はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

故障車の修理

2019-08-08 15:34:11 | はがき随筆

 午後6時半、夫は夕食後、制服に。梅雨は明けたが、蒸し暑く、体が火照る。今日も、自習監督に行くから「自分との戦い」と励まし、準備を手伝う。

 先日大雨と雷鳴の中、家族で外出中、車が故障になり困った。タクシーで帰宅し、修理工場に依頼。代車交換で、約10日間部品注文など手間取り、ご苦労の末、自宅に届き、新車同然になった。係の努力が心底伝わり、請求額より割り増しで払って、粗品を添え「60代働き盛り。今からですね」と声かけあいさつ。廃棄部品を玄関に置き疲労顔から笑顔に。その車で、安堵して職場へ出発した。

 鹿児島県 肝付町 鳥取部京子(79) 2019/8/8 毎日新聞鹿児島版掲載


S病院で 

2019-08-08 15:24:52 | はがき随筆

 どしゃぶりの雨の夕方、S病院に駆け込んだ。「先生、一日中頭がボーッとして圧迫感があり気分が悪い……」と訴える私にその医師は「舌を出してごらん」そして横向きにされ、やおら肩に手をやりもみながら、「首、肩の凝りだね。運動をしなさい。ストレッチでもいい。マッサージを受けなさい。お風呂も一日置きに入りなさいね。薬はありません。ハイ、終わりです」。ポンポンと歯切れのよい言葉の十数分で診察が済んだ。

 私は何を期待していたのだろうか。ともあれ異常なしで一件落着。雨もやみ、安心と反省を乗せて帰途についた。

 宮崎市 西代節子(79) 2019/8/8 毎日新聞鹿児島版掲載


お盆のテスト

2019-08-08 15:16:17 | はがき随筆

 お盆の月が来ました。私一人のお盆のテストが始まります。それは盆提灯の組み立てです。今までさらりと出来ていたのに。今はアレ、コレドコの連発です。説明書を虫眼鏡で確かめ一つ一つ丁寧に作り始めました。

 何年か前、私が選んだ本場岐阜の三足回転灯です。スイッチを入れると七色の光がゆっくりと回り出し、提灯に描かれたキキョウ、オミナエシが浮き彫りのように動き回ります。心が吸い込まれるようで、癒される瞬間です。今年もお盆テストは合格。ご先祖様お迎え火がつきました。感謝の一言です。

 熊本県八代市 相場和子(92) 2019/8/8 毎日新聞鹿児島版掲載


頑張れ!

2019-08-08 14:20:28 | はがき随筆

 大相撲名古屋場所は、4大関の休場という、異例の場所となった。その中で、ファンを喜ばせているのが小兵力士の活躍。炎鵬関の、さっと相手の下に潜り込み勝つ技にはアッと驚く。

 最近は耳や目を覆いたくなるほど暗いニュースが多い。そんな中にあって、爽やかな風が一瞬吹きぬけて行った気がする。

 郷土出身の琴恵光関も巨漢の多い関取の中では、決して大きくはない。が、入幕2年目にして前頭十枚目は立派。先日の取り組み前には「相撲巧者」と紹介されていた。一時、相撲熱の冷めていた私。が、彼の取り組みは、拳を握って応援している。

 宮崎市 川上久子(70) 2019/8/8 毎日新聞鹿児島版掲載


私の母

2019-08-08 14:11:55 | はがき随筆

 「バキッ、パキッ」とハサミの音がハウスの中に響く。アスパラガスの最盛期を迎えた叔父の畑だ。日中を避け早朝と夕方に作業をする。母は一手に引き受け、黙々と収穫している。

 若くして結婚、離婚を経験した母は私と妹を育てるために仕事漬けの日々。私も妹も母は家にいないか、寝ている人だと思っていた。

 そんな母が50歳の誕生日を迎えた。再婚後生まれた弟と妹を連れ、お寿司を食べに行った。母が笑顔で食事をしている姿が新鮮だった。「ありがとう。ごちそうさまでした」。母の顔がすっかり和らいでいた。

 熊本市中央区 大和由夏(28) 2019/8/8 毎日新聞鹿児島版掲載


とんぼ

2019-08-08 14:04:39 | はがき随筆

 子供の頃、友達と水田の中でオニヤンマを追い掛けた。彼は小学校の同級生、5月に大手レコード会社からCDデビューをした。その中の「夢とんぼ」を聴くと、当時の母校が懐かしくよみがえってくる。

 私は親戚から極楽とんぼと呼ばれる。好きなことを気兼ねなくやっているからだろうか。浮世離れしているとも言われる。50代で始めたマジックと川柳は生活の一部となり、新たな出会いと感動を楽しんでいる。

 80歳を過ぎてプロ歌手になった彼が夢とんぼを歌えば、私は極楽とんぼとなって、気ままに飛び回る。

 鹿児島市 田中健一郎(81) 2019/8/8 毎日新聞鹿児島版掲載


いつまで

2019-08-08 13:56:51 | はがき随筆

 小2の孫よりLINEが来て3カ月。名古屋が近くなった。

 折にふれ私にきいてくる。好きだったおやつや野菜、どんな遊びをしたか、図書室の本や習い事等々。最近は「わたしね、水泳あるんだ。泳げないから嫌だなあ。おばあちゃん小学生のとき、何泳ぎが得意だったの」と。実は泳げない私。日置市の山あいの学校にプールはなく、夏休みに近くの川をせき止め水遊びをした。夫も「川で泳いだ」と懐かしそう。

 さっそくタブレットに向かう。やりとりはいつまで続くかわからないが、精いっぱい楽しもう!

 鹿児島県いちき串木野市 奥吉志代子(71) 2019/8/8 毎日新聞鹿児島版掲載


真剣な二人

2019-08-08 13:48:42 | はがき随筆

 ちょっと弱ってきた母の見舞いに小3のひ孫がこの頃始めた手品を見せてやろうと思った。

 今回の母は、ひ孫をすぐに思い出せないようだった。いつもの曽祖母の雰囲気とは違ったなかでひ孫は手品をはじめ、一つ終わるごとに「どう?」と聞く。

 しかし、母はひ孫の手品は見らずに、真剣な顔だけを食い入るように見詰め続けている。真剣に手品をしてくれるこの子は誰なのか思い出さそうとしているような真剣な母の目である。

 「ひいばあば、手品が面白かったかなあ」と聞く孫を「上手だったよ、最高のプレゼントだったよ」と抱きしめてやった。

  宮崎市 杉田茂延(67) 2019/8/7 毎日新聞鹿児島版掲載