この時季、温泉に浸る気分は最高である。湯の花と硫黄の香り。露天風呂につかり火照る体。頬をなでる冷たい風に醍醐味を味わう。山荘風のこの宿は、広大な雑木林の中にある。葉を落とした櫟の林が山へと続く。宿の下駄で落ち葉を鳴らす。熱を冷ました体を再び湯に浸す。ふと思い出すのは武蔵野の雑木林。湯につかり目を閉じると、幼い日がよみがえる。切り株に腰を下ろし芋の焼けるのを待つ時、梢を渡る風の音を聴いたのかもしれない。乱開発で跡形もなく消えた都会の林。まるで初恋の人に霧島で会えたような懐かしさを感じた。
志布志市 若宮庸成(67) 2007/2/6 掲載
志布志市 若宮庸成(67) 2007/2/6 掲載