ー春との旅ー
2009年 日本
監督=小林政広 キャスト=仲代達矢(忠男)徳永えり(春)大滝秀治(金本重男)菅井きん(金本恵子)小林薫(木下)田中裕子(清水愛子)淡島千景(市川茂子)長尾奈奈 柄本明(中井道男)美保純(中井明子)戸田菜穂(津田伸子)香川照之(津田真一)
【解説】
足が不自由な元漁師の祖父と仕事を失った18歳の孫娘が、疎遠だった親族を訪ね歩く旅に出る姿を描いたヒューマンドラマ。『愛の予感』などで国際的にも高い評価を受ける小林政広監督の8年越しの企画となる作品で、高齢者問題を切り口に生きることの意味を問いかける。主演は数々の巨匠たちの作品に出演してきた名優・仲代達矢、彼の孫・春役には『アキレスと亀』の徳永えり。そのほか大滝秀治、菅井きん、小林薫ら実力派が脇を固める。
【あらすじ】
足の不自由な元漁師の忠男(仲代達矢)と仕事を失った18歳の孫娘・春(徳永えり)は、忠男の生活の面倒を見てもらおうと疎遠だった親類縁者を訪ね歩く旅に出る。親族との気まずい再会を経るうちに、忠男はこれまで避けてきた過去と向き合わざるを得なくなる。そんな祖父の葛藤(かっとう)を間近に見ていた春にも、ある感情が芽生えていく。
【感想】
大塚まさじさんがDJを勤めているfmcocoro(関西ローカル)の「ムーンライトマジック」という番組を、毎週金曜日の夜、楽しみに聞いているのですが、先日の放送に映画監督の小林政広さんがゲストに出られていて、この「春との旅」の話をなさっていました。
「おっ、見忘れているわ」と思って、あわててDVDを借りました。
日本映画のDVDには珍しく(と思うのですが)、特典にたくさんインタビューが乗っていて、それも面白かったです。
徳永エリさんは女優として、相当しごかれたようですね。
クライマックスの撮影では、過呼吸にるくらいがんばっておられましたが、スタッフはそれで当たり前みたいな態度で。
女優って辛い仕事だなあと思いました。
DVDの特典では、なかなか厳しい監督のようでしたが、ラジオでお話しされている小林監督はとても優しくて、映画の仕事は一段落で、大阪の池田市に引っ越して来られたとお話しされていました。
若い頃は、林ヒロシの名前でフォークソングを歌っておられたそうで、高田渡さんに影響を受けたとおっしゃっていました。
さて、本題です。
にしんが豊漁だという時代に故郷を出て漁師になった忠男(仲代達矢)ですが、いまでは、足が不自由で漁師もできず、妻にも先立たれ、娘も自殺して、孫娘の19歳の春(徳永えり)に世話になっている有様です。
ところが、春が給食係として勤めていた小学校が廃校となり、この小さな村では就職口もなく、思い切って東京に出ようとしても、忠男が一人で暮らせないということで口論となり、忠男は「兄弟に世話になるから、お前はどこにでも行け」と家を飛び出しました。
あわてて春も追いかけます。
二人は汽車に乗って宮城県気仙沼へ。
祖父と孫娘のロードムービーです。
まず、長男なのに大家の養子に入った兄重雄(大滝秀治)を訪ねます。
歓待はしてもらいますが、同居の話は断られます。
重雄夫婦も、近々施設に入る予定なのです。
「息子夫婦には逆らえない」と悲しそうに言いました。
次はやんちゃな弟。
毎年年賀状が来る住所を訪ねますが、みつかりません。
漁師の木村(小林薫)に聞いてもわからなかったのですが、春と同い年の男の子がいる家というので清水愛子(田中裕子)の家を教えてもらいました。
その清水家も留守、諦めて出発しようと駅前の食堂に入ったら、清水愛子が経営する食堂でした。
弟と愛子は入籍せず、弟は今他人の罪をかぶって刑務所に入っているということでした。
毎年来ている年賀状は愛子が書いていたものでした。
二人は忠男の姉成子(淡島千景)を頼って宮城県大崎市の鳴子温泉へ。
成子はここで温泉旅館を経営していました。
働き者の春を見て、「後継者にならないか」と持ちかけますが、忠男には「一人で生きなさい」と諭します。
春は、やはり忠男を一人にしておけないので、成子の申し出を断ります。
末の弟道男(柄本明)は、仙台市で不動産経営をしていましたが、これも住所には家がありませんでした。
近所に聞くと、マンションに引っ越したと言うこと。
どうも、経営に失敗したようです。
案の定、兄弟喧嘩が始まりました。
それでも兄弟、近所のホテルにいいお部屋を取ってくれました。
祖父が兄弟たちとうまくいかないまでも、芯のところで情深くかかわり合うのを見て、幼い自分を棄てて出て行った父親に会う勇気がわいてきました。
船に乗って苫小牧へ、そして日高町の父が経営する牧場を訪れました。
父の後妻の伸子(戸田菜穂)が快く迎えてくれました。
父と初めて向き合って、心の中のものを全部ぶつけた春。
伸子に一緒に住もうと申し出られたけれど、断ってしまった忠男。
二人は、思い残すこともなく、また二人で生活を始めるために故郷に戻って行くのでした。
特典で仲代さんも言っていましたが、「なぜ忠男は一人で暮らせないのか?」
私もこれがずっと謎でした。
でも、見終わったときには、忠男ではなく、春が独り立ちするために、忠男が春に何かを気づかせる旅だったんだなあと思いました。
また、忠男も、自分の人生を振り返る旅でもあったのです。
時代を責めても始まらない。
人を責めても始まらない。
結局は、自分から始めるしかないんだということですね。
それを心の底から思い知って、また、そこには人と人との情けが溢れていると言うことも学んで、これからの春は、一人でも強く生きて行けるんじゃないかなあ。
厳しい作品だったけど、また、ロケ地が今回の被災地であると言うことで、なおさら心が痛んだけど、ひとりひとりが強くなって、乗り越えていくしかないんだと思いました。
被災地への励ましともなるいい作品でした。