2014年度 はがき随筆 年間賞に森園さん
妻への限りない愛記す
2014年度の「はがき随筆」年間賞に、鹿屋市寿、森園愛吉さんの「愛妻」(8月9日掲載)がえらばれた。作品に込められた夫婦愛などを聞いた。北九州市で5月30日に開催される第14回毎日はがき随筆大賞の選考作品として鹿児島版から「愛妻」が水仙される。また、今月12日午後1時から鹿児島市中央町の市勤労者交流センターで、年間賞の表彰式と毎日ペンクラブ鹿児島の総会を開く。【新開良一】
61歳の時に病に倒れた妻ナミさん(88)への愛情といたわりがあふれる作品。「一命をとりとめて帰ってきてから、手にまひが残る家内に変わって、私が料理、洗濯、入浴介助など家事全般を16年間やりました」。淡々とした口調に自然体の夫婦愛がにじむ。
はがき随筆への投稿は月1,2回。テーマは多岐にわたるが、妻への思いをつづったものが多い。「感謝、感謝です。だって、2人で苦労して今の家庭を築き上げてきたんです。うちの立役者はやっぱり家内です」
夫婦二人三脚の生活が長く続いたが、ナミさんは今、高齢者施設で暮らす。施設に任せなければならないことへの申し訳なさ、不憫に思う気持ちを「その果てを知らない」と表現した。読む人に深い余韻を残す一言だ。
年間賞受賞を「一生の宝」と喜ぶ。「少し耳が遠くなりました」と嘆くが、語り口はかくしゃくとして、歯切れもよい。顔色、表情も現在94歳とは思えない艶と張りがある。
短歌集や歴史研究など著書も多い。周囲は「好奇心、向学心は人一倍」と評す。「まだいろいろな事を書きたいんです」。はがき随筆への情熱も、衰えることを知らない。
漢語多用し文体に効果
評
年間賞には、森園愛吉さんの「愛妻」を選びました。
61歳で倒れた奥さまの、26年間にわたる看病の経過への感慨が内容になっています。16年間自宅での看病、それから10年施設での介護、一口に26年間といいますが、その間の日々の営みに、想像を絶するものがあったことは容易に理解できます。
しかし、これほどの悲惨な内容を綴った文章ですが、その印象は、誤解を恐れずに言えば、男っぽいもので、さっぱりしています。それは、「心通う潤いもない砂漠に呻吟起居する妻の病状」というように、漢語を多用した文体の効果にあります。これは奥さまへの哀惜の感情が、「限りない不憫の情」と表現されているところにも表れています。そしてなによりも「その果てを知らない」と言い切って、文章を終わらせたところの効果は抜群です。
それも人生と言ってしまえばそれまでですが、人生について多くのことを考えさせるものをもった内容です。
ほかに、高橋宏明さんの「母の耳」、年神貞子さんの「ヤモリ」、内山陽子さんの「何を思うや」が、その内容の珍しさと優れた文章で目を引きました。
(鹿児島大学名誉教授 石田忠彦)