ー天才スピヴェットーTHE YOUNG AND PRODIGIOUS T.S. SPIVET/L'EXTRAVAGANT VOYAGE DU JEUNE ET PRODIGIEUX T.S. SPIVET
2013年 フランス/カナダ 105分
監督=ジャン=ピエール・ジュネ 原作=ライフ・ラーセン キャスト=カイル・キャトレット (T・S・スピヴェット)ヘレナ・ボナム=カーター (クレア博士)ジュディ・デイヴィス (G・H・ジブセン)カラム・キース・レニー (テカムセ・E・スピヴェット)
【解説】
『アメリ』『ロング・エンゲージメント』などのジャン=ピエール・ジュネが、ライフ・ラーセンの小説「T・S・スピヴェット君傑作集」を実写化したアドベンチャー。発明家を対象とした権威ある学術賞に輝いた10歳の天才少年が、授賞式出席のためにモンタナからワシントンへと向かう中で体験する冒険を映す。『英国王のスピーチ』などのヘレナ・ボナム=カーターをはじめ、ロバート・メイレット、ジュディ・デイヴィスらが出演。主人公である少年の創造力や発想力を具現化した、ジュネ監督ならではのビジュアルにも目を奪われる。
【あらすじ】
天才だが、それゆえに周囲との溝を感じる10歳の少年T・S・スピヴェット(カイル・キャトレット)。そんな彼にスミソニアン学術協会から、最も優れた発明家に授けられるベアード賞受賞を知らせる電話が。授賞式に出席するため、彼はたった1人で家のあるモンタナからワシントンへ旅立つことに。さまざまな出来事や人々と出会いながら、カウボーイの父親、昆虫博士の母親、アイドルを目指している姉、事故によってこの世を去った弟へ思いをはせるスピヴェット。やがて彼はワシントンに到着し、授賞式に臨む。(シネマトゥデイ)
【感想】
「アメリ」「ロングエンゲージメント」のジャン=ピエール・ジュネ監督。
いつもは皮肉っぽい作風ですが、これはとってもハートウォーミングな作品でしたよ。
アメリカの片田舎モンタナ州に住む天才少年T・S・スピヴェット(カイル・キャトレット)。
お父さんは100年くらい遅く生まれたんじゃないかというくらい時代遅れのカウボーイ(カラム・キース・レニー)。
お母さんは、世情に疎い昆虫博士のクレア博士(ヘレナ・ボナム・カーター)。
お姉さんのグレーシーはアメリカンアイドルを夢見ている(ニーアム・ウィルソン)。
双子の弟レイトン(ジェイコブ・デイヴィーズ)は、お父さんお気に入りで肉体派カウボーイになるはずだった。
「だった」というのも、レイトンは銃の暴発で死んでしまったから。
レイトンを分身のように愛し、尊敬していたT.Sの心の傷は計り知れない。
T.Sは自分がいくら頭が良くても、それが自己肯定とは思えない。
むしろコンプレックスになっていた。
でも、両親も、姉も、深く傷ついていて、自分のことで精一杯だった。
天才T.Sは、スミソニアン博物館に送った発明品の「永久磁気車輪」に賞が送られることになったと、副館長のジプセン女史(ジュディ・デイヴィス)からの電話を受ける。
ジプセンはT.Sの父親が研究者だと勘違い。
授賞式に招待した。
T.Sは家族に内緒で、アメリカ大陸を横断してワシントンD.Cに行くことを決心した。
☆ネタバレ
見所は、T.Sが小さい体に大きな旅行鞄を持って、貨物列車に乗り込み大陸を横断するところ。
鉄道の保安員から逃げたり、古い貨物列車に乗っていた浮浪者と出会ったり、ホットドッグ屋のおばさんや、ヒッチハイクしたおじさんから親切にしてもらったり、おまわりさんに追いかけられたり楽しいエピソードも満載ですが、亡くなったレイトンとの心の交流がせつない。
母親の日記も持ち出して、家族を思いながらの孤独なロードムービーです。
クライマックスではスミソニアンでの授賞式で行ったT.Sのスピーチ。
とうとう、心の傷、レイトンの事故について語り始めます。
T.Sの懺悔の告白。
こんな小さい子が…涙、涙。
一躍有名人になったT.S。
テレビの生放送に母のクレア博士が登場し、レイトンの事故にT.Sは責任がないと断言し、銃社会と銃を持たせた父親の教育方針を批判します。
ここが、監督の一番言いたかったところでしょう。
二人は抱き合い、スタジオを後にします。
カメラにつきまとわれながら、テレビ局を出ようとする二人を、父が迎えにきました。
父と母は仲直りできるでしょうか?
口では父に批判的な母ですが、そのお腹には赤ちゃんが。
この一家、変わり者ばかりですが、いい家族なんですよねえ。
悲劇に見舞われましたが、レイトンの面影を胸に生きて行くのでしょうね。
全編を通じて、緻密なイラストが出てきますが、これは原作者のライフ・ラーセンの挿絵を使っているそうです。
とっても魅力的なイラストです。
越冬するすずめが、いろんな樹に庇護を求めるが断られ、針葉樹の松だけが守ってくれたと言う寓話を、浮浪者のおじいさんから聞いたT.S。
「自分の松」がきっと見つかるよ、と、T.Sは出会った人たちを励まします。
自分はとても傷ついているのに、すごい天才で、すごく心優しいT.S。
T.Sに出会えて、私もとても幸せな気持になりました。
お薦めです。