義父が亡くなった。春の嵐が吹き荒れた日、お棺に入って義母と暮らした家を出ていった。
その病が分かったのは13年前の夏。たまたま夫の実家を訪れていた私が、少し耳が聞こえづらい義父に付き添って検査結果を聞きに行くことになった。
医師はCTスキャンの画像を示しながら「がんです。小さすぎても発見できません。この大きさでちょうどよかった」と言った。何の前置きもないがんの宣告だった。
帰り道、義父の自転車を追いかけながらペダルを踏んだ。夕焼けがなぜだかとてもきれいで、涙がポロポロ止まらなかった。義父が泣いているのかどうかは分からなかった。
あれから何度も手術を受け、大好きなボウリングを楽しみながら義父は命を全うした。
「入院・痛いこと、一切お断り」宣言した通り、自宅で迎えた最期だった。意識がはっきりしない中で「今まで本当にありがとうね」と耳元でささやくと、ふうんと言ってうなずいてくれた。
お義父さん、口に出しては言わなかったけれど、故郷にもう一度帰りたかったのでしょう? 和歌山の海をもう一度見たかったのでしょう。 ちゃんと飛んで行けましたか?
私はお義母さんのように泣いてあげられないけれど、ふとした拍子にあなたを思い出し、鼻の奥がツンとして困っています。
鹿児島市 岩井初美 2012/4/28 毎日新聞女の気持ち欄掲載
その病が分かったのは13年前の夏。たまたま夫の実家を訪れていた私が、少し耳が聞こえづらい義父に付き添って検査結果を聞きに行くことになった。
医師はCTスキャンの画像を示しながら「がんです。小さすぎても発見できません。この大きさでちょうどよかった」と言った。何の前置きもないがんの宣告だった。
帰り道、義父の自転車を追いかけながらペダルを踏んだ。夕焼けがなぜだかとてもきれいで、涙がポロポロ止まらなかった。義父が泣いているのかどうかは分からなかった。
あれから何度も手術を受け、大好きなボウリングを楽しみながら義父は命を全うした。
「入院・痛いこと、一切お断り」宣言した通り、自宅で迎えた最期だった。意識がはっきりしない中で「今まで本当にありがとうね」と耳元でささやくと、ふうんと言ってうなずいてくれた。
お義父さん、口に出しては言わなかったけれど、故郷にもう一度帰りたかったのでしょう? 和歌山の海をもう一度見たかったのでしょう。 ちゃんと飛んで行けましたか?
私はお義母さんのように泣いてあげられないけれど、ふとした拍子にあなたを思い出し、鼻の奥がツンとして困っています。
鹿児島市 岩井初美 2012/4/28 毎日新聞女の気持ち欄掲載
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