はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

トマト作り対策

2014-08-13 15:13:13 | はがき随筆


 近ごろ、トマト作りは面倒になった。昔は植えて支柱を立てるだけだったが、近ごろは植えて、上にビニールを屋根のようにかぶせる。これで腐りにくくなった。ところが、外敵が現れた。それはカラスだ。
 そのため、ツル対策用の網を周りに張り巡らせた。これでひと安心と思っていたら、また外敵ムジナが現れた。編み目の間から入って熟したトマトだけを食い荒らしている。そこでもっと小さい網を土に半分埋めて張った。
 この三つの対策でどにか食べられる。自給自足も腹が立って面倒だが……うまい!
  出水市 畠中大喜 2014/7/30 毎日新聞鹿児島版掲載

がんの治療中

2014-08-13 15:06:59 | はがき随筆
 「検査の結果はほとんで問題ありませんが、ただPSAの数値が高いのでここ数ヶ月のうちに泌尿器科で再度検査してください
」。1月7日に受けた人間ドックの検査説明であった。
 3月中旬、泌尿器科に紹介状を持参して検査を受け、やがて、2泊3日の入院がん検査をうけた。数日後、夫婦同伴で来院するようにとの連絡があり、行って驚いた。がんの細胞が3ヶ所から摘出されたとのこと。
 治療の方法の説明があった。私は度の治療も受けずに、是までの人生の保養を兼ねて、指宿市のホテルに泊まり、粒子線がん治療を受けることにした。
  志布志市 一木法明 2014/7/10 毎日新聞鹿児島版掲載

走れる喜び

2014-08-13 14:55:37 | はがき随筆
 昨年夏、不覚にも転んで頭を強打した。医師の診断は脳挫傷。止血しない時は手術と告げられ、頭が更に重くなった。人生を左右する10月の検査では――。出血は吸収されていて心配ない、とのこと。助かった。
 その間、頭のふらつきや目まいで好きな走り屋飲酒ができず、つまらない古語を過ごしていた。ランニングの再開は3月。ブランクを取り戻すために無理したのか左膝を痛め、治療の春になってしまい悔しかった。
 5月、6月の練習はうまくいき、むんのマスターズ陸上選手権への申し込みができた。短距離で走れる喜びを爆発させたい。
  出水市 清田文雄 毎日新聞はがき随筆欄掲載

袖振り合うも………

2014-08-09 15:39:15 | 岩国エッセイサロンより
2014年8月 8日 (金)


 岩国市  会 員   横山 恵子



数少ない暑中見舞い。差出人の名前を見て思い出した。

約1ヵ月前、買い物を終え駐車場に戻ると、何だろう? 落とし物か。何と運転免許証。警察を通して連絡がとれ、Aさんが汗をかきながら来られた。「ありがたいことです。家中を捜し回りました。どうやらズボンの後ろポケットのハンカチを取り出した時、落としたんですな」。表札を見て「あなたのお父さんとスイミングで一緒でした」と言われ、話に花が咲いた。

ハガキからも喜びが伝わってきた。良かった!! なぜか小学校時代、黒板に書かれてあった「一日一善」を思い出した。

    (2014.08.08 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

バッグは現役時代

2014-08-07 19:16:29 | 岩国エッセイサロンより
2014年8月 7日 (木)


岩国市  会 員   山本 一

 書斎の隅でいつも準備万端のビジネス・バッグがある。 

55歳の頃横浜で買った。パソコンと書類と1泊程度の着替えが入る程度の大きさだ。当時は東京の企画部門にいて、ほとんど毎日に近い頻度で東京・大阪間を往復していた。このバッグには、髭剃り、洗面用具、傘など、その他もろもろを常時入れている。黒色で慶弔の場合も違和感がない。これを持てば、いつでもどこでも出かけられる。 
 今も、常備品は現役時代のままだ。が、出掛ける時は大抵出して軽くする。退職後10年、とっくに不用の安心感と、まだ決別できない。

  (2014.08.07 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

高らかに鳴け

2014-08-01 10:53:03 | 岩国エッセイサロンより


2014年7月31日 (木)

岩国市  会 員  安西 詩代


朝、玄関を開けると床で私を出迎える形で待っていた。頭を上げ、前脚をしっかり伸ばし、シャキッとした姿勢で背中に一筋の割れ目のある抜け殼。
 まだ梅雨の明けていない昨夜はどしゃ降りだった。玄関の軒下で羽化した蝉は、この雨の中、どこでしのいでいるのだろう。
 抜け殼を棚に置いて眺めた。小さいながら威厳のある姿に驚いた。「抜け殼のような」という表現は負の時に使われるが、「抜け殼でさえ威厳のある」と使う方が良い。長い間、土の中で身を潜め、地上に出るのを待った。たった数日の命で自分の使命を果たす、潔い蝉よ!
  (2014.07.31 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載