はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆12月度

2021-01-22 21:48:09 | はがき随筆
月間賞に藤田綾さん(宮崎)
佳作は増永さん(熊本)、柳田さん(宮崎)、田中さん(鹿児島)
 
 はがき随筆12月度の受賞者は次の皆さんでした。(敬称略)
【月間賞】4日「くも」藤田綾子=宮崎市
【佳作】9日「そくひ(続飯)」増永陽=熊本県
▽13日「嵐の夜に」柳田慧子=宮崎県延岡市
▽30日「文章教室」田中健一郎=鹿児島市

 12月は誰にとっても心に去来するものの多い時期ですが、コロナ禍に閉ざされながらも、文字に著さずにはいられないできごとや思いを、多くの方々が寄せてくださいました。
 「クモ」はデイケア施設での小事件のスケッチ。大きなクモの出現に、お取寄りの皆さんのそれぞれの反応、続いて施設職員の男女の予想に反する対応が、おかしみを交えて生き生きととらえられています。読者の私たちもその場に居合わせたかのような気分で思わず拍手です。
 「そくひ(続飯)」が掲載されたのは、太平洋戦争開戦記念日の翌日でした。1941年ころには物資の不足が国民生活に及び始め、当時小学5年の筆者は、何と運動靴を古いゴム毬で補修したとのこと。それも、飯粒を練った「そくいい」(「そくひ」は旧仮名遣いだが、この発音も残っている?)で。伝統工芸に今も使われる接着剤ではありますが、ゴムには不向きではなかったでしょうか。困窮は戦争によって解決できると子どもたちに勘違いさせてはいけない、私たち大人の責務を改めて思いました。
 「嵐の夜に」には、台風の難を近くの大学構内に避けた一夜のことが落ち着いた筆致で記されています。外の風雨の激しさと対照的に、大勢の人と共にあることの安心感、予期せぬ人との出会い、再会の喜びを噛みしめるのです。明ければまた平穏な生活が戻ることへの信頼を、数匹の煮干しを浮かべた自宅の小鍋を思うところに集約させたのは鮮やかでした。
 「文章教室」には、定年前に東京で新聞社主催の「エッセイの書き方」講座を受講して学んだことが披露されました。そこで会得した方法をそのまま実践するという達者な書きぶり。そして、たしかに文章が人の目に触れることを意識すると、つい「いい人」を演じてしまいます。そこはお互いに用心、用心。
熊本大学 名誉教授 森 正人 2021/1/11 毎日新聞鹿児島版掲載

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