“科学技術書・理工学書”読書室―SBR―  科学技術研究者  勝 未来

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■科学技術書・理工学書ブックレビュー■「『科学的思考』のレッスン」(戸田山和久著/NHK出版新書)

2013-05-14 10:42:21 |    科学技術全般

書名:「科学的思考」のレッスン―学校で教えてくれないサイエンス―

著者:戸田山和久

発行所:NHK出版

発行日:2011年11月10日 第1刷発行

目次:第 I 部 科学的に考えるってどういうこと?

     第1章 「理論」と「事実」はどう違うの?
     第2章 「より良い仮説/理論」って何だろう?
     第3章 「説明する」ってどういうこと?
     第4章 理論や仮説はどのようにして立てられるの?どのようにして確かめられるの?
     第5章 仮説を検証するためには、どういう実験・観察をしたらいいの?
     第6章 なぜ実験はコントロールされていなければいけないの?

    第 II 部 デキル市民の科学リテラシー―被曝リスクから考える

     第7章 科学者でない私がなぜ科学リテラシーを学ばなければならないの?
     第8章 「市民の科学リテラシー」って具体的にはどういうこと?
     終 章 「市民」って誰のこと?

 科学的に物事を考える、あるいは捉えるということは、簡単なようで実は大変難しい。昔のヨーロッパにおいて科学と哲学の境目は曖昧だった。例えば、プラトンやライプニッツのように、科学史にも哲学史にも登場する歴史上の人物がいることを見ればこのことが分ろう。この世をどのように解釈するかという問題は、科学上の大問題であると同時に、哲学上の大問題でもあったのだ。実は、このことは現在でも続いている。最先端の素粒子の研究では、科学者の中に哲学者が参加してプロジェクトが組まれることもあるという。また、最近の宇宙科学では、ダークマターやダークエネルギーという、従来の概念では捉えられなかった物質やエネルギーが存在し、この宇宙が形成されたらしいということが次第に明らかにされてきている。「これからは、これまでの物理学のように数式で理論を構築していくよりは、SF物語の世界に迷い込んだような環境で研究をしなければならない」と“嘆く”研究者もいるほどだ。

 もともと、ヨーロッパにおいては、神の正しさを証明するために科学が発達してきたという、一般の日本人からすると、到底信じられない事実がある。「神は、あらゆることを見通しており、神のお告げは、絶対的な真理なのだ。だから、我々人間は、この神の言うことの正しさを証明しなければならない」ということが西欧科学の発展の原動力となったことを忘れてはならない。つまり、現代科学にも、常に宗教の“陰”が付き纏っていることを認識しなければならないのだ。どこまでが科学で、どこからが宗教(思い込み)なのかを、我々一人一人が認識することが欠かせなくなる。例えば、東日本大震災における東京電力福島第一原子力発電所の事故でも、予備電源が本体の近くに設置されていたという、およそ科学的でないことが行われてきた。予備電源が必要になる時は、本体の回りが破壊された時である。このため、予備電源は本体とは離して設置されるのが原則だ。このことを原子力技術のプロを自認する“科学者”が見落とす。これこそが、何が科学的で、何が科学的でないかを考えさせられた、最近の典型的な事例の一つだ。

 「『科学的思考』のレッスン」(戸田山和久著/NHK出版新書)は、科学的に考えるとはどういうこと?という素朴な一般市民の疑問に答えてくれる数少ない書籍である。ここで一般市民と書いたが、現代の最先端を行く科学技術者達だって、東京電力福島第一原子力発電所の事故の例を見れば、このことを常に考えておかねばならないことが自ずと分る。著者の戸田山和久氏は、現在、名古屋大学情報科学研究科教授を務める、科学哲学者である。科学哲学とは、あまり聞かれない名称であるが、要するに科学を哲学的観点から研究する学問であり、「科学的に考えるってどういうこと?」という問いに答えてくれるには最適な人である。この書籍の最初において、著者が強調するのは、「100%の真理と100%の虚偽の間のグレーな領域で、少しでもより良い仮説を求めていくのが科学という営み」ということである。今、世間を騒がせている「原発推進派」と「反原発派」の二分法などは、一見すると分りやすく、正しいように思われるが、ここに危険な落とし穴があると著者は警鐘を鳴らす。

 この書籍の最後の方の第8章で「『市民の科学リテラシー』って具体的にはどういうこと?」が書かれているが、新聞記事を例に取り、科学的でない記事が書かれ、それを科学的な知識なしに読者が読むことの危険性が指摘され、興味深い内容になっている。最近は、放射能についてのニュースが多く流され、ベクレルとかシーベルトとかいう単位が使われているが、書く方も、読む方も、これらの用語の正確な意味を知らずにいるので、何とも変な結論が出されても、誰もおかしいとは気づかないかないから怖いことが指摘される。この第8章には、「デキル市民の科学リテラシー」として科学的に考えるための9つのポイントが挙げられているので、頭を整理する際には便利だ。さらに、ページの要所要所に「科学的に考えるための練習問題」があり、解答も付いている。そして、巻末には11冊の関連図書が紹介されている。このように、この書は、新書版ながら内容はぎっしりと詰まっており、一冊を読み終われば、科学的に考えるとはどういうことかが、自ずと分ってくる。しかし、これもただ漠然と読んでいたのでは身に付かない。この書は、参加意識を充分に持って読めば、その分得るものは大きいのである。(勝 未来)


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