マダムようの映画日記

毎日せっせと映画を見ているので、日記形式で記録していきたいと思います。ネタバレありです。コメントは事前承認が必要です。

読書 ミレニアムシリーズ

2012-04-05 09:46:12 | 読書

ーミレニアムー

作者=スティーグ・ラーソン 訳=ヘレンハルメ美穂・岩澤雅利(2巻は山田美明)

2005年スウェーデンで発行

 

スウェーデン版の映画も、デヴィド・フィンチャー監督のハリウッド映画もすごく気に入った私は、原作も読んでみました。

全3巻、1巻が上下に分かれているので、かなりな長編といえますが、面白かったですよ。

久しぶりに、一気に読んでしまいました。

ハリウッド版のリスベット(ルーニー・マーラ)

 

作者のスティーブ・ラーソンはスウェーデンのジャーナリストで、全部で5巻の構想を持っていたという。

しかし、3部作を書き終えて、4部に取りかかった2004年に心筋梗塞で急死した。

 

確かに、いろんな伏線が張られていると感じるところが随所にあり、才能のある作家の急逝は惜しまれますね。

とくに、リスベットの双子の妹など、名前と性格しか出て来なくて、これは絶対4部5部の主要人物だと確信させるんだけどなあ。

残念です。

 

第1部「ドラゴンタトゥーの女」

原題は「女を憎む男」という意味のタイトルがつけられていて、内容も、女の敵といえる人物が多数描かれます。

 

これがハリウッドで制作された映画の原作で、スウェーデン映画より、ハリウッドの方が原作に近いと感じました。

 

書き出しでは、主人公のジャーナリスト・ミカエル・ブルムクヴィストが、実業家ヴェンネルストレムに名誉毀損の裁判で破れることから始まります。

いままで華々しい経歴を誇るミカエルが、ほとんど弁解らしい弁解もせず、完全に敗北し、多額の罰金と半年後に刑務所へ収監されることを受け入れた。

その上、スキャンダルを恐れ、所属していた雑誌「ミレニアム」を離れることを選択したことから始まります。

 

読者もまだミカエルと言う人物をよく知らないのに、いきなりこれです。

 

大実業家ヘンリック・ヴァンゲルが、彼の弁護士フルーデを通じて、ミントンセキュリティーのドラガン・アルマンスキーにミカエルの調査を依頼した。

この調査を担当したのが、まるで拒食症かと思うような小柄な女性で、しかもパンクロッカーのような異様な出で立ちのリスベット・サランデル。

顔にはピアスのアナだらけで、全身タトゥー、特に背中のドラゴンは見る人を恐れさせるのに十分です。

 

彼女が3巻を通じてのヒロインですが、これもいわゆる愛すべきヒロインからはほど遠い人物像です。

たぶん、彼女はアスペルガー症候群です。

頭脳明晰で天才ハッカーですが、見た目は知的障害者、精神障害者のように見えます。

 

さて、リスベットが調べ上げたミカエルが、ヘンリックにとって信頼すべき人物で、仕事もなくお金にも困っているという弱みもあり、ある事件の依頼をします。

40年も前に起こった、ヘンリックの愛した姪、ハリエットの失踪事件。

 

ミカエルは気乗りがしないものの、ヘンリックは最後の切り札、ヴェンネルストレムの不正の証拠を、秘密が解けた暁には渡してくれるという約束に心を動かされ、受けることを決意した。

 

映画よりも、はるかにたくさんの人が出てきます。

島の地図や人物関係図を参考にしながら読んで行くのはとても楽しいです。

ハリエットの事件はやがて猟奇事件へとつながって行き、思わぬ犯人が表れると言うのは映画と同じです。

 

そして、ヴェンネルストレムの不正はリスベットの活躍によって暴かれ、リスベットは巨額のお金を、ミカエルは名誉を回復するところで1巻の終わりです。

 

第2部「火と戯れる女」

ここからは、映画より遥かに面白いです。

リスベットは大金持ちで世界中を旅行しています。

そして、ストックホルムに戻ってきますが、慎重に身元を隠し、ミカエルに会うこともしません。

 

ミカエルは再び雑誌「ミレニアム」でジャーナリストとして活躍を始めていました。

ダグというフリーのジャーナリストが持ち込んだネタ「未成年の女性の人身売買」というテーマでセンセーショナルな特集を計画していました。

 

そのダクと恋人で研究者のミアが惨殺され、その凶器とされた拳銃にリスベットの指紋がついていたー!!

最重要容疑者となったリスベット。

最大の敵である彼女の父親と対決するしか、逃れる道がないことを悟ります。

 

リスベットの無実を確信するミカエルですが、ダグのテーマを追いかけて行くことで、ミカエルもその命を狙われます。

アルマンスキーたちと阿吽の呼吸でリスベットに協力していくようすが、とてもスリリングで面白いです。

 

1巻ではミカエルが窮地を助けられたように、2巻の終わりにはミカエルがリスベットの窮地を救います。

 

第3部「眠れる女と狂卓の騎士」

眠れる女とは、リスベットのことです。

ミカエルに助けられたものの、リスベットはひどい怪我を負って入院を余儀なくされます。

しかも、殺人の容疑で、治ったら直ちに収監されることになっているのです。

 

リスベットとその父親の存在そのものに国家の秘密があり、亡き者にしようと秘密の組織が動き始めました。

 

自ら「狂卓の騎士」を名乗り、リスベットの無実をはらそうとするミカエルたちのグループ。

ミカエルの妹で弁護士のアニカや、アルマンスキー、最初の後見人のパルムグレン、ハッカーたちが協力して、法廷闘争を繰り広げます。

 

ミカエルとリスベットは最後まで顔を合わせることはないんだけど、その信頼関係がユーモラスで楽しい。

 

リスベットがだんだん心を開いて、不幸な生い立ちの女性が、人間らしく女性らしく成長して行くところが一番のテーマでしょう。

 

スウェーデンって、私のイメージでは、福祉国家で、自由で知的で豊かな国という感じがしますが、第2次世界大戦では、ナチスに加担する人も多かったようです。

性犯罪や女性に対する暴力も根が深いと言うのも驚きでした。

 

でも、恋愛に関しては自由で平等な考え方の人もたくさんいるし、フェミニズムも浸透していることも感じました。

 

緻密に構築されたストーリー。

続きが読めないのは本当に残念ですが、私たちよりもずっと悔しい思いをしているのが、急に亡くなってしまった作家本人でしょう。

今は、スティーグ・ラーソンの冥福を祈るのみです。

 

コメント

図解 裁判のしくみ

2009-08-22 10:09:42 | 読書
ー図解 裁判のしくみー
著者: 永井 一弘 , 濱田 剛史 , 斉藤 豊治
出版社: ナツメ社 (2009/7/17)
14.70円

もう1冊、本のご紹介を。
裁判員制度が始まり、「裁判なんて、わかれへんわー」とは言ってられなくなった時代に、この本はタイムリーではないでしょうか!!

ご紹介に力が入っているのは、この本の著者永井一弘弁護士が、私の飲み友達だからです。
「えーっ、永井センセがこの本書きはったん?」って、びっくりしました。
だって、お会いする時はたいていうちもあちらもご夫婦でたらふく飲んでいる時で、我が家の認識では、よく飲みよく食べ、格闘技の好きな人って感じです。
(永井先生の大食いには伝説もあります。ここでは、とくに言及しませんが)

ついこの間もドジョウの蒲焼きを食べさせる立ち飲み屋で、いい感じで会話が弾んで、「エヴァンゲリオン」がお薦めとおっしゃるから、その魅力について語っていただき、最終的には盛り上がってカラオケまで行ってしまいました。
(これがなかなか高音の美声の持ち主でいらっしゃる!!)

あらー、そんなことを書いたら、この本の値打ちがなくなるようですが、1ページ目を開いてまたびっくり。
優しい言葉で、この本のご挨拶を永井先生ご自身が書いておられました。
「本書を読了して、裁判の傍聴に出かけてください」ですって。
そんなふうに誘っていただいたら、裁判所にも足を向けてみようかなあ、という気持ちになります。

さて、本の中身は、まるで参考書みたい、学生気分に戻れるわーと思いました。
色分けしてあって、平易な言葉で噛んで含めるように書かれてあって、説明が行き届いています。
もう少し深く知りたい人には、欄外に詳しい説明があります。
興味が導かれるように、発展した記事も掲載されています。

まず、裁判とは?からはじまって、いまさら聞けない基本的なところから初めてくださっています。
うちの母なんて、「衆議院が解散したのに、なぜ内閣はあるの?」なんて、言っていますからね。
そういう人のために、司法・立法・行政の三権分立のこともちゃんと書いてありました。

名前だけは知っている有名な裁判の経緯や結果を、見開きで簡単に紹介しているページもあって、これなら私にも興味を持って読めそうかなあ、という内容でした。

いつ裁判員が自分に回って来るかわからない時代。
裁判を身近に感じるという意味で、1家に1冊あってもいい本ではないかな?

コメント

大阪の教科書―大阪検定公式テキスト

2009-05-12 10:16:23 | 読書
<大阪の教科書―大阪検定公式テキスト>
出版社=創元社 橋爪紳也監修 創元社編集部編 発行日=2009年4月
【内容】
ことば・歴史・文化からスポーツ、食べ物、サブカルチャーまで大阪力のエッセンスを1冊に凝縮。読んで見て楽しむ公式テキスト。(「BOOK」データベースより)

【感想】
第1回「大阪検定」が09年6月21日実施されるそうです。
この本は、東京に住む娘がおもしろがって買ってきました。

いろんな専門家が、大阪の様々な事柄について教えてくれる、とても興味深い本なのですが、このなかに、驚くべき記事を見つけました。

それは、4時限目の「芸術・娯楽」という項目。
「大阪ロック・フォークの系譜」というのがあって、その中に「ディランから春一番へ」という小見出しがついている文章があるのです。
この項は、3ページに渡っています。

中村よおさんがこのコーナーを執筆しているのですが、なんと、糸川燿史さんの撮られた「喫茶ディラン」の前での写真まで掲載されています。
西岡恭蔵さん、ママのヨーコさん、あとは永井ようさんと大塚まさじさんじゃないかなあ…とにかく、よくわかりませんが、たくさんの人が映っています。

今はなき、懐かしのディラン。
私も、足しげく通ったものです。

次のページには、天王寺野外音楽堂の「春一番コンサート」の写真も載っています。
ディランセカンドが演奏している写真、ポスターなど、貴重なものです。

記事は復活した「春一番」にも触れて、かなり詳しく書かれてあります。

大阪のフォークやロックのこと、もちろん、難波元町にあった「喫茶ディラン」のことなんて、多くの人が知らなくて当然だと思っていたけど、私も大阪の歴史の生き証人になったような不思議な気持ちになりました。

大阪検定を受ける人は、ちゃんとお勉強してくださいね☆

コメント (2)

天使と悪魔(本)

2009-05-02 11:09:11 | 読書
ー天使と悪魔ー上・中・下
ダン・ブラウン (著), 越前 敏弥 (翻訳)
角川書店 (2006/6/8)

【紹介】
ハーヴァード大の図像学者ラングドンはスイスの科学研究所長から電話を受け、ある紋章についての説明を求められる。それは十七世紀にガリレオが創設した科学者たちの秘密結社“イルミナティ”の伝説の紋章だった。紋章は男の死体の胸に焼印として押されていたのだという。殺された男は、最近極秘のうちに大量反物質の生成に成功した科学者だった。反物質はすでに殺人者に盗まれ、密かにヴァチカンに持込まれていた―。 (amzon.com「BOOK」データベースより)

【感想】
ベストセラー「ダウィンチ・コード」より前に書かれた作品、ダン・ブラウンの第1作目です。
ダウィンチ・コードで大活躍したラングドン教授が、難事件に取り組みます。

敵は「イルミナティ」。
ずつと昔に滅んだと思われていた、ヴァチカンに迫害され、阻害され、恨みを持つ科学者が作った秘密結社。

スイスの最先端の研究所から、人類最大のエネルギーの新発見が盗まれ、その発見者である科学者が猟奇的に殺されたのが発端。
しかも、ヴァチカンでは新しいローマ法王が選ばれるコンクラーベ開催にあわせて、あろうことか4人もの法王候補者への殺人予告がー。

日本人には理解しにくいカソリックの世界観と、科学が対立しているというストーリーですが、ラングドン教授が自分の学生に教えるように明快に説明してくれるので、まったく問題がありません。

ダウィンチ・コードは、前半が説明が多くて乗っていくのに時間がかかりましたが、こちらは冒頭から物語の中へ一気に連れて行かれてしまう感じです。

知的好奇心をくすぐりつつ、恐いもの見たさでどんどん引っ張っていかれます。
まだ見ぬヴァチカンを想像して、地図上で確認しながら、読者も謎解きの旅へ。

結局、有能なラングドンをもってしても、殺人事件は防げず、謎は深まるばかり。
残酷な殺人は次々とおこり、ヒロインはぎりぎりのところで助け出され、ラングドン教授もあり得ない設定で生還します。

ちょっとやり過ぎーと気がついたときは、もう遅い。
すっかり物語の虜になって、「まあ、いいか!めちゃ面白かったー」ということになりました。

ラングドン教授は、私の頭の中ではトム・ハンクスが活躍していたし、予告編で知っているユアン・マクレガーも動き回っていました。

もう映画を見た気分なんですが、もうすぐ公開の映画も、やっぱり見に行ってしまうんだろうなあ。

そして、今一番行ってみたいところが、イタリア、ローマとなりました。

コメント (6)

「ハリー・ポッターと死の秘宝」(ハリー・ポッターシリーズ第七巻)

2008-07-25 18:48:59 | 読書
ー「ハリー・ポッターと死の秘宝」 (ハリー・ポッターシリーズ第七巻)ー
J. K. ローリング (著), 松岡 佑子 (翻訳)
出版社: 静山社 (2008/7/23)
発売日: 2008/7/23

【感想】
わぁお!!
読んでしまいました。

本の発売が世界的なニュースになる本。
すごいなあ。
しかも、日本では翻訳の都合で長い間待たされましたからね。
ほんと、心躍らせて待ち続けましたよ。

主人公たちの誰かが死ぬとか、いろいろな噂や憶測がありましたが、結局雑音は耳に入ってこず、物語に集中して読むことができました。

この7巻では、いままでの謎も全部解き明かされていくし、ものすごいことが次から次へと起きるんだけど、文章は冷静で、むしろ淡々と描かれていました。

子供向きのお話だからと、きれいごとに逃げるのではなく、人生にとって、本当に大切なことは何かーというテーマが、物語の隅々まで貫かれていました。

また、1巻から読み直せば、最初に読んだ世界とは違う世界が広がっているんじゃないかなあ。

想像力をかきたてる長編物語。
大満足の第7巻でした。

しばらく、余韻を楽しみたいと思います。
コメント (2)

おいしいトルコ10日間ー閑話休題 夢枕獏著「シナン」ー

2008-06-04 10:17:29 | 読書
おいしいトルコ10日間ー閑話休題 夢枕獏著「シナン」ー




「シナン」上・下
夢枕 獏 (著)
出版社: 中央公論新社 (2007/11)

【シナンとは誰?】

コジャ・ミマール・スィナン(現代トルコ語 : Koca Mimar Sinan, 1489年4月15日? ‐ 1588年7月17日(4月9日説あり))は、オスマン帝国の建築家。トルコ最高の建築家とされ、生涯で建築作品は477以上といわれる。彼の名に冠される「ミマール(ミーマール)」とは、「建築家」を意味する。
彼の作品は多岐にわたるが、特にモスクの建設において、大ドームを発展させるとともに、鉛筆型の細長いミナレットを特色とする、オスマン建築特有の様式を完成させたとされる。(ウィキペディア)

【感想】
イスタンブールに入る前に、みなさんにぜひ紹介したい本があります。
夢枕獏さんが著わした「シナン」という1冊の本。

ミマール・シナンも、オスマントルコも、イスラム教もなにもかも知らなかった私に、とても平易な言葉で教えてくれた、素晴らしい本。
モスクのことをトルコではジャミィということも、この本で知りました。

推薦してくださった小松さん、ほんとうにありがとうございました。

さてみなさんがもし、イスタンブールに行くことになったら、イスタンブールに入る前に、この本を読んでいただきたい。
イスタンブールへの思いが、何倍にも強くなることを請け合います。

ああ、夢枕獏さんー作家の才能って素晴らしいですねえ!!
NHKの取材で、シナンなんか名前も知らずにイスタンブールを訪れたという夢枕さん。
シナンという建築家を知り、その生涯に触れて行くうちに、小説で最も感動的なシーン、偉大なスルタン・スレイマンとシナンがアヤソフィアを越える建築について話し合うシーンが浮かんだというのです。
そして、8年の歳月をかけて完成したこの小説。
「見てきたの?」というほど、具体的で、ドラマチックな物語でした。

私はこのシーンと、ラストシーンに涙したすぐ後に、イスタンブールに入ることができたので、その感激は言葉ではとても言い表すことができませんでした。

これが、シナンが「ここの神は不完全」と表した世界でも最大級のモスク、アヤ(聖)ソフィア…。
これが、スレイマンの娘と結婚した大臣の名前を冠したリュステル・パシャ・ジャミィ。
ロクセーラーヌがハサンを呼びつけたトプカプ宮殿のハレム。

そして最終日、スレイマンの廟、ロクセラーヌの廟、シナンの墓も訪れることができました。
シナンがスレイマンのために建て、アヤソフィアの規模を越えることができなかったのに、偉大なスルタンを感動させたジャミィースレマニエ・ジャミィはあいにく補修中で中を見ることはできませんでしたが、シナンのふるさとの山に似せて作られたという外観は、いろんな角度から眺めることができました。

小説の中で、過酷な運命に翻弄されながらも、自分らしく生き生きと生きていた登場人物たち。
彼らが眠るイスタンブールをこの目で見ることができて、とても幸せな旅行になりました。
コメント (3)

秘花

2007-08-14 10:13:50 | 読書
ー秘花ー
著者=瀬戸内寂聴
出版社=新潮社(2007年5月)

【感想】
学生時代、世阿弥や能を少し勉強したこともあって、世阿弥にはすごく興味を持っていました。
世阿弥はアイドルで、しかもスキャンダラスで、当時(室町時代)の文化人の話題の的でした。

彼は、庶民に人気の申楽(=猿楽)の家に生まれ、観阿弥と言う、芸も時代を見通す目も確かな父から、英才教育を受けて育ちます。
生まれついての美貌と天性の才能で夢幻能を構築し、今日、その芸術性の高さを世界的にも認められている「能」を確立した人物です。

その世阿弥の生涯については、謎の部分も多く、どのように小説化されているのか、とても興味のあるところでした。

この小説では、世阿弥が佐渡に配流が決まったところから始まります。
この時、世阿弥は70歳を過ぎていました。
誰を恨むこともなく、世阿弥は自身の人生を振り返りながら、運命に従いますが、芸への思いはますますみなぎり、流された佐渡で謡曲集や芸論を書き続けます。

第4章で、沙江という最期を看取る架空の人物を登場させる等、寂聴さんの小説家としての力量に感心しました。
この章では、世阿弥が実在の人物としてとても身近に感じられ、彼の偉大な生涯を、沙江の心情に沿って、とてもいとしく感じることができました。

世阿弥がなぜ、世界にも比類がない芸論(「風姿花伝」他)を書いたかーそれは自分と父親が血を吐く思い出確立させた「能」という新しい舞台芸術に、絶対的な信頼を寄せれる継承者がいないという大きな悲劇が背景にありました。
それでも、跡を継ぐもののために、なんとかわかりやすく伝えたいという一心から、数々書き残したのでした。
だから、「秘伝」というわけです。

しかもこの芸術は時の支配者の気まぐれによって、いつ葬られるかわからないという危機感もあったでしょう。
現実にわけのわからないまま、高齢にも関わらず佐渡へ流されてしまうのですから。

世阿弥のこの波瀾万丈な生涯にも負けない、能への執念のお陰で、時空を超えた今でも、私たちは幽玄という情念の世界へ誘われ、崇高な世界を経験することができるのです。

この本を読むと、それがどんなに奇跡的な出来事の重なりで始まり、そして残されたのかよくわかります。
瀬戸内寂聴さん、尊敬です。     
コメント

ハリウッド100年のアラブ―魔法のランプからテロリストまで

2007-08-07 12:56:05 | 読書
ーハリウッド100年のアラブ―魔法のランプからテロリストまでー
著者=村上 由見子
朝日新聞社(朝日選書 815)
2007年2月発行 

【内容】
9.11以後、アラブ世界は大きな注目を集めてきた。
私たちが漠然とイメージするアラブ世界には、ハリウッド映画の影響が少なからずある。(中略)
ハリウッド100年を振り返り、「アメリカ映画からは見えないアラブ」「ハリウッドが描かなかったアラブ」を読み解く試み。
(本の裏表紙より)

【感想】
本書のあとがきで、著者は「どうしてこのテーマに興味を持ったのか?」という問いに対して、「すべては9,11から始まった、と答えるしかない」と書いています。

私もこの事件以来、なぜこの事件が起こったのか、自分なりの答えを探していました。
私は、私の周辺も含めて、あまりにアラブへの情報や知識が少な過ぎると感じていました。

この事件までのアラブは、いろいろ大きなニュースにもなっていましたが、まだまだ「千夜一夜物語」の世界でしかありませんでした。
地理だって、歴史だって何も知らないに等しいものでした。

でも9,11の映像はとても衝撃的で、人間のすることとは思えない悪魔の所行だと思いました。

しかし、その後テロリストを一掃をかかげて起こったアフガニスタンへの攻撃。
前の湾岸戦争以上にハイテクを使っての空爆だったのに、首謀者とされたウサマ・ヴィンラディンは結局つかまらないで、その後のテロ行動にも関わっているとされています。

そのあとのイラク戦争。
あるとされた大量破壊兵器は出ず、フセインが処刑されても、内戦は悲惨な道を抜け出せず、アメリカ軍をはじめ多国籍軍はまだ撤退できない状態が続いています。
アメリカ兵もたくさん亡くなっていますが、「少なくて3万人」「多くて65万人」とも言われ、死者の数も推定できないほどのイラク人の犠牲があります。

なぜ?
なぜ、これほどまでに、憎しみあうのか?
しかも、アメリカはアラブから遠く離れているのに、こんなにもアラブから憎まれ、攻撃されるのか?

待って、一口にアラブというけど、何をアラブというのかしら。

己のあまりの無知さに驚きました。

そして、この本なら、少しは疑問に答えてくれるかと思って読み始めたのです。

ここに出て来る映画、実はほとんど知りません。
「アラビアのロレンス」「アラジン」最近の「ミュンヘン」「シリアナ」「ユナイテッド93」「ワールド・トレード・センター」。
頭の中にはっきり浮かぶのはこれくらいです。
「シリアナ」の評価は高いようですが、私はほとんどわけがわからなかったです。

この本は、聖書の世界から始まり、十字軍、戦後の混乱とテロリストまで、わかりやすく書かれていました。

そもそもユダヤ教、イスラム教、キリスト教は3兄弟で、同じ「唯一神」だと書かれていて、それだけでもびっくりします。
だから聖地がエルサレムに集まっていても不思議はないわけです。

それが何千年も時代を隔てて、なぜこのように修復の糸口さえも見えない争いになってしまったのか。
ハリウッド映画の作品をたどりながら、わかりやすく解き明かそうとするのが、本書の狙いと言えるでしょう。

また、ハリウッドの映画会社についても驚くべき事実が書かれてありました。
20世紀初頭、映画ビジネスにすかさず参入したのが東欧ユダや移民だったそうです。
地道な努力で資金を貯めた彼らは映画スタジオを作った。
今の20世紀フォックス、MGM、ワーナー・ブラザーズ、パラマウント、ユニバーサルはすべてユダヤ人1世によって作られたというのです。
その後、優秀な監督や俳優のユダヤ人が排出されたのも、このこと無関係ではないでしょう。

第2次世界大戦以降、ホロコーストの陰に怯え、イスラエル建国から新たに始まったアラブのさらに深刻な問題の数々。
これから、ハリウッドはどんな映画を作っていくのでしょうか?

映画産業はハリウッド映画に全世界が席巻されているといっても過言ではない今日です。
日々、楽しませてもらっているハリウッド映画、もちろんいい映画がたくさんあるからです。
私も大好き。
だからといって、世論が歪められたり、事実を確かめもせずに偏見を持ったりすることになっては、大変だと思う。

ハリウッド映画がグローバルスタンダードではなく、アメリカの映画だということを頭の隅に置いて、戦争映画やスパイ映画のかっこいいヒーローが何を代弁していて、その裏には何が隠されているのかを、私たち自身が見抜く目も持ちたいと思いました。
コメント (2)

東京タワー~オカンとボクと、時々、オトン~

2006-09-12 09:22:09 | 読書
著者:リリー・フランキー 出版社: 扶桑社 (2005/6/28)

出版社 / 著者からの内容紹介
読みやすさ、ユーモア、強烈な感動! 同時代の我らが天才リリー・フランキーが骨身に沁みるように綴る、母と子、父と子、友情。この普遍的な、そして、いま語りづらいことがまっすぐリアルに胸に届く、新たなる「国民的名作」。『en-taxi』連載、著者初の長編小説がついに単行本化。

リリー・フランキー
1963年福岡県生まれ。武蔵野美術大学卒業。文章家、小説家、コラムニスト、絵本作家、イラストレーター、アートディレクター、デザイナー、作詞・作曲家、構成・演出家、ラジオナビゲーター、フォトグラファー…など多彩な顔を持ち、ジャンルの壁を自由に往来しつつ活動。『東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン』は著者初めての長篇(Amazon.co.jpより)

【感想】
娘のお薦めで読み始めましたが、慣れない文体で、最初は、「これって面白いのかなあ」と半信半疑でした。
でも、オカンが病気になって上京して来るあたりから、一気に読んでしまい、最後は号泣。
自分の両親のこと、父の病気から死など、私自身の経験が走馬灯のように頭の中によみがえり、「僕が一番怖れていること」という言葉では、今あまり関係がいいとは言えない母への思いで、声に出して泣きたいような気分になりました。
それだからといって、私はたぶん母との関係は今まで通り、冷たい娘が優しい娘に変身、なんてことは決してないのですけど。

こんな私が言うのもなんですが、だいたい、日本の男の子は、母親が大好きなくせに、ぞんざいに扱い過ぎです。
フランス在住の友人が言ってたけど、フランス人は母親に優しくしないと軽蔑されるんだそうです。
当たり前の話です。
母ほど子供を思う存在はないのですから。
じゃあ、なぜ私は母に冷たいか?
ひとそれぞれ、いろんな事情を抱えているんですよね。
絶対母を亡くしたら後悔するとわかっていても、優しい言葉の一言がかけられないのも人間です。

それが、40歳も過ぎたリリーさんが母恋しいと言ってくれることも、ひとりの母親としてすごくうれしい。
こういう時代も来たんだと、はしゃぎたい気分にもなりました。

息子を持つ母として、父を看取った娘として、老いた母を抱えている娘として、カタルシスを味わえるいい本でした。
コメント (2)

沈まぬ太陽

2006-08-12 20:12:42 | 読書
新潮文庫全5巻 山崎豊子著
【解説】
日本を代表する航空会社の凄まじいまでの腐敗。85年の御巣鷹山事故の衝撃を出発点に、その内実を描いたノンフィクション・ノベル。全5巻の大作ながらベストセラーになった。労組活動を「アカ」呼ばわりされ、海外の僻地勤務を命じられた主人公・恩地に、リストラ社会を生きる人々の共感が寄せられたのが一因だろう。だが、もっと重要なのは、だれもが知るあの会社をモデルに実在人物をも特定できる形で汚点を紡いだ「蛮勇」ではないか。たとえ事実と創作の混線ぶりが気になるにしても。「白い巨塔」の財前や「不毛地帯」の壹岐でなく、企業内で黙々と働く恩地が英雄という閉塞時代に、私たちはいる。(藤谷浩二) Amazon.co.jpより

【感想】
この本が出版されてベストセラーになった時、読みたいなあ、と思っていたのですが、延び延びになっていました。
この春頃、ライブドアの堀江さんが拘置所で読んで感動して、保釈後御巣鷹山に慰霊登山をしたという記事を読んで、いよいよ読んでみようと思いました。
折しも今日は、日航機墜落21年目。
今日なら、私にも何か書けることがあるかもしれません。

1985年当時は、すごい事故が起きたと、ニュースを熱心に見ていましたが、幸い身近に被害者もなく、日々記憶が薄れていました。
日航機墜落を書いた本、と言う認識があったので、アフリカから始まる物語はちょっと奇異に感じましたが、そこは山崎さんの筆の力で物語に引き込まれていきました。

圧巻は第三巻も御巣鷹山編です。
ここには、遺族の方が実名で出て来るし、頭の中にあの救出のシーンが映像として浮かぶので、熱い涙があとからあとからこぼれ出て、読み止めることは不可能です。
大事故に遭われた遺族の方はみな同じでしょうが、亡くなった方と一緒に、生きている遺族も死んだと同じです。そこで時が止まってしまうのですから。
「とくダネ」でも特集していましたが、日航の元社員で山を守っている方も、人生が大きく変わった人たちです。
その気高い精神に胸を打たれます。

しかし、事故後も会社の体質は変わることがありません。
後半はさらに醜い陰謀、策略、裏切り、陥れなど卑劣な行為が闇の中で繰り返されて、暗澹たる思いになります。
しかも、主人公の恩地はまたもアフリカに追いやられてしまいます。
救われない結末です。

私は、社会や組織に疎いので、この小説がどこまでが事実で、どこからフィクションか、あるいは、誰をモデルにしたのか、詳しくはわかりません。
でも、この小説が名誉毀損などの告発を受けているとは聞いていないので、ある程度確信のある事実に基づいていると思われます。
そうだとすれば、すごいことがあの事故の裏に隠されていたんだと言うことになります。
何も知らずに、犠牲になられた方の悔しい気持ちはいかばかりでしょう。
残された遺族の思いはいかばかりでしょう。
21年も経ってしまいましたが、その思いは決して消えないと思います。

毎年、お盆を迎える日、せめて犠牲になられた方々のご冥福をお祈りしたいと思います。

そして、小説の冒頭に書かれてあるように、多数の関係者を取材して、事実に基づいて小説的に再構築するという、私からは考えもつかないような手法でこの本を著した、山崎豊子という才能に敬意を表します。
コメント (5)