はがき随筆・鹿児島

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「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

下宿の頃

2018-06-10 19:26:28 | 岩国エッセイサロンより
2018年6月10日 (日)
   岩国市   会 員   横山恵子

 元警察官のSさんは昔、わが家に下宿されていた。家屋も建て替え、何年もたつのだが、いつまでも覚えていて奥さんと一緒に訪ねてくださった。父が亡くなって以来、6年ぶりの再会である。
 昔は警察の官舎や高校の寄宿舎がまだ整っていなかった。空室があれば貸してほしいとの要請が民家にあった。わが家でも2部屋を都合6人(警察官3人、高校生3人)にお貸しした。
 面倒見が良いとよく言われた母である。幼い私たちきょうだい3人の育児がある中、自分の役目として、お世話させてもらったように思う。
 私は独身だったSさんに鬼ごっこなどして遊んでもらった記憶がある。1年もたたず転勤が決まった時、4歳くらいだった弟は「行くな」と大泣きした。
 その後も何回かわが家に泊まりに来られた。私たち一家もSさんの実家にお邪魔してタコ釣りをしたり、勤務地が山口の時は秋芳洞を案内してもらった。
 十数年前、Sさんが岩国で防犯について講演された。「岩国は第二の古里。私には岩国のお母さんと呼ぶ人がいます・・・」。そう切り出されたと、母は笑顔で話したものだ。
 Sさんは心臓病があり、奥さんは3年半前に乳がんの手術をされた。今年78歳になられると聞き、あれからもう60年近く過ぎたと考えずにはおれなかった。
 昨年暮れに亡くなった母の墓の墓前に手を合わせた後、在りし日の母について語り合った。

     (2018.06.10 中国新聞セレクト「ひといき」掲載)