はがき随筆・鹿児島

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「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

45年目の絵手紙

2015-09-16 00:41:30 | 女の気持ち/男の気持ち
 かつて私は大隅半島東岸にある小さな中学校の教師だった。先日、45年前の卒業生から還暦同窓会の案内が届いた。担任した45人の生徒のうち3人が早世し、26人が参加するという。
 当日、出水市から集合場所の中学校へ車で向かった。最後の峠のトンネルを抜けると太平洋が見える。ゆっくりと坂を下る。明らかに過疎化が進んでいる。45人中30人が集団就職したのだ、当然だろう。彼らの実家はまだ存在するのだろうか? 泊まる所はあるのだろうか?
 4時間足らずで学校に着き、私と私の家族の人生のスタート地点に立つ。涙があふれ出す。現在の生徒数は7人だという。
 校門で待っていると、次々に教え子たちが集まって来る。
 「先生、誰だか分かりますか」じっと見つめていると中学時代の顔が浮かぶ。
 「あ、ハルキ」
 大自然の中で共に遊び暮らした彼らの名はよく覚えている。が、顔と一致するかが心配だった。生徒同士も同様のようだ。
 「あれは誰?」
 私を遠くから見て問う声。しばらく誰も答えない。
 「先生だがね」
 全員が笑った。
 3人の墓参りの後、宴会場へ。アラ、イシダイ、オウギガニ……。郷土料理を見て驚きの声が上がる。そう、彼らも久しぶりなのだ。ここでも時間は矢のように過ぎた。
 出水にもどってもまだ余韻に浸っている。そうだ、42人全員に絵手紙を書こう。私を育ててくれた彼らに感謝を込めて。
  鹿児島県出水市 中島征士 2015/9/12毎日新聞鹿児島版掲載

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