七回裏だった。ノーアウトで四球を運び、ランナーが一塁に出た。
点差は1点。守る鹿児島商がリードしていた。攻める鹿児島実は当然、同点を狙って、送りバントを試みる。すると、鹿商のサードは守備位置を思い切り前にした。打者の目の前。
軟式野球とはいえ、投手と打者の間に入らんばかりの守備位置。バックネット下の本部席で見ていても驚くほどだった。
バントを試みる打者も心理的にプレッシャーを受け、焦ったはず。その結果なのか、バントは小飛球となり、投手と捕手の間でサードが捕球。スコアブック上はサードフライと記録された。
今月10日、姶良市野球場で開かれた高校軟式野球選手権大会の決勝。その試合の行方を決めた場面だったと思う。
◇
小学生のころ、軟式野球のチームに入っていた。外野手で打順も下位。できの悪い選手だったが、監督から教わり、覚えていることがある。
ぼてぼての内野ゴロを打つ。明らかに一塁でアウトになるタイミング。それでも全力疾走する。なぜか? 小学生は「選手がミスをして、セーフになるかもしれないからです」と元気に答える。
「違う。ゴロをつかんだ選手の目に、全力疾走する打者が入る。全力疾走を見せれば野手は焦る。野手を焦らせ、ミスを誘うため全力で走る」と言うのが“正解”だったと記憶する。いわば高度な心理戦を解説されたようで、忘れられない。
あるいは、そのころ強かった巨人軍の川上野球の受け売りだったかもしれないが……。
◇
さて、鹿商、鹿実が出場する高校軟式野球南部九州大会が30日から2日間、鹿児島市の県立鴨池球場で開幕する。「もう一つの高校野球」。ぜひ球場に足を運んでほしい。硬式とは違う打球の音が、懐かしい記憶を誘い出すかもしれないから。
鹿児島支局長 馬原浩 2011/7/25 毎日新聞掲載
点差は1点。守る鹿児島商がリードしていた。攻める鹿児島実は当然、同点を狙って、送りバントを試みる。すると、鹿商のサードは守備位置を思い切り前にした。打者の目の前。
軟式野球とはいえ、投手と打者の間に入らんばかりの守備位置。バックネット下の本部席で見ていても驚くほどだった。
バントを試みる打者も心理的にプレッシャーを受け、焦ったはず。その結果なのか、バントは小飛球となり、投手と捕手の間でサードが捕球。スコアブック上はサードフライと記録された。
今月10日、姶良市野球場で開かれた高校軟式野球選手権大会の決勝。その試合の行方を決めた場面だったと思う。
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小学生のころ、軟式野球のチームに入っていた。外野手で打順も下位。できの悪い選手だったが、監督から教わり、覚えていることがある。
ぼてぼての内野ゴロを打つ。明らかに一塁でアウトになるタイミング。それでも全力疾走する。なぜか? 小学生は「選手がミスをして、セーフになるかもしれないからです」と元気に答える。
「違う。ゴロをつかんだ選手の目に、全力疾走する打者が入る。全力疾走を見せれば野手は焦る。野手を焦らせ、ミスを誘うため全力で走る」と言うのが“正解”だったと記憶する。いわば高度な心理戦を解説されたようで、忘れられない。
あるいは、そのころ強かった巨人軍の川上野球の受け売りだったかもしれないが……。
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さて、鹿商、鹿実が出場する高校軟式野球南部九州大会が30日から2日間、鹿児島市の県立鴨池球場で開幕する。「もう一つの高校野球」。ぜひ球場に足を運んでほしい。硬式とは違う打球の音が、懐かしい記憶を誘い出すかもしれないから。
鹿児島支局長 馬原浩 2011/7/25 毎日新聞掲載
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