ー哀しき獣ーTHE YELLOW SEA/黄海
2010年 韓国
ナ・ホンジン監督 ハ・ジョンウ(グナム)キム・ユンソク(ミョン)チョ・ソンハ(テウォン)チョン・マンシク(刑事)
【解説】
『チェイサー』で注目を集めたナ・ホンジン監督とハ・ジョンウ、キム・ユンソクのコンビが再タッグを組んだフィルム・ノワール。借金返済のため、危険を顧みず韓国に密入国した韓国系中国人が、ある殺人事件に関与したことで味わう奈落の底のような人生をダイナミックに描き切る。どこまでも孤独な男をハ・ジョンウが体当たりで演じ、まるで野犬のような悪の権化をキム・ユンソクが怪演する。怒とうの暴力の奥深くにひそむ人間の悲しいさがや業の深さに、りつぜんとする。
【あらすじ】
グナム(ハ・ジョンウ)は、中国延辺朝鮮族自治州でタクシー運転手としてまじめに働いている。だが、妻を韓国に出稼ぎに出した際に作った借金はかさみ、頼みの綱の妻からの送金も連絡さえもすでに途絶えてしまっていた。そんなとき、彼は地元を牛耳る犬商人のミョン(キム・ユンソク)から借金清算の代償としてある条件を出されて……。(シネマトゥデイ)
【感想】
ナ・ホンジン監督「チェイサー」
ー私の知り合いでは見た人がいなくて、こんなにエキサイティングな映画は無いと思っている私としてはとても残念なのですが、その監督が、「チェイサー」の主演のハ・ジョンウ、キム・ユンソクを迎えての第2弾。
そういいながらもこの作品、あまりに怖そうで、映画館へ見に行く勇気が持てなかった私ですが、DVDでようやく見ることができました。
想像通り、怖かったですよー。キャー!!
「チェイサー」では、異常な犯人役だったハ・ジョンウは、今回は中国の中の朝鮮族自治区で貧しいタクシー運転手のグナムという役。
グナムには、妻と幼い娘がいるが、生活が苦しく、妻はソウルへ出稼ぎに行ったが、連絡が途絶え、ソウルに行くために借金したお金の利子が膨れ上がって、毎日やくざ の厳しい取り立てにあっている。
かけ麻雀やっても負けてばかり。
「借金は一生返せないぞ」と、グナムに声をかけたのが彼は地元を牛耳る犬商人のミョン(キム・ユンソク)。
「チェイサー」では、刑事崩れで犯人を追いかけるちょっと不細工なおっさんでしたが、今回は得体の知れないモンスターのような男。
グナムに持ち込まれた話は、ソウルへ行きある男を殺して死体から親指を切りとって持って帰れというもの。
そうすれば、妻を捜せるし、借金も棒引きにする上に報酬も払う、という。
グナムには選択の余地はなかった。
☆ネタバレ
ソウルに入り、目的の男を探し出したグナム。
帰りの舟に間に合わせるためには、10日間しか無い。
その舟に乗らなければ、母親も娘も命が無いと脅されている。
目的の男はオリンピックに出場したこともある韓国の英雄、現在は教授だが、実業家の一面も持つお金持ちの男だった。
セキュリティがしっかりしている自分のビルの最上階で住んでいた。
張り込んで、教授の帰る時間や習慣を調べ、襲うシュミレーションもできた。
一方で妻を捜す。
妻は、職場を辞めて、違う店で働いているらしい。
突き止めたアパートはもぬけの殻で、荒らされていて、血のりもついていた。
隣の男に聞くと、1時間前まで喧嘩している声が聞こえていたと言う。
いよいよ、殺人決行の晩、なんと、二人組が教授を襲い、あろうことか、教授の運転手が教授を殺した。
グナムは、運転手ともみ合いになり、彼を殺し、教授の親指を切り取った。
それを教授の妻に目撃され、警察もやってきて大騒ぎになる。
韓国の警察は、実際にはここに描かれているほどドジではないと思いますが、追っ手をかいくぐってグナムは逃げ続けます。
さらに、運転手を刺客として送ったバス会社の社長の手下たちも、警察より先にグナムを亡き者にしようと追いかけてきます。
さらに、中国からミョンも乗り込んできて、これでもかこれでもかというくらいの、殴り合い、カーチェイス、血みどろの闘いが繰り広げられます。
逃げ続けるグナムもすごいけど、ナタを片手に、ガンガン追いかけてくるミョンが怖い怖い。
「自分はどんな事件に巻き込まれたのか」グナムは教授夫人につぶやきます。
この絡まった謎が、最後にはすっと解けるラストですが、あまりのアホらしさに、なんと言うべきか。
グナムは、自分たちの手を汚さないために雇った殺し屋のさらに下請けだったということですが、妻も事件に巻き込まれて死んでしまったと絶望したグナムは、娘に会うこともなく舟の上で死に、黄海に沈められるという最期でした。
原題は「黄海」。
グナムが密航して渡ってきた海です。
最近でも、中国、北朝鮮、韓国の間で問題のある地域です。
朝鮮族という人たちがいるということも知りませんでしたが、中国でも最低の生活を強いられ、同じ韓国人なのに差別されているという背景で描かれている作品でした。
だから、よその国の事情という冷めた感情で見ていたのですが、それにしてもタフな男たちでした。
鋭い包丁と斧で殴り合って、血だらけになってもまだ殴り合っていました。
この突き抜けた暴力描写が、ナ・ホンジンの本領です。
「チェイサー」とこの作品の2本で、彼は巨匠になったことは間違いないと思いました。
手で顔を覆いながら、血みどろのシーンを見ていたのですが、そこにはグナムの純愛と言うテーマが通っているので、邦題通りの「哀しさ」が胸を突きました。
希望は、グナムの妻が故郷に帰ってきたと示唆するエンディングの映像でした。
幼い娘は、母と会えたでしょう。