毎日のできごとの反省

 毎日、見たこと、聞いたこと、考えたこと、好きなことを書きます。
歴史、政治、プラモ、イラストなどです。

共産主義国家という語義矛盾2

2019-06-29 17:44:47 | 共産主義

 前回の「共産主義国家という語義矛盾」では、マルクス・エンゲルスの発明した共産主義は、アナーキズムであると言った。これを敷衍して見よう。共産主義体制を「ソ連」で実現したのはレーニンである。だから共産主義を今では、マルクス・レーニン主義ということが多い。ところが、マルクス・レーニン主義は、共産主義国家建設と言う必要性から、マルクス・エンゲルスの発明した共産主義から決定的変貌を遂げた。

 マルクス・エンゲルスの発明した共産主義とは、あくまでも労働者が支配する世界で、全世界で実現したあかつきには、国家というもののない世界であったはずである。国家の指導者が即労働者であるはずがないからである。共産主義をアナーキズムという所以である。つまり国境のない世界を目指したのである。そこでレーニンらが発明したコミンテルン、という組織である。コミンテルンを世界各国に組織し、共産主義革命を起こし、順次ソ連邦に加盟させ世界を共産主義社会にしよう、というわけである。理想主義は狂気と紙一重である。レーニンは本気であったのかも知れない。理想主義は現実には実現しない。レーニンとスターリンの狂気は、粛清と国民の大量殺戮という点では変わりない。

 結局コミンテルン工作は理論倒れに終わった。反共の国も根強く、第一次大戦で敗北したドイツですら、共産主義革命は起らなかったのである。この現実を目前にしたレーニンたちは、一国社会主義、という理論を発明した。世界中が共産主義社会にならないのなら、ソ連だけでも社会主義を実現しよう、という「現実主義」を取ったのである。そして逐次ソ連邦に編入して、社会主義を拡大していこう、というわけである。

 ただし、共産主義への理想は全くのまがい物になったわけではない。ソ連ではマルクスの「宗教は民衆のアヘンである」という教えに従って、宗教を弾圧した。ロシアでは強固なロシア正教があり、ソ連に組み入れられた共和国にはムスリムも多かったにもかかわらず、である。しかし、一国社会主義という概念はレーニンやスターリンに結局は悪用された。

抑々「ソビエト社会主義連邦共和国」という名称が世界史的には奇妙なものである。ソビエトとはロシア語で「評議会」という意味だからである。多くの国家の名称は、地域名や民族名、あるいは清朝のように理念を現す言葉を淵源としている。それを普通名詞である、ソビエトという名前を冠したのである。このことがソ連邦の発端が、アナーキズムであることの傍証である。

しかし、そのことは現実には、周辺諸国を侵略するという帝国主義としかいいようのない膨張政策を合理化していったのである。今は独立したバルト三国は、全く同時期にソ連邦への「編入」を申請して了承された、という形をとって侵略されてしまったのである。その昔の旧ソ連時代の頃に、バルト三国を百科事典で調べたところ、三国が幾日も間をあけずに、次々とソ連邦に参加を申し入れたと、何のコメントもなく書いているのに唖然とした。その百科事典には日本の「中国侵略」に対する悪罵で満ちているにもかかわらず、「ソ連によるバルト三国侵略」とは絶対に書かないから、ひどく矛盾に思ったのである。

このようにソ連邦と言う名称は、アナーキズムとしての共産主義を象徴しているにもかかわらず、現実にはソ連の帝国主義的覇権主義を合理化するものとなっていたのである。中共の場合はさらに狡猾である。はなから世界の共産主義世界の実現などは考えていない。単に清朝領土の継承と、さらなる領土領海の拡大を目指しているだけである。それが、前項で述べたように国家資本主義であろうと、国家社会主義であろうと、方便として有効なら何でもよいのである。毛沢東から鄧小平への経済政策の大転換は、今から思えば不思議ではない。経済政策などは方便に過ぎないからである。

ソ連が内にロシア正教やムスリムを抱えているのに対して、中共の特異性は、支配民族たる漢族は、これらに比べれば無宗教に近いのである。儒教、道教といったものは、ロシア正教やイスラム教に比べれば宗教的色彩は薄い。しかし、今後注目すべきはチベットやウイグルと言った、明確な宗教を持った民族を植民地化していることである。また漢族内部にも回民と呼ばれるイスラム教徒を抱えている。これらの異教徒はいつの日にか中共を支配する漢族を脅かす。中共が法輪功を弾圧するのは、その恐怖に慄いているのである。現在のロシア共和国ですら、共産主義を脱したことになってはいるが、イスラム勢力は看過できない。

付言するが、ロシア革命はマルクス・エンゲルスの思想からばかり生まれたのではなく、フランス革命の狂気を直接の契機としたという説(渡辺京二氏など)は根強い。いずれにしても、現実の闘争にマルクス・エンゲルスの思想は利用し尽くされたのである。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿