頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『よるのふくらみ』窪美澄

2014-04-17 | books
カバーをかけないで電車内で読むのが若干恥ずかしくなるタイトルは「ふがいない僕は空を見た」の作者による連作短編集。

みひろは保育士。昔からよく知っている圭祐と付き合っている。結婚も考えている。一緒に暮らしている。セックスしたい。でも圭祐は忙しくて疲れていてなかなかしてくれない。裕太はみひろと同じ歳。みひろと同じ高校に行きたくて頑張って勉強して同じ高校に入った。しかしみひろは兄の圭祐にとられてしまった。みひろと、インポになってしまった圭祐と、みひろのことが好きな裕太。三人それぞれの視線で描く恋模様…

うーむ。せつない。あったかい。悲しい気分なのに嬉しい気分。矛盾した気分が同時にやって来る。

話は地味だけど妙にリアル。かゆいところに変な方角から手が届くほどにリアル。

ぼかぁーすきだなぁ こうゆうはなし(たぶん森田健作風)

セックスをリアルに話に織り込むのが巧い。

隣の和室まで、ずるずると布団を引っ張り襖を閉めた。灯りを消して、里沙さんを抱いた。里沙さんのやわらかい体は、いくらきつく抱いても、自分のなかから逃げていくような気がした。みひろと里沙さん、ふたりへの思いをだらしなく心のなかに飼っていた俺と同じように、里沙さんが、俺とだんなさんのことを考えていたかどうかはわからない。やさしい里沙さんがついた嘘かもしれない。そう思いながら、まだかすかに、里沙さんにだんなさんより愛されていたい自分もどこかにいた。ゆるゆるとあたたかい里沙さんの体のなかに収まりながら思っていた。里沙さんは今まで会った人のなかでいちばんくらいやさしい人だ。やさしくて、そして、だらしなく人を許す。

よるのふくらみ

今日の一曲

作者は窪。くぼ。ぼく。ぼく、ドラえもーん。と言えばどこでもドア。ということで、ドアーズの「ハートに火をつけて」Light My Fire



では、また。
コメント    この記事についてブログを書く
« 『歴史が面白くなるディープ... | トップ | 『養鶏場の殺人 / 火口箱』ミ... »

コメントを投稿