その筋のベテラン女性から聞いた話二題。
① 「純情なんだか朴念仁なんだか、とんだ分からず屋でさァ」
銀座裏のバアのマダムの話だ。
「この頃箱根に行っていないのよねぇ、行って見たいわァ~」
40代の男性客に言ったそうだ。
もちろん、そう言われれば、40代紳士に否も応もない。
週末にその幸運紳士のマイカーで二人は箱根へ。
「そいつ、強羅温泉あたりで、あたしに『お風呂に入る?』って訊きやがんの。
あたし、当然、『入るわ』って言ったのよ」
迷惑なのろけ話なのだが、義理半分、興味半分で聞いていた。
「そいつ、なんて言ったと思う?『オレ、車で待っているから……』だってさ。
恥を掻かすなってんだよね。あんた、どう思う?」
なるほど、マダムが怒るのは無理もない。
ライバルが一人消えたので、私としては、内心ホッとした話だった。
② 次は、小さな料亭の女将の話だ。
「月に一度か二度は来てくれるお客さんだったのよねぇ。
その人にウチの女の子が惚れちゃって」
こんな話を聞かされるのは好きではないが、拝聴することにした。
「お客さんが帰るとき、その子をその子のマンションまで送って貰ったの。
男だったら何か気付くはずよねぇ」
ところが、そのお客はまったく気付かなかった。
幾夜も幾夜も、女の子をマンションの前で降ろして、さーっと帰って行ったとか。
「可哀想に、その子、ウチを辞めちゃったわ。絶望したのかしらねぇ」
この二つの話、平均的(?)男性の私としては、勿体ないなァと思わぬでもない。
しかし、そのような折りの女性の気持ちなんぞ、なかなか分かりにくい。
私だったらどうするだろうか。
おそらくこの男たちと同じような行動をとったに違いない。
本当のところ、男は女の気持ちが分からない。
いや、単に男は臆病なのです。