頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『その峰の彼方』笹本稜平

2014-02-13 | books
大学の山岳部で出会った津田悟と吉沢國人。その後、難しい山を制覇することができた。津田はアラスカに住んでマッキンリーでガイドをしながら、ヒマラヤを攻めるという人生を選び、吉沢は大学で研究をするという人生を選んだ。津田がマッキンリーで遭難したという知らせがあり、吉沢は現地に駆け付ける。救助は成功するのか、というただそれだけの小説。

山岳や登山の薀蓄が多く、興味がない人にとってはさっぱり面白くないだろう。しかし私は中学生のときから新田次郎を読んできた筋金入りの「なんちゃってクライマー」である。もしくは、「登らないで読むクライマー」である。すごくまっすぐな山岳小説、楽しませてもらった。何年か前に行ったアラスカの景色と空気感。そして遠くに見えたマッキンリーを思い出した。アラスカは、もう一度訪れたい。

「サトルは人を愛するいちばんいいやり方を知っているって」
「人を愛するいちばんいいやり方?」
「それは人から愛されようと思わないことだって。人から愛されたがっている人間は、いつも誰かと取り引きしていて、与えた愛を上回る対価を相手に要求する。世のなかの人間のほとんどがそうで、だから誰もが妬み、憎み、いがみ合う。でもサトルのような人は誰からも対価を求めない。ただ自由に生きているだけで、心の泉からわき出る愛が周りの人の心を潤すんだって」

何やら耳が痛い。私は、たぶん、表面的に(自意識の上の方で)人から愛されようなんて全く思っていない(と思っている。)しかし意識の根底では、人から愛されたいと願い、ゆえに、ひとに対価を求め、そして誰の心も潤さない。なんてくだらない人間なんだろうか。そこの君はどうだい?

今日の一曲

山の山頂。Meet Me On The Top Of The Worldという歌詞が印象的だった、Wang Chung(ワン・チャン)のLet's Goという曲を思い出した。80年代にヒットしたのに、あっという間に消えてしまった。



このブログをお読みの方で、知ってる、とか好きだったと思う人はゼロではないかと想像する。

では、また。

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2 コメント

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Unknown (midori)
2014-02-14 10:37:06
『その峰の彼方』、山・救助・友情、なんて素敵な! 数年前、知人の影響で山にちょっとはまった時期がありました。地元の山ですが休日はよく登りに行きました。一番高くても1,893mでしたが、それでも達成感もあって嬉しかったです。ヘトヘトでしたけど。足下が狭くしかも鎖づたいに歩き‥落ちたら‥ というようなちょっと怖い山もありました。それでもいつかもっと高い山になんて無謀にも思っていたり‥、全く登らなくなった今、思い出すとゾッとします。生きてて良かったです(笑)

沢木耕太郎さんの『凍』等ノンフィクションは何冊か読んだのですが、新田次郎さんや夢枕獏さんの『神々の山巓』等はとても興味がありながらも残念ながら未読です。この機会に読んでみたいなと思います!

アラスカ‥ 星野道夫さんの『旅をする木』今も大切にしてます。

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こんにちは (ふる)
2014-02-15 14:42:56
>midoriさん、

山の小説ですと、トレヴェニアンの「アイガーサンクション」やボブ・ラングレーの「北壁の死闘」は見事な物語でした。
ノンフィクションだと、おっしゃる通り「凍」はとても印象的でしたね。変化球ですが「サバイバル登山家」もなかなか面白かったです。
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