキリスト教として人口の1割程度の人がその信仰を守っています。
歴史は繰り返される。
何度も、何度も。
宗教で人心を操るやり方は、本当に怖いことです。
「異教徒」とか「魔女」という決めつける言葉は、人々を狂わせ、とても恐ろしい。
この妄信的な破壊によって、ギリシア時代から営々と培われてきた、科学の真理や人類の叡智というものが粉々に破壊されてしまったのでした。
ここから、また長い時間をかけて、人類は宇宙への道を手に入れたわけですが、今日の原発問題なんかを考えると、科学は人類に明るい未来をもたらしたのかどうかということも疑問に思います。
人は、なぜもっと謙虚になれないのかなあ。
科学の進歩は素晴らしい。
宗教が人の心を成長させて来たことも、また真実でしょう。
科学や宗教の善なる面だけで、人は生きていけないのか?
ヒュパティアの悲劇を見て、失われたアレクサンドリアを見て、人間の愚かさを嘆くよりも、同じ間違いを繰り返さないことを学びたいと思いました。
レイチェル・ワイズがいいです。
知性的で毅然と美しいヒュパティアにぴったりでした。
アレハンドロ・アメナーバル監督の意欲作、もう少し、評価が高くてもいい映画だと思いました。
女性でさえも残虐な方法で殺されるのは、人々がなにかに取り憑かれているとしかかんがえられません。
怖いです。
人は、宗教によって残酷になるということも、学びたいです。