ーミラルーMIRAL
2010年 フランス/イスラエル/イタリア/インド
ジュリアン・シュナーベル監督 ヒアム・アッバス(ヒンドゥ・フセイニ)フリーダ・ピント(ミラル)アレクサンダー・シディグ(ジャマール)オマー・メトワリー(ハーニ)ヤスミン・アル・マスリー(ナディア)ルバ・ブラル(ファーティマ)ウィレム・デフォー(エディ)ヴァネッサ・レッドグレーヴ(ベルタ)
【解説】
孤児院で育ったパレスチナ人少女ミラルの目を通して、イスラエルとパレスチナの激動の歴史、そして紛争のさなかで孤児たちを育てた女性の姿を描く感動ドラマ。『バスキアのすべて』『潜水服は蝶の夢を見る』のジュリアン・シュナーベルがメガホンを取り、パレスチナ人ジャーナリストの実話を基に作品を作り上げた。『スラムドック$ミリオネア』のフリーダ・ピントがミラルを演じるほか、『シリアの花嫁』のヒアム・アッバスや『シャドウ・オブ・ヴァンパイア』のウィレム・デフォーが共演。平和の尊さを感じると共に、荒涼としているが美しい光景が深く印象に残る。
【あらすじ】
1948年のイスラエル建国直前。路上にうずくまる子どもたちを見かねたヒンドゥ(ヒアム・アッバス)は、子どもたちを育てることを決意。孤児院の子どもたちは増えていき、母親を亡くしたミラル(フリーダ・ピント)も連れてこられた。1987年、17歳になったミラルはイスラエルに蜂起したパレスチナ人によるインティファーダに参加。しかし、警察に連行されてしまい……。(シネマトゥデイ)
【感想】
中東紛争のニュース、若い時はよく聞きましたね。
日本の赤軍派の人たちも、日本から離れ、パレスチナを支援して闘っていました。
テロの事件もよく耳にしました。
それでも、私には遠い国。
そして、怖いイメージのある地域です。
4人の女性が登場しますが、最終的にはタイトルにもなっているミラル(フリーダ・ピント)という女性が主人公です。
「ミラルは道ばたに咲いている赤い花。あなたも知っているはず」
実在のパレスチナ人ジャーナリストだそうです。
ミラルを語る前に、ヒンドゥ(ヒアム・アッバス)の物語。
ヒンドゥは有力者の父を持つ裕福な家の娘でした。
親交のあるイギリス人、ベルタ(ヴァネッサ・レッドグレーヴ)のクリスマスパーティの為に、毎年生のクリスマスツリーをプレゼントしていました。
1948年イスラエル建国。
世界各国からのユダヤ人入植が始まり、いままで住んでいたパレスチナ人が家を奪われ、町には孤児が溢れていました。
ヒンドゥはその子供たちを家に連れて帰り、本格的な学校作りを始めました。
各方面から支援を取り付け、最大で2000人もの子供を預かっていたようです。
話は変わって、ナディア(ヤスミン・アル・マスリー)。
父から性的虐待を受けていたナディアは家出するが、働く場所は場末の酒場で踊り子をするしかなかった。
結局お酒に溺れ、アル中となり、あるとき傷害事件を起こして監獄に入れられた。
監獄では元看護婦のファーティマ(ルバ・ブラル)と同室となり、優しくしてもらう。
この優しいファーティマはみんなからテロリストと呼ばれ、無期懲役を3つという罪状だった。
ファーティマは、自分の病院に手当を受けに来たレバノンからの軍人たちを、イスラエル軍に収監される前に逃がしたのだ。
彼らがパレスチナ人のために闘ってくれたというのがその動機だった。
そしてその罪が、無期懲役だった。
ファーティマは、ナディアの身元引き受け人を自分の家族に頼んでくれた。
ファーティマの弟のジャマール(アレクサンダー・シディグ)は、モスクの管理人で神に仕えて静かに暮していたが、ナディアを一目で気に入り、お腹の子供もろとも引き受け、結婚してくれた。
そして生まれた子供がミラルだった。
でも、ナディァのアルコール中毒はどんどん酷くなり、ミラルが7歳のときに自殺してしまった。
ジャマールは、母親と同じ道を歩ませないために、ミラルの教育をヒンドゥに託した。
ミラルは17歳になった。
ボランティアで難民キャンプの教師となって行ったとき、イスラエル軍が無惨にもパレスチナ市民の家を取り壊すシーンで出くわした。
ショックを受けたミラルは、ヒンドゥに止められたにもかかわらず、デモに行き、親友の少女が銃で撃たれて亡くなってしまった。
そのことから、反政府運動をしているインティフィーダの所属するハーニ(オマー・メトワリー)と知り合い、淡い恋心を持つようになった。
父やヒンドゥと諍いながら、運動と恋にのめり込むミラル。
とうとう、当局に逮捕されきつい取り調べを受け、拷問まで受けてしまう。
それでも24時間の拘束を耐えて、釈放されたが、心に深い傷を負った。
歴史は大きく動こうとしていた。
イスラエルとパレスチナ、二つの国が和平への道を探り始めた。
これが、いわゆる1993年の「オスロ合意」でしょうか。
その功績により、当時のアラファト議長、ラビン首相、シモン・ペレス(当時外務大臣、後の大統領)がノーベル平和賞を受賞しました。
ところが、1995年にはラビン首相は暗殺され、その後の交渉もことごとく決裂。
パレスチナ問題の解決への道のりはまだまだ遠いというのが実情でしょう。
父が病のあとに亡くなり、ハーニも裏切り者として殺されてしまいます。
ミラルはジャーナリストとして生きることを決心し、奨学金を得てイタリアに旅立ちました。
その後、ヒンドゥも亡くなりますが、その業績は人々の心に深く根付いていることでしょう。
武力や政治力ではなく、教育でパレスチナの未来を開こうとしたヒンドゥの業績は、困難な状況の中に一筋の光明を見いだす礎だと思いました。
彼女こそが英雄ですね。
暴力で始まる歴史は多いけど、それを平和に導くのは、非暴力と教育だと言うことを絶対忘れてはいけない。
監督のジュリアン・シュナーベルはユダヤ系のアメリカ人で、この映画を作っていく上で困難や葛藤がたくさんあったと思いますが、ミラルという数奇な運命を持つ女性に、ヒンドゥの願いを込めた、いい作品だと思いました。
庶民レベルでは、ミラルの従兄がユダヤ人の女性と恋愛していたり、ミラルもその女性と親しく交流する姿が描かれていました。
人種の偏見は、作られたイメージだということがよくわかるシーンでした。
友達になったら、人種や国籍は関係ないですものね。
この作品を見ても、このパレスチナ問題はとても根が深く、こじれ切っているということがよくわかりますが、中東に平和がもたらされたときに、世界の平和もやってくるのでしょう。
人類の叡智を集結させたいものです。