はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆12月度

2017-01-24 17:35:14 | 受賞作品
 はがき随筆の昨年12月度月間賞は次の皆さんでした。

 【優秀賞】14日「私でおしまい」種子田真理=鹿児島市常盤
 【佳作】20日「下宿再訪」山下秀雄=出水市西出水町
 ▽22日「グリム童話」田中健一郎=鹿児島市東谷山


 「私でおしまい」は、むずかしい問題を提起されました。先行きの見えない時代に子孫を残すことについては、私もよく考えます。一方では、確かドイツの作家ゲオルグだったと思いますが、「明日世界が滅びるとしても、リンゴの木を植える」という言葉についても考えます。人生は選択ですから、自分の選んだ生き方を全うするしかないようです。
 「下宿再訪」は、熊本地震の後、高校時代にお世話になった下宿を訪ねてみたが、そこの主婦は数年前に亡くなっていた。仏壇も壊れていたのでお参りできず、お元気なときの新聞掲載の写真を見せてもらった。その笑顔の写真に涙してしまったという内容です。災害とは直接関係はないとしても、こういう再会は悲しいですね。
 「グリム童話」は、半世紀以上も前の経験ですが、夏休みに担任の先生の宿直の夜に泊まりがけで遊びに行くと、グリムの怖い話を聞かせてもらった。今は先生もその時の2人の友も鬼籍に入ってしまったが、古き良き時代が懐かしいという内容です。読んで、単なる懐旧談としては受けとれず、現在の教育界を相対化しているとも感じました。
 この他、3編を紹介します。
  奥吉志代子さんの「ありがとう」は、転校生の自分を遊びに誘ってくれた級友も校庭も懐かしいが、その小学校も閉校になってしまい、校舎だけが昔のたたずまいで残っているという内容です。日本の社会が、じんわりと消滅していっているような印象をもたせる文章です。
 野崎正昭さんの「努力にメダルを」は、リオ五輪のとき、優勝しても勝ちを奢らない大野将平選手とボルト選手に感動したという内容です。スポーツがショー化している現在、確かに敗者の努力への敬意は大切ですね。
 萩原裕子さんの「サンタクロース」は、同じマンションの住人が、「はがき随筆」用の手作り原稿用紙を、郵便受けに入れておいてくれたことへの感謝の文章です。「はがき随筆」共同体(?)のようなものができるといいですね。
  鹿児島大学名誉教授 石田 忠彦