月間賞に西嶋さん(熊本)
佳作は原田さん(熊本)、藤田さん(宮崎)、門倉さん(鹿児島)
はがき随筆6月度の受章者は次の皆さんでした。(敬称略)
【月間賞】 19日「心が小さくなる」西嶋千恵=熊本市南区
【佳 作】 13日「新茶の季節」原田初枝=熊本市中央区
15日「ポテトティッシュ」藤田悦子=宮崎市
26日「ホトトギス」門倉キヨ子=鹿児島県鹿屋市
「心が小さくなる」は、子どもの頃に誰もが経験した遊びの終わりと、その時に覚える寂寥感について語っています。同意を求める語りかけは、小学4年の我が子に対するもののようにも、子ども時代の自分に向けてのもののようにも聞こえます。わが子を見守る母親の目を背後に持ちながら、自他の境界を溶解させ、現在と過去を往還する表現方法が、読む者それぞれの記憶を呼び起こし、共感を醸成します。
「新茶の季節」は、かつて行われていたお茶の製造過程を回想し、いきいきと再現してみせました。摘み取った茶葉を釜で煎り、しんなりとなった葉を手でもみ、それを乾燥させる仕上げが続きます。手際よく進められる作業さながら、スピードとリズムをそなえた文体。そう感じさせるのは、私も高校生の頃まで手伝ったことがあるためかもしれません。しかし、そうした経験の有無にかかわりなく、当時に返って作者の弾む心は、多くの読者に伝わったことでしょう。
なお、19日掲載の「天下一品のお茶」(渡邊布威)にも、製茶を手伝った経験が語られていて、同じく新茶の香りが立つような印象を残しました。
「ポテトティッシュ?」。「ポケットティッシュは置いてありますか」と店員さんに尋ねて、菓子売り場に案内されたのは、マスク越しの言葉をポテトチップスと聞き間違えられたため。2人で笑いこけたとのことで、間違えを笑いに変える心のゆとりが、作品の軽妙さを作り出しています。
「ホトトギス」は、心待ちにしていたホトトギスの鳴き声をようやく耳にし、空を翔るのを目にした時の嬉しさを綴った佳品。「私はもう聞きましたよ、あなたは?」と、初夏になると、平安時代の貴族社会でも初音の話題でもちきりでした。たしかに他とは紛れようもない、あの鳴き声を聞くと、なぜか心が浮き立ちます。そして人に告げずにはいられません。「チョンチョンチョンゲサ!」と聞きなす人があるとは、この度初めて知りました。
熊本大学名誉教授
森正人