共産主義の崩壊は実に奇妙な事件だった。なぜなら共産主義という、世にも稀な体制が崩壊したのにもかかわらず、多くの独立国ができる以外に何も混乱が起きなかったのからである。ソ連と言う共産主義体制では私有財産は禁止されていた。従って土地や建物などの資産は全て国有であった。個人資産というのはないはずなのであった。
それが廃止されて全て個人が持つことになれば、国有財産の分配をめぐって、奪い合いが起きて、大混乱が起きるとは誰も想像するはずである。ところが私有への移行にあたって何の混乱も起きなかった。国営工場でさえ、すんなりと民営化した。これは単細胞のな私の頭には不思議なのだが、誰一人としてそのことに疑問を呈する人は専門家ですらいなかった。
その理由は案外簡単なのである。つまり建前の国有などというものはとうに崩壊していて、実際には全ての土地などの資産は私有化されていたのである。これは当たり前の事なのかも知れない。例えばある農家が土地を耕している。隣の農家も土地を耕している。
すると必然的にお互いの農地に境界ができる。するとこの農家が耕している土地は、国有と言う建前とは逆にその農家の占有するものとなる。つまり他人が勝手に耕すことが出来ない事実上の私有地になる。つまり全資産の国有などと言うものはありえないフィクションだったのである。
それでもスターリンや毛沢東の時代には、農民を強制的に集めて集団で共同農業をさせた。これがコルフォーズや人民公社である。しかしこれも無理があって短期間のうちに自然崩壊した。しかしこれらの集団農場の時代を日本の共産主義者は愚かにも礼賛したのである。社会科の教科書ではソ連のコルフォーズで大規模農業を行う写真が掲載されたものである。
しかもソ連や中共の集団農場華やかなりし頃ですら、全体の農地に占める集団農場の比率はわずかであったと推定される。つまり共産化などというものは当初からインチキだったのに違いない。
だがインチキ共産主義にも支配者にはメリットがある。つまり農地も全部国有なのだから、そこからとれた農産物は全て国有だと主張できる。スターリンは軍事力を高めるために、重工業に大規模投資した。その資金を得るために農産物を農民から取り上げて輸出した。
農民は自分の農産物があるのに奪われて大量に餓死した。いわゆる「飢餓輸出」である。そして工場を建てる家やダム、道路を建設する土地が必要なら国民からただで無条件に強制的に取り上げることができる。何せ土地は全て国家のものだからである。これは中共では今でも行われている。
共産主義とは単なる計画経済ではない。国家が国民の権利を蹂躙するのに都合が良い体制に過ぎない。つまりソ連における共産主義の崩壊とは、国家が理不尽に国民を蹂躙する体制の崩壊であった。国民に歓迎される体制に移行するのに混乱が起こるはずはない。
世界の先進国で共産党が存在するのは、日本とフランスだけである。(中共などは、あれだけの経済力を有しながら、都合のいい時は発展途上国だと言い張る)日本の共産党員は理論に忠実だから私有財産の害悪を信じているのであろう。そうでなければ、マルクスの言う共産主義者ではないからである。現在の共産主義者は共産ソビエトが何の国有地争奪争いが起きなかったのをどう考えているのであろうか。