はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

山口 とぴっく あれこれ

2020-03-07 19:34:04 | 岩国エッセイサロンより
12月度 山口 「はがき随筆」入選

片山さん(岩国市)「モグラ捜し」
三村さん(下関市)「もらった力」
田屋さん(岩国市)「桜とともに」

 「オリンピック・イヤー」が明けました。本年もはがき随筆をよろしくお願いします。12月度には行く年を惜しみつつ、身近な人々の平穏な暮らしや成長への期待など、希望にあふれる作品が多く寄せられました。
入選1位岩国市・片山清勝さんの「モグラ捜し」に決まりました。親子3人でガーデニング……と思いきやまさかのモグラの捜索作業。ほのぼのとした情景です。自分にはこの夫婦のような心の豊かさがあったかと、少し反省しました。
 2位は下関市・三村佳代子さんの「もらった力」です。庭で暮らす蜘蛛のたくましい生命力が鮮やかに描かれています。病と闘う作者ゆえに、蜘蛛に向けた視線に研ぎ澄まされたものがあります。
 3位は岩国市「桜とともに」が選ばれました。山口でも、あるじを亡くした空き家が目立ちますが、解体を決め、残る桜の木に亡き兄の思い出を重ねる心情が胸を打ちます。
 佳作のうち「知らぬが仏」、選外ですが「カレンダー選び」「餅つき」などが年末恒例の情景を描きました。「真っ赤になあれ」に樹木の生命力の不思議さを思い、「光を失っても」に人のたくましさや家族の愛情の深さを感じました。
 12月度の投稿数は192件、掲載数は47件でした。
   山口支局長 竹島一登

ほほえましさ眼前に
 福田さん評
 お重ね餅も降ろされ早々と6日選考会。
 「モグラ捜し」。家族総出の土堀り姿がほほえましい。素直な文体で状況が目に見えるようだ。現代世相に触れた感想も加え、きちんとまとめ上げられた。明るさが何より。
 「もらった力」。精巧な蜘蛛の巣をしっかり観察し、自らの力としている。真剣な生き方に感心した。
 「桜とともに」。実家の兄の死と残された桜の木。草刈りを通して切実な感慨が伝わる。
 「知らぬが仏」。寿命の不確かさを題名にして、連用日記買いを悩む気持ち。同感、共鳴者多数に違いない。佳作ながらの満票作が並び、今年は縁起が良いらしい。
 選外だが、「夏の名残」「あれから3年」「まあ!」に高点を入れた。
 さらに「みそ汁の味」「おばばの足指」「べっぴんさん」「人生悲喜こもごも」「誕生日」の諸作が印象深い。
 1年を振り返り、年末年始の良い作が並ぶ。この勢いで、また新しい秀作をと願い、毎日を大切にと祈る。
 中原中也記念館 名誉館長 福田百合子

票を得る喜びの感想
 武市さん評
 1位。かわいい移植ごてを持ちモグラ捜しに夢中になる女の子とその熱中ぶりに加勢する両親との気持ちの一体感が良い。結びの感想も要を得ている。
 2位。蜘蛛の営みを感銘深く見守る作者の心理が的確に伝わるような文章だ。小さな生き物に対する眼差しは病人には一入、鋭さがあり、説得力も強い。
 3位。実家を継いできた兄が亡くなり家の解体が決まる。そこには兄の植えた桜の木がある。令和元年は中止となった花見への期待を哀切な色調で綴る。
 杉江作品。10年連用日記がもう尽きる。今度は何年物にするかと悩む作者。人生百年。迷わず10年ものを。
岩城作品。友の死と従兄弟の施設入所を見て終活作業を始めた。すると血糖値が下がり体調が上向く。元気を刺激される作品。
 田村作品。私も2枚持っている平成31年の10円硬貨。小さな幸せの使い方に感心した。
 水ノ江作品。失明の悲運に屈しない夫の明るさが光る。またお互いにいたわり合って家族全員が前向きに生きる姿勢は読み応え十分で、爽やかな印象を残す。
 宇部フロンティア大学非常勤講師 武市真広
 







投稿を力に

2020-03-07 19:15:46 | はがき随筆
 「岩国エッセイサロン」の最終月例会が開かれ、14年の活動に幕が下りた。また、同人誌「花水木」も終刊になった。私はエッセーを書き、投稿し、自己研鑽を図るとした会の目的を胸に刻み、歩んできた。
 忘れられないのは初投稿初掲載の「彼岸花のころ」。胸に思っていたことを252字にした。それが載ったことでつかえが消えた。そのことで投稿の力を知り、勇気づき書き続けた。載らない焦りも書こうという意欲に変えられるようになった。
 同人皆さんに感謝し、学んだことをこれからもしっかり生かし、書いて投稿を続ける。 
 山口県岩国市 片山清勝(79) 2020/2/16 毎日新聞山口版掲載

ひといき

2020-03-07 18:54:12 | はがき随筆
 ついのすみかはこの春で25年がたつが、忘れられないことが幾つもある。
 棟上げの後、程なくして阪神大震災があった。この地も大きく揺れた。急いで現場へ走り、異常がないのを確認した。引っ越しの日には地下鉄サリン事件が発生した。相次ぐ重大事にわが家の先行きを本気で案じていた。
 土地を探したのは家を建てると決めてからだった。私は卒業した小学校区内にこだわり、足踏み状態が続いた。ある日、仕事から帰ると妻が「見て」と1枚の紙を差し出した。折込チラシの裏に、フリーハンドで間取りを描いていた。
 「土地が決まらないのに」と思いつつも、準備することに異存はない。妻の案は増え続け、真剣さに押された。それで1冊の方眼紙を渡して柱や戸、壁の表し方などを教えた。
 妻が方眼紙に描く間取り図は、次第にチラシの裏のものより進化していった。やがてちょっとした図面になった。ただ、いずれの案も仏壇の位置が家の中心だった。妻の望む家の姿からわが家に必要な部屋、その配置が何となく決まっていくようだった。
 土地が決まって、設計士は打ち合わせに入ると、妻の間取り図を見て「参考にします」と受け取った。
 私は勤めの帰り、遅くなっても建築現場に立ち寄った進捗状況を確認した。妻は毎日、方眼紙の図がどう変わっていくか、報告を楽しみに待っていた。
 母校の小学校から徒歩5分。満足している。
 山口県岩国市 片山清勝(79) 
 中国新聞セレクト 2020/2/14「ひといき」欄掲載

考えだしたら

2020-03-07 16:38:15 | はがき随筆
 砂防林には、野兎が生息、早朝の散歩で見掛ける。よく会うのが狸で、人家近くででくわす。猪の出没が話題になったが、遭遇したことはない。闇の中を歩きながら思う。動物たちが生きる場所を提供してるのでは?
 放置住宅、耕作放棄地がいや応なしに目に入るからだ。人が減り野生動物が増える。田舎で生きていると実感できる。
 放置すればさらに進み、猿、鹿と続き熊まで出るかも……。今ぼくは、原始に返る門口に立っているのだろうか。いや、進歩を止められないのが人間だから、外国人に依存し同化してゆく。大和民族の運命やいかに。
 鹿児島県志布志市 若宮庸成(80) 2020/3/7 毎日新聞鹿児島版掲載