はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

そうそう‼

2019-08-28 21:17:13 | はがき随筆

 車を走らせながら、娘は何かを思い出そうとしている。「もしかして○○のこと?」「そうそうそれそれ」。娘はとんきょうな声で喜んでいる。「お母さんの記憶ってすごいね」「たまたまよ」。思い出せないときのもどかしさ、忘れた頃にひょっこり現れたりして「そうそう」と、盛り上がったところで温泉に到着した。

 4月の圧迫骨折から体調が元に戻らない。加齢のせいか、筋力の低下はあちこちに支障をきたし、気力あるのみ。娘ならではの気配りは何よりもうれしくありがたい。今後もよろしくねと、心の中でお願いする。

 鹿児島市 竹之内美知子(85) 2019/8/22 毎日新聞鹿児島版掲載


ホワイト・サマー

2019-08-28 20:59:56 | はがき随筆

 

 

 

 

  3月末に道の駅で鉢植えの花を買った。白い小さな花がたくさんついた「ホワイト・サマー」、完全な一目ぼれだった。庭に出るたび声をかけ、水をやり雨風の強い日は避難させた。

 それなのに花は次第に蕾のまま咲かなくなり、茎が茶色になった。購入してすぐ固い庭土を入れた鉢に植え替えたせいで水はけが悪いのだと思った。土を買い植え替えることにしたが、庭土で固まった根を水で洗った。花はますます弱って行った。謝るが後の祭りである。

 しかし一カ月後の朝、白い花が一つ咲いていた。私は許された気がした。

 宮崎県延岡市 渡辺比呂美(62) 2019/8/22 毎日新聞鹿児島版掲載


マンガで学ぶ

2019-08-28 20:44:08 | はがき随筆

 昔は冬になるとお櫃を炬燵の中に入れて保温したり、お歳暮は中を確かめて使い回しをしていたなど高校生になった息子は物知りになった。他にも畳をはがし外へ出す大掃除や寝押しの習慣、道路に落ちた牛馬の糞は肥料に大切に使われていたこと。今は見られない光景だが私はすべて見聞きしている。

 私は「サザエさん」のファンで、全集を買ったものの読む機会がなく退職後の楽しみに本棚に並べていた。息子はそれを読み知識を蓄えたのが真相だ。

 マンガの中でも「サザエさん」は戦後日本の風俗を描いた貴重な資料といえよう。

 熊本市北区 西洋史(69) 2019/8/22 毎日新聞鹿児島版掲載


キャベツの青虫

2019-08-28 20:30:45 | はがき随筆

 僕は年長組さん。調理を始めたママが大きな声を上げた。キャベツの葉に、僕の爪の大きさほどの青虫が。「蝶になるまで飼いたい」とお願いすると、マンションなんかじゃ無理って顔したけどOKしてくれた。

 毎日の葉っぱの餌やりが僕の日課に加わった。青虫は脱皮を何度か繰り返し大きくなる。サナギに変わったが、枝が無いので籠の底で横になったまま。蝶になる瞬間が見られると思ってワクワクしていた。キャベツを買ってから2週間目、保育園から帰ると籠の中でモンシロチョウが飛んでいた。ちょっと悔しかったけど外に放してあげた。

 鹿児島市 高橋誠(68) 2019/8/22 毎日新聞鹿児島版掲載


カントリー

2019-08-28 20:18:33 | はがき随筆

 ラジオからカントリーミュージックが流れてきた。私は懐かしさでいっぱいになった。

 学生時代、我が家にカントリーを持ち込んだのは亡き弟だった。バンジョーも共に連れてきた。その日からレコードと弟の弾くバンジョーが鳴り響いた。特に忘れられない曲は「コットンフィールズ」だ。上手に弾けるよう背を丸めながら何度も練習した。弟の熱心さに影響され私もいつしか口ずさんでいた。

 当時、チャカチャカなるバンジョーを騒がしくさえ思ったが、今聴くと何と哀愁をおびていることか。弟の姿を思い出しながら、しみじみと聴き入った。

 宮崎市 堀柾子(74) 2019/8/22 毎日新聞鹿児島版掲載


夏の高校野球

2019-08-28 20:04:37 | はがき随筆

 夏の高校野球の開会式は、猛暑の中、給水タイムなどの配慮も見られた。そんな甲子園球場での来賓の挨拶。どの方にとってもどうしても伝えたい言葉、省くことのできない内容だろうことは推察できる。だが、選手や大会に携わっている高校生の体調が気遣われる程の冗長さであってはならない。昭和の高校野球をけん引した牧野直隆さんのことが思い出された。

 開会式の挨拶や閉会式の講評など、簡潔で歯切れが良かった。肝心な内容は、厳正、公平で、格調高く、そして何より高校球児への愛があふれていた。清涼感さえ運んでくれた。

 熊本県菊陽町 有村貴代子(72) 2019/8/22 毎日新聞鹿児島版掲載


筋肉の貯筋

2019-08-28 19:51:32 | はがき随筆

 ラジオの深夜放送を聴いていると、その筋の先生が「加齢につれて動作が鈍り、立ち上がるのもつらくなる」と話されていた。確かにそうだと共感していると「今からでも足腰の筋肉を鍛えると、行動するのが苦になりません」と力説された。

 私は90歳を過ぎたけど、本当だろうか? 「椅子の後ろに立って背筋を伸ばし、背もたれに手を置き、前屈みになって椅子に掛けるような動作で太腿が水平になるように腰を曲げたら背筋を伸ばす。これを7階繰り返すように」と力説された。これで鈍い動作が改まるなら、時々励行してみよう。

 熊本市東区 竹本伸二(90) 2019/8/22 毎日新聞鹿児島版掲載


褒章と勲章

2019-08-28 19:41:35 | はがき随筆

 ある山の会の30年来の大先輩の友人が藍綬褒章を受章され、その祝賀会に出席した。その方面の功績は前から知っているつもりであったが、改めて偉大さを実感した。

 実は3年前に同じ会の先輩も勲章を受章されており、再度の名誉に我が会のボルテージはあがり、飲ん方は大いに盛り上がった。

 勲章は英語でメダルというそうである。中学、高校とスポーツはしていたが、メダルと縁がなく終わりそうだ。これからは妻や子供らに感謝のメダルを贈りたいと思う。もう。

 鹿児島市 下内幸一(70) 2019/8/21 毎日新聞鹿児島版掲載


はがき随筆7月度

2019-08-28 19:02:29 | はがき随筆

月間賞に逢坂さん(宮崎)

佳作は岡田さん(熊本)、下内さん(鹿児島)、梅田さん(宮崎)

 

 はがき随筆7月度の受賞者は次の皆さんです。(敬称略)

【月間賞】23日「若木よ育ってね」逢坂鶴子=宮崎県延岡市

【佳作】6日「魔法の言葉」岡田千代子=熊本県天草市

▽ 2日「敬老パス」下内幸一=鹿児島市

▽20日「来世の蚊」梅田絹子=日向市

 梅雨明けと同時に酷暑の日々です。このような厳しい状況の中、作品を寄せていただき感謝申し上げます。

 「若木よ育ってね」。92歳の逢坂さん。力強い文章です。森林組合からの案内状に、これも経験だと出かけた。この心意気に心打たれました。さらに、会場での描写が見事で、読む者も作者と共に壇上へ上がった気分です。この春、跡地に植林した苗木の成長を願う作者のひたむきな気持ちがひしひしと伝わってきて、いくつになっても生き生きと暮らしておられる姿に感動を覚えます。

 「魔法の言葉」。夫が放った一言にカチンときた作者。対人関係においては些細なことでも胸の内に湧き上がった怒りを納めるのは、たやすいことではありませんが、岡田さんご夫妻の心のたたみ方は素晴らしい。お互いのわだかまりを胸に落とし込み「ありがとう」と言ってことを終わらせるお二人。最後の5行が見事です。

 下内さんの「敬老パス」。市から敬老パスをもらった作者。ありがたいと思うが「敬老の立場でいるよりは、私は地域や市民のために役立つボランティア精神の奉仕人になりたいものだ」と。前向きで爽やかなお人柄を彷彿とさせる気持ちのいい文章でした。

 「来世の蚊」の作者、梅田さんの亡き夫は優しい人だった。誕生日の夜、寝ている梅田さんの元にまとわりつく蚊が一匹。「俺は来世は蚊だってよ」と言っていた生前の夫の言葉を思い出した。素敵な夏の夜の物語。

 熊本県の片岡順子さん、田中英恵さん、鹿児島県の若宮庸成さん、宮崎県の露木恵美子さんの作品も印象に残りました。

 厳しい夏です。くれぐれもご自愛ください。

みやざきエッセイスト・クラブ会員 戸田淳子

 

 


ゲリラ豪雨

2019-08-28 18:54:32 | はがき随筆

 店を出る時、雨が降り始めたので傘を借りた。急ぎ足の途中で雨はゲリラ豪雨に急変した。

 雨宿りできない軒のない通り。頭以外、下着までビショぬれで会場に着いた。上のシャツだけ脱ぎ、講演会の最前列に着席し、ぬれたまま聴講した。

 休憩に入り近くのコンビニで下着を買いトイレで着替えた。ぬれた下着はすでに体温で生乾き、荷物になるので重ねて着た。

 かってないズブぬれなのに、悔しいどころか、子ども自分の田舎での雨の風情を思い出し、懐かしさに浸ることができた。

 豪雨との葛藤であったが、不思議と腹立たしさはなかった。

 宮崎市 貞原信義(81) 2019/8/20 毎日新聞鹿児島版掲載


記憶力

2019-08-28 18:41:57 | はがき随筆

 「おまえの記憶力、すごいなぁ」と友人知人から言われ続けてきた。今でも時々言われる。

 若い頃、友人が競馬で20万円大当たりしてご馳走になった。30年後、その話で1着2着の馬名を告げると友人は驚いていた。小学校の修学旅行で迷子になり先生から叱られた言葉も覚えている。挙げればきりがない。

 残念なことな受験に必要な知識はすぐに忘れてしまう。友人から「お前の記憶力だったら国立の一流大学に合格できたのに」と冷やかされたがそうはいかないのが人生。

 ただ、両親から可愛がられた記憶が今の自分を支えている。

 熊本県嘉島町 宮本登(68) 2019/8/19 毎日新聞鹿児島版掲載