ーブラインドネスーBLINDNESS
2008年 アメリカ
フェルナンド・メイレレス監督 ジョゼ・サラマーゴ原作 ジュリアン・ムーア(医者の妻)マーク・ラファロ(医者)アリシー・ブラガ(サングラスの娘)伊勢谷友介(最初に失明した男)木村佳乃(最初に失明した男の妻)ドン・マッケラー(泥棒)モーリー・チェイキン(会計士)ミッチェル・ナイ(少年)ダニー・グローヴァー(黒い眼帯の老人)ガエル・ガルシア・ベルナル(バーテンダー/第三病棟の王)
【解説】
『シティ・オブ・ゴッド』のフェルナンド・メイレレスが、ノーベル文学賞受賞作家ジョゼ・サラマーゴの小説を映画化した心理パニック・サスペンス。視界が真っ白になる伝染病がまん延する状況下で、人間の本性や社会の恐怖をあぶり出していく。出演は『ハンニバル』のジュリアン・ムーアをはじめ、日本からは伊勢谷友介と木村佳乃が参加するなど、国際色豊かなキャストが実現。サスペンスフルな展開と深遠なテーマで見せる注目の衝撃作。(シネマトゥデイ)
【あらすじ】
街の交差点に止まった車の中で、何の前ぶれもなく突然目が見えなくなった男(伊勢谷友介)がパニックに陥る。その後、男は検査を受けるが原因は一向にわからない。しかも彼に接触した者も次々と視界が白くなり、目が見えなくなっていった。そんな中、療養所と呼ばれる隔離病棟が設けられ、発症者は強制的に収容されるが……。(シネマトゥデイ)
【感想】
「シティ・オブ・ゴッド」に驚き、「ナイロビの蜂」に感動した私。
この作品も、カンヌ映画祭のオープニング映画として話題になったのを見て、とても楽しみにしていました。
またまた、お友達が試写会のチケットを下さって、見ることができました。
感謝!!
☆ネタバレ
突然交差点で視力を失った日本人男性(伊勢谷友介)。
パニックに陥り、親切な男が自宅まで車を運転してくれた。
という始まり方ですが、思い返すと、ここから映画のテーマは始まっていたのですね。
正体不明のウィルスが巻き起こすパニックの話ではなく、困っている人につけ込む悪党の方。
この人は、親切ごかしに近づいて、日本人から車を奪って逃走しました。
この時は、この人が悪党だからだと思いましたが、物語が進むにつれて、誰が悪党とか、言えなくなります。
悪が犯罪として存在するのは、社会の規範があるからです。
日本人男性に近づいた人は、みんな失明して行きます。
前述の悪党しかり、彼を診察した医者しかり、妻(木村佳乃)ももちろんです。
政府は、この急激な蔓延を防ぐため、発症した人を片っ端から療養所に送り込みました。
政府はパニック状態で、ただただ患者を隔離することしか考えず、そこから出て来る人を軍隊が銃で威嚇したり、あげくには射殺してしまうほどの混乱状態です。
こうして、社会と隔絶された療養所は無秩序の世界になってしまいました。
医者の妻(ジュリアン・ムーア)以外は目が見えない人々、しかも突然失明した人ばかりです。
ここまでは平等。
人は無秩序のなかで、どう行動するのか。
そう考えたら、この作品は実験映画の性格ももっているなあ、と思いました。
やがて現れる指導者?
リーダー?
キング?
キングって何なのか。
ゴッドって何なのか。
リーダーって何なのか。
バーのバーテンだったのに、療養所では自らキングだと名乗る(ガエル・ガルシア・ベルナル)。
無秩序な世界では何が起こるかわからない。
もともと盲人だった人が優位性を誇示するとか、見えない閉ざされた社会でも、自分の価値観は変えられないこととかーキング(ガエル・ガルシア・ベルナル)が、食料を独占し、その対価としてまず要求したものは金品でした。療養所では何の役にも立たないのにー
知的で教養もある医者(マーク・ラファロ)が、屈辱に耐えられず、衝動的に女性と関係してしまうとか、やがて食料の対価に女性が差し出されるとか…
そして、最悪の殺人事件がおこり、放火から火事にー。
医者の妻は、キングへの反逆を決意し、グループの人々を連れて療養所を出ます。
しかし、外の世界も盲人で溢れ、無秩序に成り果てていました。
人々は残飯を漁り、見えない目を見開いて食べ物を奪い合っていました。
この映画は、いろんな比喩や示唆に富んでいると思いました。
突然の集団失明は単なるたとえに過ぎません。
聖書で言えば、ノアの方舟とか、バベルの塔に匹敵する出来事です。
おごった人間への神の怒りの象徴です。
問題は、突然陥った無秩序な世界で、人は何ができるのかということでしょう。
無秩序な世界とは、これから来ることが予想されている新型ウィルスによる病気が蔓延した世界かもしれない。
新しい戦争かもしれないし、世界大恐慌のようなものかもしれない。
人類の歴史はいままでも、幾度となく無秩序を乗り越えてきたし、いまもメイレレス監督の「シティオブゴッド」に描かれていたような貧困と暴力の街があるでしょうし、「ナイロビの蜂」で描かれた文明の届かない場所があるのでしょう。
平和の文明の恩恵にどっぷりの私たちは、他人事の様に、気がつかないだけです。
メイレレス監督に、平和な日常のすぐ隣り合わせにある無秩序の世界を見せられた観客たち。
人間って、生まれながらに悪なのかなあ?
想像するだけでも悲しい恐ろしい世界だけど、それも人間の本質の一部だと冷静に捉えて、この作品の様に、答えを探す努力も必要なのだと思いました。