頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『私たちが好きだったこと』宮本輝

2012-04-10 | books

「私たちが好きだったこと」宮本輝 新潮社 1995年(新潮文庫 1998年)

私は照明器具のデザイナー、31歳。76倍の関門を潜り抜けて公団マンションが当たった。新宿にも青山にも近い。しかし同居家族がいないといけない。カメラマンをする友人と一緒に住むことにしていたら、たまたま会った二人の27歳の女性とも一緒に住むことになった。1980年から1982年の間、駆け抜けていった4人の時間。青春と言うには遅い頃に訪れた青春の日々。愛あり、借金あり。恋の行方は、4人の人生は…

うーむ。これはいい。ストーリーはいいし、人物造形もいい。先が読めないし、考えさせられることも多い。野沢尚脚色で映画されているそうだが観ていない。多分観ないだろう。原作があまりにもいいと映像化されたものを観る気になかなかなれない。

しかし、どこがどういいのか具体的に説明するのが難しい。渋い秀作であることには間違いないが。以下に気になった箇所を引用させていただく。(携帯から見るとどうなるか不明だが、PCから見ると、引用部分はそこだけ目立つようにしている)

「俺は、新聞も週刊誌も、テレビの報道も信じないんだ。たとえば、有名人の誰かの行いがやり玉にあげられる。書いてるやつは、自分は生まれてこのかた立小便もしたことがないみたいなふりをしてる。個人のプライバシーに唾を吐いて、言いたい放題、書きたい放題。それを読むやつも、なるほどそうなのかって、いとも簡単に信じ込む。どいつもこいつも、口舌の徒になる。俺はそんな風になりたくないんだ。逢ったこともなければ、話をしたこともない人を、賞めたり、けなしたりするのは犯罪だよ。(文庫版164頁より引用)

「女ってのは、何もかもを他人のせいにするんだ。自分の不幸は、みんな誰かのせいだと思ってる。(192頁より引用)

好きな女に甘えられるのは楽しいが、その甘えを常に受け容れることを義務化されてしまったような気がしていたのである(209頁)

「私たちは、気配に敏感であることによって、社会に邪魔者扱いされる時代に生きているんだわ。気配に敏感な人は、この社会の鈍感さに耐えられなくなって、自分だけの世界に閉じ籠る以外に自分を守れなくなるの」(328頁)


結局小説なんて、他人が書いた物語じゃなくて、他人がずっと腹に温めていた哲学を読むことのようだ、と宮本輝作品を読むといつも思う。

では、また。



私たちが好きだったこと (新潮文庫)
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花見

2012-04-09 | travel

東京文京区を花見散歩





茗荷谷駅近くの播磨坂





小石川植物園の池。こんなにたくさんのおたまじゃくしを見たのは初めてかも知れない。





ラストは六義園の夜桜ライトアップ。巨大な枝垂桜。みごとみごと。

昨日は花見できましたか?

では、また。
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『ピアニストという蛮族がいる』中村紘子

2012-04-07 | books


「ピアニストという蛮族がいる」中村紘子 中公文庫 2009年(1995年文芸春秋文庫本 1992年単行本 初出文藝春秋1990年1月から連載)

ピアニストの著者が、ホロヴィッツ(ゲイ、巨匠トスカニーニの娘と結婚した)のやや下世話な話から、ラフマニノフ、バッハというよく知られた人の話、さらには日本最初のピアニスト幸田延(こうだのぶ)、明治から大正期に日本を代表するピアニスト久野久(ひさのひさ)の苦労と栄光と挫折の話。縦横無尽に時間を超えてゆく…

いつだったか、朝日新聞の、音楽だかピアノに関する本でおススメとして名前が挙げられていたのが本書。エッセイでも有名だとクラシック好きの家人からきいて初めて知った。

読んでみたら、甘ったるさの欠片もない硬派な文章。それがすごくいい。他の彼女のエッセイも読みたくなった。

この中では、久野久という人の生涯が一番、印象に残った。指から血を流しながら演奏する姿、今までの人生が全て否定されるような事態。ドラマのような人生を送った人が本当にいたのだ。

同様に全く知らない、オーストラリアの野生児アイリーン・ジョイスや、24歳からピアノを本格的に習い始めて、アメリカでドル箱スターになったパデレフスキー(後にポーランドの首相になる!)のエピソードもとても面白かった。

ピアノ(以外の多くの楽器も含めて)は全く弾くことができないワタシ。音符も読めない。もちろん楽譜も読めない。でも、関する本は読める(と自分では思っているだけで、本当は読めていないのかも知れないけれどね)ま、知らぬが仏ってことで。

では、また。


ピアニストという蛮族がいる (中公文庫)
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積ん読

2012-04-06 | days







本を収集するとかキレイに並べるというような高尚な趣味は私にはないので、再読する可能性のある本と未読の本がただてきとーに置いてあるだけ。昔は四畳半の部屋に本棚が6本もある生活をしていて、凝った並べ方をしていたので、随分変わったものだ。スペースに余裕があると、そのスペースを最大限活用するという美しい心が失われてしまったのだと思う。何事も足りないくらいが良いのだろう。

しかし基本的には、本は読めればいいし、テキストがあればいいという、テキスト原理主義者。勿論、装丁や、活字の使い方を愛でることもないわけじゃないけれど、それが本を読むことに常に付随してなくてもいい。

だとすれば、iPadやkindleで本を読んだり、青空文庫でもいいはずなのに、それもまた違う。と思う私は意味不明。

思う私は・意味不明(=7・5調で音読するとちょっといい)(どうでいいけど)

では、また。


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『オレンジの壺』宮本輝

2012-04-05 | books

「オレンジの壺」宮本輝 1996年 講談社文庫(1993年 光文社単行本 初出CLASSY1987年9月~1992年3月)

夫から石のような女だと言われ、たった1年の結婚の後離婚した佐和子。祖父が遺言で、自分に日記を遺していたのに全く興味がなかった。思い出して、その日記を読んでみたら、1922年にヨーロッパに渡って、紅茶やスコッチウイスキーの輸入代理店になった頃の苦労が描かれている。しかし書かれているのはそれだけではなく、第一次大戦と第二次大戦の間の謀略と複雑な人間ドラマがあって…

うむ。ネタと構成と人物情景がすごくいい。ちょっとずつ謎が解かれていく様はすごく好奇心をくすぐるし、自称つまらない女、佐和子、佐和子と一緒に謎を解く滝井、佐和子の祖父、彼をめぐる人間たち、みな魅力的だ。

しかし歴史的な事柄について登場人物の吐く台詞が、後知恵でつけた感じがすることが多い。例えば、ヒトラーが危険な人物だと、後の時代に生きる我々は知っているが、それを当時の人物の言葉を借りて、彼は危険な人物だと語らせても、説得力も意外感もない。同時代に生きた者がなぜそう考えたかを読みたいのに。

また、雑誌新聞の連載らしく、謎は一部は解決されないまま終わる。それにはそれほど不満はないけれど、以上の二点が難点と言えば難点か。

傑作が多い宮本輝作品の中では、低い評価になってしまった。それでも面白かったけれど。

Amazonのレビューの中でミッキーという方がこんな風に書いている

ストーリーの構成事態は、非常に面白いとはいえ唸るほどではない。けれども宮本輝にしかできないような人物の心の機微の描き方や、その職人芸ともいえる文章力はさすが。宮本輝の本が他の唯川恵や林真理子らの本と同じ価格で売られていると思うと不思議な気がする。


唯川恵も林真理子の本もあまり読まないので分からないが、確かに、この人の本とあの人の本が同じ値段なのか…と思うことはある。

では、また。



新装版 オレンジの壺(上) (講談社文庫)
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面白い・ツマンナイ

2012-04-04 | days
ある知り合いは結構、衝動的に物事を決めてしまうそうだ。そんな風には全然見えないので意外。衝動的に動いてしまって今では深く後悔していることが少なくないらしい。

ワタシと言えば、何かを衝動的に決めたこと、なんて記憶にない。もちろんあるのだろうけれど、覚えていない。常に自分の行動の理由を求めているので、何かして後で後悔することはほとんどない。行動の理由そのものが変化したら、その行動そのものも変更するので(これをフレキシブルというのか朝令暮改というのか…)、これまた特に問題なく生きている。そうそう。ワタシの生き方を、ツマンナイ生き方と言うのだ。

衝動的に生きている人をうらやましく思う…ということは全くなく、だからと言ってワタシのように常に何かを考え考え考えている生き方もそれほどいいわけでもない。なんつーか、突破力がないわけよね。

ブルース・リー先生がおっしゃるように、「考えるな、感じろ」なんだろうとも思うし。

ただ、まーいけないのは、衝動的に生きようが、考えながら生きようがその良くない側面に他人を巻き込むことなのだろうけれども。

まあ、ワタシが人様に物を言うあれでもないので、こんな場末のスナックでぼそぼそ言っとるわけですけどもね。

ぼそぼそ。

と同時に、ワタシのようなツマラナイ人より、大方の人たちは面白い人の方が言うだろうし。しかし特に面白くなりたいというわけでもないのだけれどもね…

ぼそぼそ。

では、また。
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『罪悪』フェルディナント・フォン・シーラッハ

2012-04-03 | books

「罪悪」フェルディナント・フォン・シーラッハ 東京創元社 2010年
SCHULD, Ferdinand von Schirach 2010

「犯罪」の作者による続編。現役の弁護士が現実の事件にヒントを得て書いた短編集。

前作ほど、びっくりするようなひねりとかオチはないけれど、それでも私には結構好み。

基本的には救いがないのがまたいい。全く無実なのに24件の児童虐待の罪で三年半刑務所にいた男の話、[「子どもたち」 スワッピングが至る先にある不幸、「間男」 遺体の写真を持っていた男の話、「アタッシュケース」 が特に印象に残った。ラストの「秘密」は、結末にツッコミを入れるべきかスルーすべきか迷う。

では、また。


罪悪
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ステキな食材

2012-04-02 | days





じゃがいもがすごいことに。

めでたい・・・ってか?

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『地層捜査』佐々木譲

2012-04-01 | books

「地層捜査」佐々木譲 文芸春秋社 2012年 (初出オール讀物2010年10月号~2011年4月号)

15年前に起こった四谷のアパート経営者の老女殺害事件。事件に関わったと噂されたという政治家が警察に真犯人を挙げろと圧力をかける。そして始まったたった二人の再捜査。バブルも終わろうかという時代、地上げ、暴力団、四谷の芸者…

うーむ。読んでいる途中では、2サスの原作っぽい感じの「秀作」(=傑作というほどでないけれど、駄作というほどでもない作品)だとしかレビューには書けないなと思っていた。

読みやすいことは読みやすいけどなーと思っていたら、3/4を過ぎた頃からちょっと面白くなってくる。所謂「読者に対して、作者によるフェアーな闘い」を挑んでいるのではないので、(注意深く読んだ読者が)途中で真犯人が分かるようになっているわけじゃない。本格ミステリじゃなけど、それでOK。意外な展開が巧い。これは流石。

四谷というかなり狭い土地で繰り広げられる超ローカルミステリと呼んでおこう。秀作と傑作の間くらいに位置するんだろうと思う。(佐々木譲の真骨頂は北海道警察シリーズとか警官という生き方を問う作品にあると思っている。本作は他の作家でも書けるように思うという意味で、傑作とは違うと思う。傑作=ただ面白いだけじゃいけないと思うのだけどどうだろう)

真の男は、ただイケメンなだけじゃいけないと思うのだけどどうだろう?

では、また。



地層捜査
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