「明日、車を出してくれんか」と、父の頼みはいつも突然で困った。不満そうな顔をしていると「その日がダメなら別の日でもいいからな」とぶっきらぼうに言い切った。明治生まれのガンコおやじも、80過ぎると穏やかにはなったが。気兼ねして「昼飯代は俺に任せろ」と財布を出した。どうしても母系の先祖の墓参りを済ませたかったらしい。それも自分たちの足で歩けるうちに。車中で昔話にふける父の笑顔は、今も忘れがたい。あれから四十数年。父の年齢になり、足腰も痛む。妻も「年を取らないと、老いの気持ちは分からないものねえ」とポツリ。
宮崎市 原田靖(82) 2022.4.27 毎日新聞鹿児島版掲載
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