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■科学技術書・理工学書ブックレビュー■「古代日本の超技術 改訂新版」(志村史夫著/ブルーバックス)

2013-07-16 10:15:35 |    科学技術全般

 

 

書名:古代日本の超技術 改訂新版~あっと驚くご先祖様の智慧~

著者: 志村史夫

発行所:講談社(ブルーバックス)

発行日:2012年12月20日

目次:第1章 五重塔の心柱
    第2章 日本古来の木材加工技術
    第3章 “呼吸する”古代瓦
    第4章 古代鉄と日本刀の秘密
    第5章 奈良の大仏建立の謎
    第6章 縄文時代の最新技術

 このほど「第42回技能五輪国際大会」がドイツのライピチヒで行われ、参加国・地域の獲得メダル数が発表された。それによると第1位 韓国(金12、銀5、銅6)、第2位 スイス(金9、銀3、銅5)、第3位 台湾(金6、銀4、銅8)と続き、日本は第4位(金5、銀4、銅3)となった。これにより日本は、1999年のカナダ・モントリオール大会以来守ってきた3位以上の地位を逃した、と報じられたが、まあ、事実はそうであろうが、世界で4位の地位を得たことは賞賛されることではなかろうかと私などは思う。むしろ私が不思議に思うのが、米国はこの大会に参加したのかどうか知らないが、メダル獲得リストに掲載されておらず、GDP世界2位の中国のメダル獲得数も極端に少ない。まさか大国は、「自国に技能者は必要ない。優れた技能者を外国から呼び寄せればいいじゃないか」と考えているわけではなかろうが・・・。スポーツのオリンピックでは何時もメダル数1、2位を争う大国同士が、技能五輪となると、さっぱり振るわなくなるのは何が原因なのであろうか、知りたいものだ。

 ところで、今、日本の若い技術者が「技能五輪」において、花を咲かせている高度の技術は、何も最近になって身に付いたものではない。極端に言えば太古の昔から、日本は高度な技術を身につけた国の一つであったのである。そして、このことを裏付ける“証拠”を掘り起こし、我々の目の前に示してくれた書籍が「古代日本の超技術 改訂新版~あっと驚くご先祖様の智慧~」(志村史夫著/講談社<ブルーバックス>刊)なのである。通常、このような書籍の著者は、古代史家などの歴史家が多いのであるが、著者の志村史夫氏は、最近まで世界の半導体の最前線で活躍していた第一線の技術者であることが、この著書が説得力を持つ一つの根拠として挙げられる。つまり、昔の文献を書庫から取り出してきて紹介するのではなく、第一線の技術者としての眼力で、古代の日本の技術力を、今客観的に評価したレポートとなっているのである。

 そのことは、「第1章 五重塔の心柱」を読めばたちどころに分る。今人気絶頂の東京スカイツリーには、塔のど真ん中に鉄筋コンクリート製、高さ375mの心柱”を挿入した「世界初」の制振システムが使われている。この心柱は、ツリー本体とは分離した形で立っており・地震や強風で本体が揺れる際に、本体とは異なる動きをして、結果的にツリー全体の揺れを抑えるはたらきをするのだ。実は、この制振システムは、現存する世界最古の木造建築である法隆寺五重塔をはじめとする日本古来の木塔(五重塔、三重塔など)に必ず使われた、古代日本が誇る伝統的な技術なのである。日本には、木造の仏塔は500以上あり、これまで、その多くが建て替えを繰り返してきているが、これまで地震多発国の日本にあって、木造の高層建築物である木塔が、地震によって倒された例がほとんどないそうなのである。これは驚嘆すべきことには違いあるまい。恐るべき日本の古来の建築技術というほかない。これは、今でも脈々と息づいており、東京スカイツリーが建設中に起きた東日本大震災の地震でも、東京スカイツリーは耐え切ったのだ。

 この本の白眉は、古来日本の技術が息づいてきた木造加工技術へ対する著者の見識の高さと、洞察力であろう。著者の志村史夫氏は、それらの日本の伝統建設技術を現在まで維持発展させてきた第一線の技術者を、著者の志村史夫氏は棟梁”と呼び、最大限の敬意を払っているのである。志村氏の専門である半導体と木造建築は、相当隔たりがあるかと思えるが、志村氏は棟梁”たちから教えを請い、古代から伝わる日本の伝統的な優れた技術を詳細に分析し、それを読者の紹介するくだりなどは、感動的な気持ちにさせられる。特に、大工道具についての紹介は、一層力が入る。これは半導体の加工技術にも繋がる何かがあるのかもしれない。半導体の技術に最も近い日本古来の技術である製鉄法「たたら」の記述では、日本の古来の技術者が、今の技術でも追いつけないような高みに達していたことを発見するが、それら古の技術者へ対する尊敬の念が文章の端からこぼれてきて、読み手の方も自然に力が入る。この書は、日本古来の技術をただ紹介しただけでなく、その背景を克明に追った力作である。読み終わった後、今後も長く愛読されることを願いたい気持ちが、自然に湧き上がって来る。(勝 未来)


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