はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

幼なじみ

2017-10-16 12:16:48 | はがき随筆


 その家は旧家のたたずまい。コケむした石垣、お堀もあった。そこに住んでいたのが、同級生のみどりちゃん。家が近く、すぐに親しくなった。登校時、よく待たされた。そのとき、お母さんが朝食のトーストを「食べててね」と私の手に。当時バター香るパンなど珍しく、ワクワクした。東京育ちのお母さんは上品で明るくまぶしいような存在だった。家に遊びに行くと、髪を結った和服のおばあ様もおられ、緊張したものだ。高校進学時に離れ、疎遠に。今でも「きよ子ちゃん」と返してくれるだろうか……。往時を追想する。トーストの香りの中で。
 出水市  伊尻清子 2017/10/16  毎日新聞鹿児島版掲載

舞台は楽し

2017-10-15 16:14:40 | はがき随筆


 先日、隣席の女性から「舞台に立っても上がらないですか」と聞かれた。毎年、私たちの奇術大会を見に来てくださる方だった。「ドキドキしますが、舞台に出てお客様の顔を見ると、落ち着いてきます」と答えた。
 昔、女性マジシャンの松旭斎すみえさんが出演前に手を動かしていた。「先生も緊張されますか」と尋ねると「そりゃしますよ、手順だけ確認してます」と言って、音楽がかかると、にこやかに舞台に登場された。
 秋には恒例の奇術大会が開かれる。今年も会場でお客様から素敵な笑顔をいただけるよう、楽しい演技を目指している。
  鹿児島市 田中健一郎  2017/10/15 毎日新聞鹿児島版掲載

カーテンの洗濯

2017-10-14 21:58:58 | 岩国エッセイサロンより
2017年10月14日 (土)
   岩国市   会 員   片山清勝

 秋のよく晴れた日、我が家恒例作業の一つ、カーテンの洗濯をする。私の分担は、取り外しと洗濯後の取り付けの二つ。
 取り外しは、大した作業ではない。外した後でレールを水拭きする。
 洗濯を終えたそれは、水分を含み、取り外し時の倍くらいの重さと感じる。これをレールに取り付けるのは、両腕を上げた姿勢で行う。年々、骨が折れる作業と思う度合いが増す。
 現役の頃は家内1人でこの作業をしていたことになる。まあ、若かったが、大変だったろう。    
 気持ちよさそうに揺れるカーテンを見ながら、お茶を飲む。
(2017.10.14 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

自死は敗北者か

2017-10-14 12:01:40 | はがき随筆


 自殺や精神疾患についての正しい知識を普及啓発し、これらに対する偏見をなくすとともに、命の大切さや自殺の予防などについて理解を図ることを目的として、毎年9月に自殺予防週間を設定している。
 人間はどんな病気に冒されて死ぬか。どんな事故に遭って死ぬか知るすべはない。自死であっても、人間には人知れず精神的、肉体的苦痛に遭遇し、死のふちをさ迷うような苦悩がある。自死は人間だけが体験する行為である。私は自死を讃美する者ではない。ただ、自死を人生の敗北者扱いしてはならない。
  志布志市 一木法明 2017/10/14 毎日新聞鹿児島版掲載

花のことば

2017-10-14 11:49:41 | はがき随筆


 玄関の戸を開けるとすぐ目の前にはききょうの花たち……。母が元気だったころは季節ごとに植えたルピナス、矢車草、百日早、ひまわり、ききょうなどを咲かせては喜んでいた。そんな母が寝込んでしまったのは私が12歳の夏だ。そして母がやっと立って歩けるようになったのは6年後のこと。その6年の間、ききょうだけは私が目を離さずにずっと見守っていたんだ。
 母が逝って20年、今年もききょうは咲いた。玄関先から木戸口までジグザグに植えており、右、左、右、左と花の姿を見て歩く。花のことばをしっかりと聞き取りながら……。
  出水市 中島征士  2017/10/13 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆の9月度月間賞は次の皆さんでした。

2017-10-14 11:41:37 | 受賞作品
 【優秀賞】1日「モンシロチョウの宿と夢」小村忍=出水市大野原町
 【佳作】15日「流れる星は」田中健一郎=鹿児島市東谷山
▽21日「黒電話」竹之内美知子=鹿児島市城山

 「モンシロチョウの宿と夢」は、モンシロチョウはどこで眠るだろうという長年の疑問が、実際の観察で解決したという内容です。いくつになられても、こういう好奇心を持ち続けておられることに感心しました。文章も、その好奇心に従って、読む者の好奇心を解明に向かってみちびいてくれる魅力を持っています。
 「流れる星は」は、藤原ていの引き揚げ記『流れる星は生きている』の再読後の感想を紹介し、同時に戦争の弱者に及ぼす過酷さに触れた内容です。前にも触れましたが、戦争は政治家が始めて庶民が苦しむということを、現在の国情からも考えさせられる文章です。
 「黒電話」は、戦後しばらくは電話を容易には取り付けられなかった。それが取り付けられたときの家族の騒動(?)が生き生きと描かれています。電話のある家はかなり離れた家にも取り次いでいました。電話への興味も薄れた頃、受話器を取ると父の急死の知らせであったと言う悲しい思い出もあり、対比的な内容が効果的です。
 この他の3編を紹介します。
 宮路量温さんの「水鏡」は、美しく心和む文章です。田植えの前、田んぼに水がはられると、周囲の自然を写す水鏡と化す。それを母は「清風名月」と呼んでたたえていた。その美しさが分かるようになった今、その風景をさかなにビールを飲んで妻と親しむという内容です。
 本山るみ子さんの「エアコンが来た!」は、鹿児島移住13年、クーラー無しの扇風機生活を続けていたが、流石に今夏の暑さと熱中症騒ぎにエアコンを購入した。今までの意固地さが恥ずかしいくらい快適で、よく眠れるという内容です。
 田中由利子さんの「高校3年生」は、雨にぬれて、母親とケンカした孫が祖母の元に一時避難。着替えを出して、食事を出すと、黙々と食べ終わる。慰める言葉が思いつかない。親は怒るものだというと、気分が落ち着いたか、迎えの母親と素直に帰っていった。高校生の年頃の心理がよく描かれている内容です。
  鹿児島大学 名誉教授 石田忠彦

さよなら高齢車

2017-10-14 11:06:44 | はがき随筆
 23年間連れ添った愛車と別れた。スリムな4WDで1600ccながら馬力も安定性もあり、後部も広く昨年実家への引っ越し荷物運びに大活躍してくれたが、もう製造中止の車種だ。
 古い車は税金が高い、ガソリンは食う、部品の劣化でアクセルペダルが壊れる、給油口のふたが開かないなど修理個所は増す一方だ。そこがまた頑張ってる姿に見えていとおしい。
 ずっと乗り続けたかったが年金生活では維持費もバカにならなず、泣く泣く手放した。高齢者の頑固さだろうか、オートマチック車を信用できない。私には高齢車がピッタリだった。
  鹿児島市 種子田真理  2017/10/12 毎日新聞鹿児島版掲載

うろこ雲

2017-10-11 07:57:39 | はがき随筆


 彼岸を迎えて、すっかり秋らしくなってきた。空が青く高く、行儀よく並んだうろこ雲が美しい。庭を埋めて、白や赤の彼岸花が満開となり、風の色もよく澄んで肌につめたくしみる。梢をにぎやかにしていた蝉時雨も消えて静かになり、秋の七草が野辺を飾り、虫の音が美しい。今、早朝散歩が素晴らしい。朝早く起き、朝食を済ますと、すぐ歩く。冬を迎えるまでの短い秋。寂しい季節ではあるが。自分の趣味の読書や俳句に集中するのにもいい時季である。
 残り少なくなった人生だが、心豊かに自然を大事にし、人にも優しくして生きていきたい。
  出水市 橋口礼子 2017/10/11 毎日新聞鹿児島版掲載

孝と不幸と

2017-10-10 22:17:34 | 岩国エッセイサロンより
2017年10月 9日 (月)

岩国市  会 員   吉岡 賢一

  その朝は、ちゃぶ台に卵が1個置かれていた。「これを飲んで滋養を付けて徒競走を頑張って」という家族の願いが込められた生卵である。台所では仕事を休んだ母が、運動会の弁当を手際よくこしらえている。
 「ヨーシ、今年こそはいいとこ見せよう」と気張ってはみるが、生来の鈍足。生卵のかいもなく孝行できないままに終わった。
 夢に描いた都会生活も俊足の兄に先を越された。夢を封印し同居を選んだ。父も母もこの手でお浄土へ送り届けお墓も仏壇も守っている。少しの孝と遠い昔の不幸が思い出される秋半ば。金木犀の香りが心潤す。
   (2017.10.09 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

メモで知識を充実化

2017-10-10 22:15:11 | 岩国エッセイサロンより
2017年10月 9日 (月)
     岩国市   会 員   片山清勝

 ある会の会報編集を年6回している。孫新聞は作り始めて17年だが、その作り方はいわゆる我流で通している。
  「伝わる文章力 広報紙の作り方のこつ」という興味を持たせる講座が公民館で開かれ、参加した。 広報に必要な文章の書き方、分かりやすいレイアウトなどの講義があった。
 文章は「分かりやすく、読者の気持ちを思って書くこと。もちろんミスは撲滅する」など、事例を交えての解説に納得した。
  「メモは言葉の引き出しを増やす」という言葉が心に残った。「これは」と気付けばメモする。書けないときはデジカメに撮っている。しかし、それはちょっとした覚書で、その存在を気にすることはなかった。
 今回の講座のレジュメにいくつか短いメモを残している。それがなければ、ポイントは思い出しづらいと気付いた。
 メモは知識の引き出しを充実させる。粗末にしてはつかんだものを逃してしまう。さて、次回からどう生かすか思案している。

     (2017.10.09 中国新聞「広場」掲載)

教育と農作業

2017-10-09 07:26:19 | はがき随筆


 夫に電話が。即近くの畑に連絡に行くと、ソバ植えの準備中だ。大声で「電話」と。振り向いて家の方へと急いだ。集落では誰も作らないのに、夢中の夫に違和感を持つ。白いかれんな花が風に揺れる風景は大好きである。でも、収穫は自宅で食べ尽くせないので、知り合いの方に「どうぞ」。米、野菜も自営だから、現在英語教育との両立は苦痛なはず。でも太陽の下での作業は健康に良く、元気が増すらしい。同窓会では「一番若いね」なんて冗談? 心配顔をせず、のんびり症と評価されるが、実際は長男で解決事は山ほど。先頭の指揮を案じる私。
  肝付町  鳥取部京子  2017/0/9 毎日新聞鹿児島版掲載

実践躬行の人

2017-10-09 07:13:11 | はがき随筆
 

ノーベル生理学・医学賞を受賞された大村智著「自然が答えを持っている」を読んだ。純粋で奇特な人柄に魅了された。
 博士らによって発見されたイベルメクチンは熱帯病などの人たちに無償で供与されている。絵画が大好きという博士は北里新病院の至る所に絵を飾り、各病室にも好きな絵を飾ってもらえるのだと言う。博士の収集作品が基本になっている。
 博士の故郷の山梨県韮崎市に温泉を発掘して解放したり、温泉施設の隣には美術館を建設して、更にそば処まで開店。全ては研究成果により入る収益による。韮崎を訪ねてみたい。
  霧島市 秋峯いくよ  2017/10/8 毎日新聞鹿児島版掲載

花尾古道

2017-10-07 21:04:05 | はがき随筆


 10年ほど前、花尾山に登って帰る車窓から花尾古道の看板を見て、興味があり歩いてみた。それから幾星霜。「蟻の花尾詣で」があることを知り、参加した。今回で13回目。照国神社からスタートした。古道は皆与志から郡山に向かう途中にあり、森の中での急坂は足取りも遅くゆっくりで、これが蟻の行列に見えるのだろうと思った。4時間半で花尾神社に就いたが、この日は秋の大祭であり、自分の田舎の祭りを思い懐かしかった。帰りも歩くつもりであったが、バスに変更して満足感と疲れから車中で眠ってしまった。次回は往復に挑戦するぞ!
  鹿児島市 下内幸一  2017/10/7 毎日新聞鹿児島版掲載

母と老い

2017-10-06 12:25:11 | はがき随筆
 棚田が色づき、あぜには彼岸花がふくらみ始める頃。小さな集落の「長寿を祝う会」に講師として出かけた。いつも初めての出会いはワクワクドキドキである。口癖のように「トシはウッセタ」と老いを意識せず90歳までこころ穏やかに老後を過ごした母を語った。語らいの中で「トシと自覚せずいくつになってもいろいろなことに興味をもつ気持ちの若さは大事だ」と話をされた。それぞれの方が前向きな発言ばかり。心の中に浮かぶ高齢者は見当たらない。母を語ったことで、古稀を迎える今、残りの人生をどう生きるかひとつのヒントを頂いた。
  さつま町  小向井一成  2017/10/5  毎日新聞鹿児島版掲載

日々楽しむ友

2017-10-04 15:56:54 | 岩国エッセイサロンより
2017年10月 4日 (水)
   岩国市   会 員   林 治子

 百日草が生き生きと描かれた絵手紙が届いた。どなたから、と思わず差出人を確かめる。しかし、名前だけでは顔が浮かんでこない。
  「あなたの絵手紙を新聞で拝見しました。この頃、同窓会にはお出掛けではないのですね」。添え書きがあった。それで分かった。高校時代、仲が良かった友だちだ。
 声を聞きたくなった。急いで受話器を握り、電話をかける。呼び出し音が長い間続く。なかなか出てくれない。大きなお屋敷かも、と想像をたくましくしながら待つ。もう切ろうかと諦めかけた時、「もしもし」と細く優しい声がした。「あなたの絵手紙を偶然、新聞で見つけたのよ」から始まって、しばらく思い出話が続いた。
 今は1人暮らしで、24時間全部が自分の時間だという。 「お金も自由にたくさん使えれば、なおいいのだけど」 
 ふふふ、と笑って彼女は言葉を続ける。
  「1人で何でもするのよ。洗濯、掃除、買い物、料理。時間はかかるけれど、とても楽しいのよ」
 聞いていて、うらやましかった。―人で身の回りのことをこなす方は多いが、楽しんでしているとなると、どうだろう。嫌々、あるいは仕方なくしている人も少なくないのではなかろうか。
 日々、楽しんでいるなんて最高だ。見習わなくては。

       (2017.10.04 中国新聞「こだま」掲載)