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はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆10月度

2012-11-10 15:17:07 | 受賞作品
 はがき随筆10月度の入賞者は次の皆さんです。

【月間賞】10日「更地とチョウ」小村忍(69)=出水市
【佳 作】7日「運動会」清水恒(64)=伊佐市
     28日「たまには」永瀬悦子(62)=肝付町

 更地とチョウ 亡き家族の遺品の整理でさえ、なかなか簡単にはいかないものです。それがたくさんの家族の思い出の詰まった、旧居の解体となると、いわば一家の歴史がなくなるようで、寂しさも格別のものでしょう。「断捨離」とかが話題ですが、それも一つの生き方には違いありません。更地に飛ぶチョウに亡父母のイメージを重ねたため、素晴らしい文章になりました。
 運動会 義理の祖母が運動会好きで、どこかで運動会があると弁当持参で出かけていたらしい。単に好きなだけかと思っていたら、ある時、走るのが速かった2人の息子を早く亡くしていた事情を知り、運動会はその子供たちの帰ってくる日かと思い知らされた、という内容です。日常に人生の深奥を感じ取る、深みのある文章です。
 たまには 散歩に出かけただけの文章ですが、精細な色彩感覚と的確な観察力が、美しい文章に仕上げています。とくに「ピンクの雨傘としゃれる」という表現が光っています。毎日の生活の中で、爽快な気分へと転換できる、ささやかな決断と行動をもつことも、やはり生活の知恵でしょう。
 この他に 3編を紹介します。有村好一さんの「村祭り」は、中学時代は、遅れた友達のために、小枝や小石で道しるべを作って村祭りへ誘導したりするなど、知恵と工夫を出し合って過ごしていた。物はなくても、時間はたっぷりあった時代への懐旧の念が、生き生きと描かれています。
 若宮庸成さんの「秋魚の味」は、サンマは昔は七輪で今はロースターで焼くが、はらわたの美味と熱かんはまさしく大人の味である。それにつけても「被災地の秋を思う」という結びは、3.11以来の日本人の心情に見事に触れた文章です。
 田中健一郎さんの「中秋の名月」は、台風接近でつい忘れそうだった中秋の名月を、老母と見ることができ、母はその喜びの表現として名月にとを合わせていた。長寿を自然に感謝するのも日本人の心情で、快い文章です。
  (鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)

最高、最高

2012-11-10 14:58:58 | はがき随筆
 県公立学校講師として小学5年生を教え、市学習支援ボランティアとして小学2年生の授業の補助をしている。勤める日の朝は気分上昇である。子供たちは、じいちゃん先生を快く受け入れてくれる。まあ、最高というところか。68歳の時、通信教育で小学校の教諭免許を取得。これが人生を運良く開かせてくれるとは予想もしなかった。通信教育のスクーリングで知り合った学友たちと再会し、京都・琵琶湖に旅したことも。20代、30代の学友は、「昭ちゃん、昭ちゃん」と親しく呼んでくれる。学友も教諭免許も、私へのプレゼント。最高、最高!
  出水市 岩田昭治 2012/11/8 毎日新聞鹿児島版掲載

星に願いを

2012-11-10 14:50:09 | はがき随筆
 玄関を出た妻が「ワーッ」と感嘆の声を上げる。やせ細った月が星の光を引き立てている。
 朝5時が散歩に出る時刻で、まだ闇の中。秋が深まるにつれ空気が澄み、星の光は増す。「降ってくるから気をつけなさいよ」とは言ったが、富士山麓で昔見た星空は、まるで豆電球をちりばめたような鮮明な輝きであった。
 標高が関係していると思うが、その瞬きは脳裏に焼き付いている。あの美しい星空を妻にも見せてやりたいと思う。禍のない一日、二人の健康、いつの日か観星の旅ができますようにと心につぶやきつつ歩き出す。
  志布志市 若宮庸成 2012/11/7 毎日新聞鹿児島版掲載

2012-11-10 14:41:30 | はがき随筆
 君はもう10月だというのに、いまだに、私の寝るのを待って、ブーンと飛んできて、私を起こしてしまう。
 君は今年は早くも4月に現れて、私を寝不足にしてくれましたね。
 家の外は寒いけれど、中は暖かかったせいかもしれない。ブーンと聞こえると、目が覚めてしまい、音のする方に向かって、手をたたいてしまう。
 そういえば、次の日の朝、お腹を赤くふくらませ、壁にくっつけて動けなくなったこともあったね。そこまで、血をすわなくてもよいのに。無理をしないことだよ。
  伊佐市 弥栄三郎 2012/11/9 毎日新聞鹿児島版掲載

野球漫画

2012-11-10 14:30:40 | はがき随筆
 小学生のある時期、私と弟は野球漫画を書くことに熱中したことがあった。読者は一緒に登校する3.4人。
 私の漫画はチームを結成する過程とか、ユニホームを作る資金繰りとか、物語の展開がのろく、本題の野球の試合にいつまでも入れなかった。
 弟の漫画はいきなり野球の試合で始まり、主人公は投げて打っての活躍を見せた。
 主人公が主人公らしい働きをする弟の漫画は、続きを催促された。野球漫画でありながら、私の漫画の主人公は、ユニホームの袖を通すことなく、物語中途で姿を消した。
  伊佐市 清水恒 2012/11/6 毎日新聞鹿児島版掲載

島の秋

2012-11-10 14:15:50 | はがき随筆






 玄関先の鉢に、グレープフルーツがクロアゲハ用に植えてある。1匹飛んできて、卵を産み付けて飛んでいった。毎年ここで何匹か羽化し、飛び立っていっているが、この日に来たのもそのうちの1匹であろう。
 ヒトツバの木で鳴いていた1匹のクマゼミが、ジジッとひと声鳴いて飛び去った。少したってから、ツクツクボウシが後を引き受けて鳴きだした。赤いケイトウにはシジミチョウが傷ついた羽を休めている。
 コンロンカのかれなん花も咲いている。小さな庭の島の秋……。今日はビバルディの「四季」を聴きましょうか。
  西之表市 武田静瞭 2012/11/5 毎日新聞鹿児島版掲載

訳ありパート

2012-11-10 14:04:31 | はがき随筆
 妻はパートでコツコツとお金をためる。その訳は応援がとぎれていた歌手、舟木一夫公演の軍資金づくり。更には、すっかりとりこになった韓国ドラマの現地観光をもくろみ実現した。
 妻のパート応募は常に訳ありの様子。妻は以前にもましてパートに精を出す。その熱心さを聞くと、妻は、働いたお金は「3人の息子を無事育てあげた自分への褒美」に使い、「孫の送金、そして心をいやしてくれる老犬クロの治療費」を捻出するためと告白。
 妻がパートで頑張り過ぎ、疲労が蓄積して倒れるのではと、あるじは心を砕く日々である。
  鹿児島市 鵜家育男 2012/11/4 毎日新聞鹿児島版掲載

闘病記その8

2012-11-10 13:58:48 | はがき随筆
 がんで闘病中の夫の病状が快方に向かう。医師から一時帰宅の許可が出た。入院してから半年。夫はうれしいだろう。「おめでとう」の拍手を贈った。夫は「感謝、感謝」と目を潤ませた。それから、歩行困難の夫は帰宅に向け、日々のトレーニングに励んだ。そして、つえなしで歩けるようになった。喜びもひとしお。暗く長いトンネルをさまよい続け、ようやく心に光が差し込んだようだ。心待ちしていた一時帰宅は約2時間。住み慣れた家にゆったとした空間。良い環境が病状を快方に向かわせるのだろう。夢の世界が広がった。感慨無量。
  姶良市 堀美代子 2012/11/2 毎日新聞鹿児島版掲載