はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

糸ノコとインスタ

2021-07-22 18:25:36 | はがき随筆
 夫は2年ほど前から、糸ノコで木工品を作っている。定年後の趣味として始めたものだが、いろいろな本を参考にたくさん作る。もともと手作りすることは好きな人だが、時間もたっぷりあり、次から次へと作品が増えていく。こんなに作ってどうするの? というほどだ。
 動物、花、おひな様、パズルなどで、中でも切り絵風の作品は見事だと思う。孫のおもちゃもたくさん作った。じいじ手作りのジグソーパズルは孫のお気に入りだ。最近は息子からインスタの指導を受け、あちこちの人とつながっている。思いのほか積極的なじいじである。
 宮崎市 高木真弓(67) 2021/7/22 毎日新聞鹿児島版掲載

微震

2021-07-22 18:17:49 | はがき随筆
  上空をヘリコプターが飛び、我が家の箪笥が微かに揺れた。これが毎日、時をおかずにある。もっと激しく酷く。沖縄の基地周辺に住む人々は大変だなと、今まで考えなかったことを考えた。世情かな。平和を満喫した時代は遠のき、平和をつなぎ留めたい時代が来たようだ。戦争と平和を繰り返す波グラフのどこかに艫綱の杭はあるのか。人は英知を誇るが、何も学んでいないような気がする。本当は自然に棲み分ける動物たちの方が賢くないか? 自分は争い事などに関わらず、静かに鍬を打つ人生で終わりたいが……。これも愚かて身勝手であろうか。
 熊本県阿蘇市 北窓和代(66) 2021.7.21 毎日新聞鹿児島版掲載

素敵な墓地

2021-07-22 18:11:22 | はがき随筆
 コロナ禍で鹿児島市からは足が遠のいていたが、次男の妻のお父様の一周忌を前に墓参を思い立った。息子夫婦に連絡を取り、道案内を頼んだ。
 山の斜面のひとところ十数基ほどのお墓が肩を寄せ合っていた。線香を手向け孫たちのつつがない成長を報告し感謝した。
 お参りを終え振り向くと、眼下に素晴らしい景色が広がっていた。四方を山に囲まれた平地に小学校があり、植田が広がっていた。小学生の声が聞けて、稲の実りの様子が見える場所だ。良い所だなあと見とれていたら「良い所でしょう」とにこやかなお父様のお顔が浮かんだ。
 鹿児島県出水市 清水昌子(68) 2021/7/20 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆6月度

2021-07-22 16:49:33 | はがき随筆
月間賞に西嶋さん(熊本)
佳作は原田さん(熊本)、藤田さん(宮崎)、門倉さん(鹿児島)

はがき随筆6月度の受章者は次の皆さんでした。(敬称略)

【月間賞】 19日「心が小さくなる」西嶋千恵=熊本市南区
【佳 作】 13日「新茶の季節」原田初枝=熊本市中央区
      15日「ポテトティッシュ」藤田悦子=宮崎市
      26日「ホトトギス」門倉キヨ子=鹿児島県鹿屋市
  
 「心が小さくなる」は、子どもの頃に誰もが経験した遊びの終わりと、その時に覚える寂寥感について語っています。同意を求める語りかけは、小学4年の我が子に対するもののようにも、子ども時代の自分に向けてのもののようにも聞こえます。わが子を見守る母親の目を背後に持ちながら、自他の境界を溶解させ、現在と過去を往還する表現方法が、読む者それぞれの記憶を呼び起こし、共感を醸成します。
 「新茶の季節」は、かつて行われていたお茶の製造過程を回想し、いきいきと再現してみせました。摘み取った茶葉を釜で煎り、しんなりとなった葉を手でもみ、それを乾燥させる仕上げが続きます。手際よく進められる作業さながら、スピードとリズムをそなえた文体。そう感じさせるのは、私も高校生の頃まで手伝ったことがあるためかもしれません。しかし、そうした経験の有無にかかわりなく、当時に返って作者の弾む心は、多くの読者に伝わったことでしょう。
 なお、19日掲載の「天下一品のお茶」(渡邊布威)にも、製茶を手伝った経験が語られていて、同じく新茶の香りが立つような印象を残しました。
 「ポテトティッシュ?」。「ポケットティッシュは置いてありますか」と店員さんに尋ねて、菓子売り場に案内されたのは、マスク越しの言葉をポテトチップスと聞き間違えられたため。2人で笑いこけたとのことで、間違えを笑いに変える心のゆとりが、作品の軽妙さを作り出しています。
 「ホトトギス」は、心待ちにしていたホトトギスの鳴き声をようやく耳にし、空を翔るのを目にした時の嬉しさを綴った佳品。「私はもう聞きましたよ、あなたは?」と、初夏になると、平安時代の貴族社会でも初音の話題でもちきりでした。たしかに他とは紛れようもない、あの鳴き声を聞くと、なぜか心が浮き立ちます。そして人に告げずにはいられません。「チョンチョンチョンゲサ!」と聞きなす人があるとは、この度初めて知りました。
 熊本大学名誉教授
   森正人

好きだった人

2021-07-22 16:42:48 | はがき随筆
 中学生の頃、クラス委員をしていた男子を好きになった。見た目は普通、それでも好きだった。まじめで女子に優しかった。将来結婚するならこの人以外にはないと勝手に決めていたのだが……。卒業後、彼は県外に行き、そのまま忘れてしまった。
 再会したのは成人式のバスツアーでホテル見学の時。「いま大広間で結婚式やっていますよ」と聞き、見ると新郎新婦が会場の入り口に立っている。なんと新郎は彼ではないか。しかも新婦は同級生。そういえば2人ともクラス委員だった。初恋はむなしく消えた瞬間だった。
 宮崎市 藤田綾子(76) 2021/7/19 毎日新聞鹿児島版掲載

タマゴ

2021-07-22 16:32:29 | はがき随筆
 電気を消して寝室へ行こうとした時、「ほらほらタマゴ!」「ん? あらっほんと! タマゴだ!」外の光が床に落ちている鏡に反射して、かわいいタマゴみたいに天井で光っている。
 「ねえ、取って取って!」「届かないよ」。えいっ! とジャンプする娘を見て鏡を動かしてみた私。「ワッ-まって-こっちこっち!」「ママも取って-」「あっこっちだよ、ジャンプして」
 結局、いつもの遅い時間になってしまった。でも、まぁいいか。寝る前に何かしら楽しませてくれる。一日の終わりをハッピーにしてくれてありがとう。
 熊本市北区 弥久保江里子(42) 2021/7/18 毎日新聞鹿児島版掲載