はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

再会

2007-02-20 11:50:14 | はがき随筆
 「新しいのに替えましたよ」。いつもと変わらないわが家の朝食風景。匂い立つ手作り味噌の湯気が、真新しい朱色の「お椀」をひと際引き立てる。十数年前、会津若松市に夫の恩師を訪ねた折り、いただいた「会津塗り」の汁碗十客。日常使って欲しいと女性ならではの暖かい思いやりの一品。
 戦前、平城市の日本人学校に夫が入学した時の担任と教え子の関係は、家族ぐるみの交流があった由、引き揚げ後も消息を案じ続けた亡き姑を思う。凛として米寿を迎えられる恩師と同じ道を志し、還暦を過ぎた夫の再会の旅は感動の一語に尽きた。
   鹿屋市 神田橋弘子(69) 2007/2/19 掲載

緋寒桜の微笑

2007-02-19 16:12:13 | はがき随筆
 西之表市の高台にある史跡・本城址を通る路地にヒカンザクラが咲いている。やっと車が1台通れるほどの細い道だ。かなり急な坂の途中の土手から枝を張り出し、下を通る人に微笑みかけている。行き交う人々も足を止めて見上げ、笑顔を返す。青い空をバックにピンクが一段と映える。白い雲が流れていく。両手の親指と人さし指で四角を作り、その美しさを切り取る。まさに一幅の絵である。私もこの島ならではの景色を即デジカメに収め、パソコンで絵葉書を作成、都会に暮らしている子どもたちや、札幌に住む島出身の叔母に便りをしたため送った。
   西之表市 武田静瞭(70) 2007/2/19 掲載

写真はOYANMAMAさんからお借りしました。

好きだからこそ

2007-02-19 16:03:15 | かごんま便り
 鹿児島支局が移転した。場所はJR鹿児島中央駅に近い。赴任先では、まず支局を中心に歩き回り土地柄、雰囲気、景色などを楽しんでいる。わずかな距離の支局移転でも、その癖が出ている。以前、見た場所でも、より深く観察している。
 そこで数日来気になっていることがある。支局が入っているビルの近くにあるライオンズ広場で見つけた。広場には勇ましい雄ライオンのブロンズ像と噴水、綺麗な公園がある。
 ここの石台に刻まれている文字に「贈ライオンズ像 叫べ正しく 謳え明るく 吠えよ男々しく」とある。男々しく? 元気で活発な女性が多くなり、〝女々しい〟男を叱咤するためだろうか。あるいは「男らしく」「雄々しく」などの間違いかなと、しばらく考えた。
 と、近くに立て看板があり、この広場を整備した趣旨が説明されていた。この中に「叫べ正しく 謳え明るく 吠えよ勇々しく」とあった。このライオン増に希望を託し、青少年の健全な……と続く。なるほど「勇々しく」なら理解できる。
 説明によると1978年(昭和53)年にライオン像が建てられたようである。以来、「男々しく」のままらしい。さて「勇々しく」と「男々しく」のどちらが正しいのか。
 私がメモしたり、写真を撮ったりしている時に、散歩中の男性が通りかかった。近くの人らしい。私は「どっちが正しいと思いますか」と聞いてみた。初めて知ったらしく、興味を示して、「勇々しくだろうね」と答えてくれた。
 鹿児島は偉人たちの銅像や石碑が多い。今、NHKの大河ドラマで篤姫をテーマにした物語が放映されるとかで、観光関係者は篤姫の勉強会などを開いているようだ。しかし、鹿児島を訪れる観光客は篤姫だけが目的でなく、他の名所旧跡や観光施設なども訪れるはずだ。これを機に既存のものを見直し、整備したらどうだろう。
 例えば、軍服姿の西郷隆盛像の近くには中央公園がある。公園にはスケートボードをする若者が集まり、楽しそうに練習しているが、散歩する人や観光客には迷惑だ。他県にはスケートボード専用の施設をつくり、提供している自治体もある。そろそろ鹿児島も必要だと思う。
 今回は観光客の身になって気づいた事を少々。これも鹿児島が好きだからこそ。
   毎日新聞 鹿児島支局長 竹本啓自 2007/2/19 掲載

ありがとう

2007-02-18 16:33:21 | はがき随筆
 「肺炎ですね。入院された方がいいでしょう」
 小児の先生に言われて、思わずポロリと鳴いてしまったのは私の方。9歳の娘は堂々と落ち着いており、先生の机の上のティッシュをガバガバと取り出し、「母ちゃんそんなに泣かなくていいんだよ」。

 そう言って、私の目をふいた。私は思いがけない娘の行動に、驚きと嬉しさで泣き笑い。
 その後、娘は入院し全快した。
 来月は半成人式だ。「泣かなくてもいいよ」と言ってくれるくらい大人になった娘にありがとう。
   鹿児島市 萩原裕子(54) 2007/2/18 掲載

写真は本文と関係ありません。

寒椿

2007-02-17 10:30:20 | はがき随筆
 計ったように朝4時に目が覚める。開業して45年間、風雨雪の暗闇の早朝から市場へ仕入れに通い続けた。わけあって昨日で商いを廃業したのだが、今朝、目が覚めて、その生活パターンから解放されている我が身に長いトンネルから抜け出した虚脱感と脱力感を覚えた。思い切り背伸びし頬をつねってみた。これから急変するであろう未知の生活への不安、体力の限界、余生などなど、思案思案にふけった。とにかく立て、立てと我武者羅に我が身を叱鞭して起きあがり、窓を開けてみると、冷たい朝風と朝日の中に真っ赤な寒椿が美しく映えていた。
   鹿児島市 春田和美(71) 2007/2/17 掲載

写真はtakocchiさんよりお借りしました。

べんまくしょう

2007-02-16 15:18:48 | はがき随筆
 家内は山坂往復1里の道のりを通学していた。足腰には自信があったが寄る年波、体力の衰えは否めない。検診の時、「軽い弁膜症があります」。家内はすかさず「先生近ごろ便秘がちです」。とたんに先生は後ろを向き背中が波のように揺れている。看護士さんも皆後ろ向き。ようやく理由が分かったとたん自分でもショック。看護士さんが「奥さんのように健康な人は皆そうなんですよ」と慰め顔。その病院の前を通る時、いつも家内はそれを言う。「健康であるから良いのではないか」と、その都度慰めている。近ごろ、ようやくショックも薄れるような感じ。
   薩摩川内市 新開 譲(81) 2007/2/16 掲載

春の味

2007-02-15 11:35:48 | はがき随筆
 2月と思えぬこの数日の暖かさ。庭に出て生け垣の根元を見ると、土を割って赤紫の芽が見えた。勢力を伸ばした蕗の薹だった。取れたての蕗の薹はなかなか入手出来ないので、3年前友人から株を分けて植えたもの。待望の蕗の薹が11個取れた。 
 うれしくて心が躍る。外皮を取ると鮮やかな薄緑。この美しさに見とれた。中を開くと米粒のような蕾がびっしり固く詰まっていた。早速、てんぷらにして夕餉に出した。サクッとした歯応え、かむうちにふんわりと香りと共に何とも言えぬほのかな苦み。春を味わう至福の時であった。
   出水市 年神貞子(70) 2007/2/15 掲載

バレンタインデー

2007-02-14 11:31:39 | アカショウビンのつぶやき
 昨日、ケーキ屋さんに行ったら、若い女性がいっぱい。義理チョコか、今はやりのマイチョコか、ためつすがめつチョコを眺めていた。
おばあちゃんはちょっと気後れしたけれど、いつもお世話になっている大切な2人の男性に贈るチョコを買った。

お一人は、心の病と向き合いながら社会復帰され、介護施設でやさしく高齢者のお世話をしている初老の男性Aさん。

もう一人は現役最後の年を迎えた団塊世代の代表みたいなBさん。趣味が高じ、何の因果か私のFM番組作りの編集担当として助けてくださっている。
取材のため休日返上で西に東にお付き合い下さり、家庭サービスもままならぬのでは…と案じながらも、なくてはならない頼もしい存在。

「これは愛の告白ではありません、感謝の気持ちです」と
本当の気持ちを告白して差し上げることにした。

子供たちがいた頃、娘が作るチョコレートが気になって仕方がない夫は、
「お父さんが、味見してやる」としゃしゃり出ては娘に煙たがられていたなあ。
失敗作はお父さんに上げようと、ちゃっかり娘は家中をチョコレートの香りいっぱいにして頑張っていた。

お父さん! あなたの写真の前にも、私からの愛と感謝のチョコを置きましたよ。
息子には栄転の前祝いの小さなチョコをネ。

ほんわか気分のアカショウビンです。

写真は桜香(さくらこ)さんからお借りしました。

お粗末話

2007-02-14 10:20:20 | はがき随筆
 夕方になってようやく思い出し「今日は結婚記念日よ」と言ったら「そうだった?」と夫。「おいしい物でも食べに行きたかけど夜は冷えるよなあ」。寒いのと改まって出掛けるのが面倒ということで外出は取り止めに。
 その夜、ちょっとすてきにテーブルセッティングし、ごちそうを並べ脇には淡いピンク色のマーガレットの花も。でも、いつもの場所、時間帯、普段着のまま。いつの間にかテレビに夢中になり、御祝いの食事をとっている事などケロリと忘れ、ただお腹を満たしただけだった。
 35年の時を経た夫婦の話。
   鹿児島市 馬渡浩子(59) 2007/2/14 掲載

梅の季節

2007-02-12 12:13:00 | アカショウビンのつぶやき




 子供たちの小学校卒業記念樹、紅白の梅が散り始めた。
まん丸い小さな花びらは、風に乗ってチョウのように舞い落ち、やがて庭中を紅白に染めてしまう。

巣立っていった子供たちが大きく成長したように、この樹も二階の窓に届くほどに伸びた。当時子供たちが可愛がっていた猫は、猫のくせに木登りが苦手。愛猫のために二階の子ども部屋に木登りで上がってこれるようにと場所を選んで植えた息子。今でもご近所の猫たちに人気があるらしいけど、相手が猫じゃしょうがないなあ…と嘆く母です。

大きく育った梅でも、油虫の駆除をしなかったため年々弱り、一時は諦めましたが、昨年オルトランを散布してから蘇りました。枯れてしまった枝は寂しく残っていますが、生き生きとした枝には蕾がいっぱいつきました。

困難な問題を抱えた子供たちにも、今は忍耐の時よ! と励ましているアカショウビンです。


冬スミレ

2007-02-12 10:46:15 | はがき随筆
 母と2人で暮らしている私に、友だちがしみじみと言う。
 「家庭介護をしている人をみると尊敬するわ。私も看てやればよかった、と後悔しきりよ。息抜きしながらでもやり抜いてね」
 「心で殺す」と誰かが言ったが、認知症が進んでいく母といると、この言葉が頭をよぎる。
 トイレはどこ? 電気のスイッチはどれ? これは食べてもいいの?
 曇りがちな母の顔を、笑顔に変える言葉をさがす朝夕である。
 母の窓に、冬スミレがひそと咲いている。
   阿久根市 別枝由井(65) 2007/2/12 掲載

みんなで心を合わせて!

2007-02-11 19:45:30 | アカショウビンのつぶやき
オーケストラの優雅な音色に合わせて楽しく歌いました。
 
鹿屋市少年少女合唱団・第6回定期演奏会に「かのやオーケストラ」「鹿屋市民合唱団」が賛助出演。その中に昨年のアドヴェントコンサートで市民合唱団の友情出演に助けられた私たちが、ちょっぴり応援をさせて頂きました。

第1部は少年少女合唱団のステージ。オーケストラの伴奏で、軽快な「グラスホッパー物語」「となりのトトロメドレー」、ミュージカル「くるみわり人形」の3曲を元気良く歌いました。

第2部はかのやオーケストラの「威風堂々」の演奏のあと、市民合唱団、信愛コーラスが共演。曲はヘンデルのメサイアから「ハレルヤ」、バッハのカンタータの2曲。信愛コーラスは女声コーラスですから、混声合唱に加わるのは素晴らしい体験でした。ドイツ語の発音には悩まされました…が。

第3部は、可愛い声に合わせ全員で懐かしい童謡を5曲。
オーケストラの伴奏で歌えるのは感動でした。

思えば20年以上前、娘が初代の鹿屋市少年少女合唱団で歌っていました。夏休みは合宿や種子島へ演奏旅行など、親も忙しい日々でしたが、楽しい想い出をいっぱい作ってくれました。
数年後、運営が難しくなり惜しまれながら活動に終止符を打ったのですが、長いときを経て、再スタートした合唱団です。
可愛い声に合わせて歌うひとときは遠い昔を思い出させてくれました。かわいいお友達、どうも有難う。「早春賦」の歌詞は難しかったでしょう、でもあなた達の声すばらしかったよ

今日も楽しく囀ってるアカショウビンです。

春を待つ

2007-02-11 17:26:59 | はがき随筆
 12月のころは、5時過ぎにはもう真っ暗になっていたのに、今はまだ明るい。日がほんの少し長くなって春に近づいているのが、うれしい。
 外の風は冷たいが、縁側に差し込むぽかぽかと暖かく優しい日の光。お日様の光に包まれて日なたぼっこができるのがうれしい。
 庭を眺めると、沈丁花が小さな蕾をいっぱいつけている。この花も春を待っているんだなと思うと、何だかうれしい。
 日常の生活の中にある小さな喜びをたくさん見つけて、厳しい冬を乗り越えていきたい。
   出水市 山岡淳子(48) 2007/2/11 掲載

隣が家事です!

2007-02-10 21:58:41 | はがき随筆
 宴会中に携帯が鳴る。いきなり「火事はどんな様子ですか」と言う。「どこが?」と聞くと「防災無線で、お宅の隣のYさんの家が家事だと放送していますよ」とのことだ。これには驚いた。わが家は高齢のYさんの家とは狭い道路を挟んで一段高い所にある。そこが火元だとすれば類焼は免れない。家内の運転する車の中で「落ち着け!」と懸命に自らを制した。火は赤々と燃え盛り、消火作業が懸命にされているその中に、屋根がいつもより一段と大きく、炎とライトに照らされて鎮座していた。「大丈夫です。離れて!」。消防の大きな声。類焼は免れた。
   志布志市 一木法明(71) 2007/2/10 掲載

おおきに

2007-02-09 13:23:46 | はがき随筆
10歳の時に私は家族と共に台湾から引き揚げて来た。そして伯父、源にょん爺さんの隠居屋に転がり込んだ。彼の末っ子、シゲどんは生まれつき目と耳がひどく不自由であった。なので遊びに誘う時、耳に口をあて大声を出し、手を引いた。
 ある日、いつもの伯父の読経が響く中、私はふと庭の夏ミカンをとることを思いついた。しかし、私の意図がわからず、まごはごしていたシゲどんがいて、伯父に見つかってしまった。
 ごめんなさいも言えずうろたえていた私に、伯父は「いつもおおきにね」と行った。目は笑っていた。
   出水市 松尾 繁(71) 2007/2/9 掲載

写真は金魚8さんからお借りしました。